『サイバラバード・デイズ』 イアン・マクドナルド (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)
《新☆ハヤカワ・SF・シリーズ》の第3回配本は、前回の『第六ポンプ』に続き、アジアンSF。
パオロ・バチガルピの『第六ポンプ』が東南アジア(一部アメリカもあるけど)の未来を描いた陰鬱な作品だったのに対し、こちらはネパールとインドを舞台にIT大国繁栄の未来を描いた作品。陽気というわけでもないけれど、未来への希望にあふれている。しかし、そこに描かれる物語は悲劇的であったり、悲しいまでに喜劇的であったりもする。
イアン・マクドナルドといえば、代表作で名が上がるのは『火星夜想曲』だ。しかし、俺はあの連作をあまり面白いと思っていなかった。SFファンの高評価をいつも不思議に思っていた。だって、あれ、読んでると寝るし。
しかし、『サイバラバード・デイズ』はまったくの正反対。物語に引き込まれて、寝るのを忘れるくらいだった。
その差はどこにあるのかよくわからないけれど、描かれる世界のリアルさや、登場人物たちの生き方が全く違うと思う。『火星夜想曲』の方は、書割を前にのっぺらぼうな人形が演じる寓話劇にしか見えない。しかし、『サイバラバード・デイズ』の主人公たちが生きる世界のリアルさは比較にならない。
それは、現実の火星とも全く違う寓話の火星を舞台にした作品と、現実と地続きのインド、今まさにIT大国として飛翔しようとしている近代文明と古代文明のごった煮の国を舞台した作品という性格の違いから来ているのかもしれない。
そしてまた、この作品はインドの未来を描いた地域SFであるとともに、人工知能の成長と解放を描いた作品でもある。彼ら人工知能が生まれる土壌がインドであるというところも、なかなか示唆的であっておもしろい。
序盤から繰り返しギャグのように使われるテレビドラマの〈タウン・アンド・カントリー〉も、冗談のような結婚相談所も、すべては人工知能との静かな闘争へとつながっていき、ついには遥かな世界への開放へと至る。そして、人々もまた、新たな世界へのポータルを手に入れるのだ。
このサイバーなストーリーが、古来の文化を残すインドを舞台に展開されるのだから、このミスマッチな新鮮さがたまりませんな!
「サンジーヴとロボット戦士」
男の子はいつでもロボットが大好き。でも、戦争という現実は……。
「カイル、川へ行く」
カーストの壁とネット世界への開放。いわば、これが作品全体の縮図なのか。
「暗殺者」
未来のおとぎ話的なお話。インドという社会と未来技術のごった煮。しかし、そこで描かれる社会と技術はかなりえげつない。
「花嫁募集中」
AIの恋愛指南と、ちょっとBL風味。
「小さき女神」
生き神クマリだった少女が別な意味での女神に生まれ変わって生きるまでの半生。
古来の風習と未来の技術の間で大きく人生を狂わされる少女が、時に悲しく、時にいとおしい。
もうひとつのAIの物語が大きく動き出すきっかけの「ハミルトン法協定」についても語られる。
「ジンの花嫁」
AIの花嫁になった美女の話。そして、AIは彼女を愛するがゆえに、最後の飛翔の手段を遂に手にする。
「ヴィシュヌと猫のサーカス」
なんとなく、『エンダーのゲーム』をパロったような3人兄弟の話。AIによって開かれた世界へ、人間たちも移住し、サイクルは閉じられる。
《新☆ハヤカワ・SF・シリーズ》の第3回配本は、前回の『第六ポンプ』に続き、アジアンSF。
パオロ・バチガルピの『第六ポンプ』が東南アジア(一部アメリカもあるけど)の未来を描いた陰鬱な作品だったのに対し、こちらはネパールとインドを舞台にIT大国繁栄の未来を描いた作品。陽気というわけでもないけれど、未来への希望にあふれている。しかし、そこに描かれる物語は悲劇的であったり、悲しいまでに喜劇的であったりもする。
イアン・マクドナルドといえば、代表作で名が上がるのは『火星夜想曲』だ。しかし、俺はあの連作をあまり面白いと思っていなかった。SFファンの高評価をいつも不思議に思っていた。だって、あれ、読んでると寝るし。
しかし、『サイバラバード・デイズ』はまったくの正反対。物語に引き込まれて、寝るのを忘れるくらいだった。
その差はどこにあるのかよくわからないけれど、描かれる世界のリアルさや、登場人物たちの生き方が全く違うと思う。『火星夜想曲』の方は、書割を前にのっぺらぼうな人形が演じる寓話劇にしか見えない。しかし、『サイバラバード・デイズ』の主人公たちが生きる世界のリアルさは比較にならない。
それは、現実の火星とも全く違う寓話の火星を舞台にした作品と、現実と地続きのインド、今まさにIT大国として飛翔しようとしている近代文明と古代文明のごった煮の国を舞台した作品という性格の違いから来ているのかもしれない。
そしてまた、この作品はインドの未来を描いた地域SFであるとともに、人工知能の成長と解放を描いた作品でもある。彼ら人工知能が生まれる土壌がインドであるというところも、なかなか示唆的であっておもしろい。
序盤から繰り返しギャグのように使われるテレビドラマの〈タウン・アンド・カントリー〉も、冗談のような結婚相談所も、すべては人工知能との静かな闘争へとつながっていき、ついには遥かな世界への開放へと至る。そして、人々もまた、新たな世界へのポータルを手に入れるのだ。
このサイバーなストーリーが、古来の文化を残すインドを舞台に展開されるのだから、このミスマッチな新鮮さがたまりませんな!
「サンジーヴとロボット戦士」
男の子はいつでもロボットが大好き。でも、戦争という現実は……。
「カイル、川へ行く」
カーストの壁とネット世界への開放。いわば、これが作品全体の縮図なのか。
「暗殺者」
未来のおとぎ話的なお話。インドという社会と未来技術のごった煮。しかし、そこで描かれる社会と技術はかなりえげつない。
「花嫁募集中」
AIの恋愛指南と、ちょっとBL風味。
「小さき女神」
生き神クマリだった少女が別な意味での女神に生まれ変わって生きるまでの半生。
古来の風習と未来の技術の間で大きく人生を狂わされる少女が、時に悲しく、時にいとおしい。
もうひとつのAIの物語が大きく動き出すきっかけの「ハミルトン法協定」についても語られる。
「ジンの花嫁」
AIの花嫁になった美女の話。そして、AIは彼女を愛するがゆえに、最後の飛翔の手段を遂に手にする。
「ヴィシュヌと猫のサーカス」
なんとなく、『エンダーのゲーム』をパロったような3人兄弟の話。AIによって開かれた世界へ、人間たちも移住し、サイクルは閉じられる。