においの中で見落としてはならないのはフェロモン(刺激性物質を運ぶという意味)である。個体内で作られ・消費されるホルモンと違うのは個体間での情報伝達に使われる点にある。
フェロモンは性衝動等を起こす体内で作られたホルモン物質で体外へ放出される。種類によっては雄、雌関わりない場合と雄だけ、雌だけが出すフェロモンがある。多くの動物では、フェロモンによって繁殖行動を誘引することはよく知られているが、人間には嗅覚の退化で嗅ぎ分けることは出来ないようである。しかし、多くの女性が使う香水や、男性化粧品の匂いの中に、意図的に入っている可能性があると思うが、定かではない。
言葉を持たない昆虫の世界では、フェロモン物質が意外な行動に利用されている。性フェロモンは前述のとおりであるが、えさを見つけたアリが、巣までの道筋に付ける道標フェロモン、越冬や、交尾のための場所に付ける集合フェロモン、外敵に対して仲間に危険を知らせる警報フェロモンなどがある。また、女王物質といって、女王アリが働きアリに対し、発散する物質で、働きアリの卵巣の機能を抑制し、働きにいそしむために出すフェロモンが知られている。また、修道院での修道女の月経周期が一致するとの研究結果から、女性の腋下部分からでる無臭のフェロモン物質の影響とのことである。
この時期、害虫が発生するが、椿やサザンカの葉には、チャドクガの卵がかえり、毛虫に成長する。小さな樹木は全ての葉を食べられてしまうこともあるが、近辺の椿やサザンカまで被害が及ぶことは少ない。説によると葉を食べられている木が樹木内で作られる毒素が葉から発散され、その毒素を感知した近辺の同種の木々が同じ物質を作り出し、食害に備えるそうである。将にこのメカニズムはフェロモンが個体間の情報連絡に使われている例として興味深い。(このシリーズ最終回です)