賦香作用・においについて考えてみたい。においには人が良いにおいという場合には漢字で匂いを用い、いやなにおいの場合は臭いを用いる。ではにおいとは、人が嗅覚によって、とらえる物質が、その人の記憶されている多くのにおいの中からから選ばれて、特定に至る。
その記憶とは、におい物質の単独ではなく、その匂いを記憶するに至った環境経験である。逆ににおいから展開した出来事を思い出すこともある。
におい物質といわれるものは、大別すると天然と合成に分けられる。天然香料の殆どは植物から得られ、農産物である。動物から捕れるものに麝香(ムスク)があり、ジャコウジカやジャコウ牛から採取する。マッコウクジラの腸からでる蝋状の分泌物からは龍涎香(りゅうぜんこう、アンバーグリス)がある。合成香料も自然界からとれ、多くの合成香料は原油やナフサの分留によって生産される。
においを持つ物質は化学的に特定できるが、その数は数千とも数万ともいわれ、複合されると無限大に広がる。熱や風量との関係もあり、ほのかな香りから極端な異臭まで環境によっても変化する。かおりをおそらく「香道の世界」まで引き上げたのは日本人だと思うが、古くは公家の遊びとして発生し、香を嗅ぎ分ける遊びである。香炉と呼ばれる容器に灰を入れ、炭火を熱源とし、雲母板をかぶせ、香木から立ち上る香気を嗅ぐ。東南アジアの奥地に自生する伽羅木は有名な香木で、正倉院に保管されたものを歴代の為政者の中にはそれを削り取り、政争の道具にもされたようである。(次回へ続きます)