通信訓練を受講されている受講生の手元には、教科書と指導書の2冊が送られます。どちらも印刷教材です。我が国の教育は、殆どこの印刷教材が主流となって行われてきました。視聴覚教材の効果があるからといっても、通信訓練に直ちに導入できないのは、未解決の問題が多くあるからです。高度な通信機器の開発や発展が、今後、通信訓練制度に何らかの変革をもたらすことは明らかでしょう。
幸いなことに、通信訓練を受講されている方々は、ある程度の、それぞれのコースにおける経験者であり、現に仕事に従事している関係で、実技と学科とが交互に検証できる立場にあるので、視聴覚教材(現場の実物教材)が身近にあるわけです。
教材は、必ずしも的確に物事の全てを表現できるとは限りません。教材を作成する側では、事実をそのまま表現することに努めますが、できあがった教材は、強調、抽象化または限定などによって、事実と異なってくることがしばしばあるからです。その原因を考えてみると、教材が持つ限界が分かります。つまり、このことを知った上で、教材を使用することが、自学自習する通信訓練では特に大切な点であろうと思います。
印刷教材では、眼、つまり視覚だけを利用して、知識を理解します。ビデオテープやスライドでは、眼と耳、つまり映像化したイメージを視覚と聴覚とを利用して学習します。
シミュレータや模型では、当然実物を単純化したり、縮小化してあります。機能についても実物に極めて近くしてありますが、実物と全てが同じではありません。したがって、教材とは、ある限られた条件の中で学習する内容であり、模擬化されているということです。
また、人間には五感がありますが、学習する感覚器官が限定される点も事実認識を曖昧にします。出来る限り、多くの感覚器官を利用した方が習得も早いので、実物教育が最適であるといわれるゆえんです。目でモノを見る、音や振動を感じる、においを知り、皮膚で温度や柔軟性・堅牢性を知る。百聞一見にしかずであり、さらに、聴覚、触覚、臭覚を加味することによって、より確実に理解し、記憶することが技能習得には大切であるといえます。(次回へ続きます)