ところで、欧米の企業では職務中心に人を張り付け、ジョブウェジ(職務給)をベースにパフォーマンス(成果)で賃金を決めるのに対して、我が国の企業では、賃金はジョブで決定されるのではなく、人間中心、各人の能力に対して賃金が決定され、また職務はローテーションなどによって変わるのが一般的である。従って、欧米に比べて、我が国企業においては、個々人の人事考課を決定するまでに大変手間がかかるのは自明の理であるといえる。具体的には、能力を評価するにあたり、基本的には発揮されたもので判断することになる者の、業務間の違いにも配慮しつつ、更には、その業績を上げた環境や背景をも見なければならない。つまり、直接測定できない事柄までも様々な状況証拠から測定するという大変にきめ細かな対応が必要となるのである。そうでなければ納得は得られないのである。このことは、手間がかかるのと同時に、測定には必ず生じる誤差が大きくなるという危険性をはらんでいることをも意味している。
こうしたことを考えると、能力・業績主義化の中で、今後は、a.直接測定できる項目を拾い集めて整理し、人事考課の中でその評価ウエイトを高めること、b.間接的な事柄までも測定しなければならない測定器で歩こう貨車の精度を高めるために、考課者訓練を徹底的に行うこと、c.測定の誤差を小さくするためには、測定の頻度を高めることが原則であることから、多くの考課者の目で評価するという多面評価制度を取り入れていくこと、等が検討に値すると思われる。
なお、多面評価制度については、a.評価者の範囲として、被考課者の上位資格者(直属の上司+同一部門の上位資格者+業務上係わりのある他部門の上位資格者など)のみならず、直属の部下などの下位者も評価者に加えるか否か、b.評価結果の活用方法として、直接に人事考課に反映させるか、参考にとどめるか、等の問題があるが、各企業の従業員規模、組織のあり方や仕事の進め方、更には文化、風土、従業員の資質などに照らして判断すべきであろうと考える。
3-4管理職と一般従業員の人事考課制度の相違点
省略
3-5人材育成に向けた諸政策
省略
参考:本書の構成は3部構成であり第1部は今回紹介した総論、第2部は委員企業8社の事例報告 第3部は調査結果の分析と考察、巻末には 資料編があり、多くの提言が含まれ、人事制度の詳細を知るには具体的で詳細な記述となっています。
事例研究委員会に参加された8企業の詳細な事例及び分析及びアンケート調査内容の分析・考察については紹介の域を超えると判断されるため、割愛します。必要であれば報告書が同名で経営書院から出版されています。(このシリーズ最終回です)