タイトルだけでもやたらと有名な、あの「冷たい方程式」を含む短編集。
もともとは〈SFマガジン・ベスト 1〉として出版された短編集の新版という触れ込みなのだが、旧版に収録されている作品は表題作のほかは1篇だけというまったくの別物。
1950年代から60年代初めの、SF黄金期の名作を集めた短編集なのだけれど、現代から見て古びてしまった作品は敢えて削除しているとのこと。
たしかに、コンピュータがカチカチとリレーの音をたて、表示はアナログメーターとランプで、出力はリールテープであっても、テーマ性や物語は全く古びていない作品が並ぶ。こういうものを読むと、SFの魂みたいなものは、昔から変わっていないんだなと実感する。
テーマ的には、後の作品にパクられたりインスパイアさせたものも多いが、オリジナルの持つ力は健在で、新鮮味を失われていない。逆に、これぞ原典という古びなさをしっかりと感じ取れる作品ばかりになっている。
温故知新という言葉があるが、まさしくそのために現代に復活したアンソロジーと言えるんじゃないだろうか。
「徘徊許可証」 ロバート・シェクリイ
地球から遠く離れた惑星で営まれていたユートピア。そこに、戦争に明け暮れた地球からの指令がやってくる。犯罪さえも含む文化とは何かという皮肉がよく利いている。
「ランデブー」 ジョン・クリストファー
SFというよりはファンタジック・ホラーなのだけれど、理屈の組み立て方がうまいミステリになっている。
「ふるさと遠く」 ウォルター・S・テヴィス
これって、タイトルに二重の意味があるのだよね。ふるさと遠く離れたアリゾナに出現した鯨。そして、それが可能であると知った少年は、やはり、ふるさと遠く離れたどこかへ……。
「信念」 アイザック・アシモフ
旧版から再録された数少ない作品のひとつ。“科学”とは何かということがわかりやすく明確に書かれている。放射能やら電力不足やらにおびえる現代の日本人こそが読むべき作品。
「冷たい方程式」 トム・ゴドウィン
かの有名な悲劇的作品。このシチュエーションで、何かうまい解決方法がないものか、SF作家もSFファンも、これまで何十年も考え続け、これから何十年も考え続けるだろう。
「みにくい妹」 ジャン・ストラザー
今、明かされる! シンデレラの真実! 笑っていいものかどうかがよくわからない。
「オッディとイド」 アルフレッド・ベスター
すべてが自分の思い通りにできる人物にとっても、深層意識(イド)はどうにもならないということ。要するに性悪説なんだけど、妙に説得力がある。他の同様作品と違って、本人に悪気がないどころか、本人は気づいてさえいないというところがポイント。
「危険! 幼児逃亡中」 C・L・コットレル
これも同様作品が多いが、強力な超能力を幼児(といっても、この作品では8歳)が持ってしまったら。ひとつ前の作品との相乗効果で、この悲劇的結末が正当化しないわけにはいかない。サンデル先生にも聞いてもらいたい正義の話。
「ハウ=2」 クリフォード・D・シマック
デアゴスティーニ商法の話かと思いきや、大きく世界を変えるかもしれないロボットたちの話。法廷でのピンチを切り抜けるドタバタ・コメディがメインなのだけれど、SFとしてはその先の未来がどうなっていくのか、いろいろ議論の余地があり、そこが面白いところではないかと思う。