落葉松亭日記

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イスラム国

2015年11月12日 | 世相
ISはイラク戦争後、米軍が撤収した後の空白に誕生したと云われる。
過激なイスラム原理主義に基づき組織的に膨張を続けている。
根底にはキリスト教とイスラム教の対立があるらしい。シリアなどは内戦で崩壊の危機にある。
一方穏健なアラブ諸国イスラム教の人々は寄り暮らしやすいヨーロッパの国々を目指して移民を始めている。
穏やかな神道と仏教の国日本からは想像も出来ない事態、あらためて平和の有り難さを思う。
■「加瀬英明のコラム」メールマガジン 2015年11月12日
http://www.kase-hideaki.co.jp/magbbs/magbbs.cgi

膨張を続ける「イスラム国」

 「イスラム国」(IS)がイラクとシリアにおいて、勢力を大きく拡げている。
 ISはいまや世界にとって、中東における最大の脅威となっている。
 ロシアはソ連時代からアサド政権を支援してきたが、シリアの地中海沿岸に海軍基地を保有してきた。10月に入ってからロシア空軍機がアサド政権を守るために、ISや、反政府勢力に対する空爆を開始した。

 ISの支配地域はシリアの半分以上と、イラクの大きな部分にわたるようになっている。
 どうして、ISは2013年に出現してから、ごく短期間のうちに、このような大きな成功を収めることができたのだろうか。

 ISはオバマ政権がイラクから2011年に、アメリカ軍の実戦部隊を完全に撤退させてしまったために、生まれた空白を埋めて、勢力を拡大するようになった。
 ISはオバマ政権が生んだ、鬼子である。
 イラクでは、現シーア派政権のイラク国軍の戦意が低く、ISから攻撃されると、アメリカから与えられた高価な戦車など捨てて逃げてしまうのと、アル・ノストラと改称したアル・カイーダを含めて、シリアの反政府勢力が70以上の派に分裂しているために、武器、資金が潤沢なISを阻止できない。
 そして、ISは何よりも、最高指導者がイスラム教の救世主である、マハディを自称することによって、イラク、シリアだけでなく、アメリカ、ヨーロッパをはじめ、全世界の百ヶ国以上から多くのイスラム青年を戦闘員として引き寄せる、強い力を発揮している。

 イスラム教は、ユダヤ・キリスト教を受け継いで、この世の終末に救世主(マハディ)が現れて、善と悪のあいだに凄惨な最後の戦いが繰りひろげられた後に、地上において神の支配が実現すると、教えてきた。
 「マハディ」という言葉は、イスラム教徒の胸を揺さぶる。だから、アル・カイーダが全盛期に、アラビア語で「基地」を意味する「カイーダ」を名乗っていたよりも、はるかに大きな訴求力を持っている。
 マハディは、ユダヤ・キリスト教で救世主を意味する、キリストに当たる。

 これまでISに全世界から、3万人以上の青年が参加したと推定されている。
 私たち日本人にとっては、このような宗教的な熱狂を理解することは、難しい。
 イスラム教にとって親であるユダヤ・キリスト教も、世界が終末を迎えるに当たって、救世主(キリスト)が地上に再臨(パルーシヤ)した後に、神の国がもたらされると定めている。
 イエスが降臨した時に多くのユダヤ人が、イエスが人々にキリストとして、来たりつつある世界の終末が、まじかに迫っていることを伝えるために、現われたと信じた。イエスも新約聖書のなかで、しばしば「神の国は近い。悔い改めよ」と警告している。
 このような信仰は、今日でもアメリカのキリスト教徒の一部で、生きている。

 アメリカでは、世界の終末が迫っていると真面目に信じて、その日に備えて要塞のような堅固な家や、退避壕をつくって、武器や食糧や、燃料を備蓄している人々が少なくない。
 英語で宗教は、レリジョンreligionという。ヨーロッパ諸語は同じ根から発しているが、その語源はラテン語で「束縛する」を意味する、「レリギオ」である。

 日本では明治に入るまで、日本語に「宗教」という言葉が存在しなかった。
 「宗教」は明治に入ってから、新しく造らねばならなかった訳語の1つである。
 宗教は恐しい。それまで日本には、宗派が他宗を排斥することがなく共存したから、宗派、宗門、宗旨という言葉しかなかった。

 イスラム教は、まだ1400歳の若い宗教だ。キリスト教がこの年齢だった時には、カトリック(旧教)とプロテスタント(新教)による宗教戦、異端裁判、イスラム教との戦いや、ユダヤ人虐殺に明け暮れていた。

中東かわら版 2015/09/04 No.82
No.82  EU諸国への移民殺到の問題
http://www.meij.or.jp/kawara/2015_82.html

 地中海を渡海してギリシャへ密航を試みたシリア人らの船が沈没し、死亡したシリア人の幼児の遺骸が各種報道機関で大々的に取り上げられたことにより、中東からEU諸国への移民の殺到が注目を浴びた。中でも、シリアでの紛争から逃れてEU諸国に向かう者たちの問題が提起され、EU諸国などの政府や社会がなすべきことについての議論が活発化した。もっとも、世界各地から雇用、高所得、高福祉を求めて紛争地以外の地域を含む世界各地からの移民がEU諸国に殺到する現象は数年前から続いており、EU諸国の間で移民受入れや国境管理の負担をいかに分担するか、或いは雇用と福祉を巡る現地社会の不満などの問題が顕在化していた。

 今般の幼児死亡の例で注目された、地中海東岸からギリシャに向かう経路は、最も頻繁に利用される密航経路である。このほかにも、リビア、チュニジアなどからイタリアに向かう経路もよく利用されている。海路での密航は、密航斡旋業者による杜撰で非人間的な手配による苛酷な環境や、船の難破による死者が相次いでいるとして問題視されている。2015年にこの経路を利用して密航を試みて死亡した者は2600人以上に達している。その一方で、BBCの報道によると2015年にEU諸国で確認された移民は35万人以上であり、そのほとんどが海路で密航した者である。つまり、海路での密航の成功率は99%を超えているとみられる。

 シリアからの避難民は、既にレバノン、トルコ、ヨルダン、エジプトなどの近隣諸国に多数おり、このうちレバノンとトルコには100万人以上が滞在しているとされる。その一方で、サウジアラビアなどの湾岸の産油国は、「難民」という資格ではシリア人を全く受け入れていない。

評価

 移民たちの移動について、幼児の遺骸という衝撃的な写真により感情的な議論や憤りが先行しているように見受けられる。しかし、事態打開のためには印象論や叙情を排して問題の原因と打開策を考察する必要がある。主な論点は以下の通りである。

なぜ多数の移民が殺到したのか?:
移民の内訳はシリア、アフガン、エリトリア、コソボ、サハラ以南諸国など多様である。紛争地からの移民も、「よりよい条件」を求めて他の行き先との比較考量の中でEU諸国、特にドイツ、北欧を選択しており、シリア人の移動についてはレバノン、トルコなどの現在の滞在地からEU諸国への移動が起きている模様である。
2014年夏に筆者らがヨルダンで行ったシリア人への聞き取り調査でも、北欧諸国での待遇が良いことはシリア人の間で広く知れ渡っていた。また、EU諸国が紛争地からの避難民を積極的に受け入れるとの政策に付け込み、トルコでシリア旅券を偽造する犯罪組織が活動しているとの報道(2015年9月2日付『ハヤート』)もある。つまり、紛争で追い立てられた人々が最後の頼りとしてEU諸国を目指しているのではなく、移民たちなりの合理的判断とそれなりの準備があっての移動が営まれているのであり、この点は危険性が喧伝されている海路での密航の成功率が非常に高いところにも反映されている。

なぜ移民たちはアラビア半島諸国へ向かわないのか?:
アラビア半島の産油国では、シリアをはじめとするアラブ諸国からの出稼ぎ労働者が多数就労している。このため、アラビア半島の諸国がシリア人を全く受け入れていないというわけではない。その一方で、産油国では単純労働者はより人件費の安いインド、パキスタン、バングラディシュなどの人員に、教員や技師などの労働者は自国民への置き換えが進みつつあり、各国ともアラブ人を受け入れる余地は狭まっている。
シリア人について考えるならば、シリア紛争で活動する反体制派の宗派的発想・迫害を見逃すことはできない。反体制派の構成員は外国人戦闘員も含め主にスンナ派であり、キリスト教徒やその他の宗派の信徒への攻撃・虐待の事例は枚挙に暇がない。
反体制派には、サウジをはじめとするアラビア半島の諸国から様々な資源が供給されており、非スンナ派のシリア人が安全を求めるならば、EU諸国が逃亡先として有力となるのはやむをえない。また、スンナ派も含むシリア人たちが身の安全だけでなく政治的・社会的な自由を希求して国を離れているとするならば、政治的な自由がないアラビア半島の諸国は行き先として好ましくない。

事態打開の展望は?:
現在の欧米諸国、トルコ、一部アラブ諸国のシリアに対する政策は、「反体制派がアサド政権を打倒することは不可能で、万が一それができたとしても体制移行や社会・経済再建の構想も皆無であることは自覚している」、「自らが大規模な地上兵力の投入などにより介入してアサド政権を打倒するつもりはないが、反体制派にはアサド政権打倒に必要な資源を与えるつもりもない。反体制派にも援助の受け皿はない」、「反体制派にはアサド政権への攻撃を続け、紛争を長期化させることができる程度の援助はする。援助の行き先はイスラーム過激派でもかまわない」、「隣接国に避難したシリア人を社会に包摂するつもりはない」と特徴付けることができる。
これは紛争を長引かせてシリアの社会・経済を破壊し、犠牲者を増加させ、避難民を困窮させるだけの政策である。シリア紛争の勃発と激化の責任をアサド政権とその支援者(イランやロシアなど)に帰すのは簡単だが、現在の状況でアサド政権を打倒しても、シリアの政治・軍事勢力としてはイスラーム過激派の武装勢力が残り、シリア人の苦境が増幅するだけである。

以上に鑑みると、避難民に物資を与える、EU諸国が受け入れを増やす、アラビア半島諸国に受け入れさせるなどの対策はその場しのぎに過ぎない。
また、シリア紛争に対する関係諸国の中途半端で無責任な政策は避難民を増加させ、EU諸国へ移民を殺到させる原因のひとつである。
移民の殺到は一見EU諸国の問題のように思われるが、移民が発生する原因を考えればシリア紛争の激化のような中東の政治・経済・社会問題でもある。
シリア紛争に着目するならば、EU諸国が「大規模に介入してアサド政権もイスラーム過激派も一掃する」、「アサド政権打倒の目標を放棄し、紛争の終結のめどを立てる」などの本質的な政策を講じ、そのために必要な負担をすることが必須である。

(岡上席研究員)

動画:「欧州への移民ルート」をアニメーション解説 2015年11月10日
http://www.afpbb.com/articles/-/3066129

【11月10日 AFP】欧州連合(EU)の欧州委員会(European Commission)は5日、シリアとその他の紛争地域から戦争や貧困を逃れて欧州に流入する移民の数が、2017年までに300万人に達する見通しと発表した。EU経済に対しては多少のプラスの影響を及ぼす可能性が高いという。(c)AFP


■クローズアップ現代「イスラム国 世界に広がる脅威」