(4)殺生石
まだ時間があるので、予定外の那須湯本まで足を延ばすことにする。雲巌寺から約1時間で那須湯本に着く。東北道を境に東は田園地帯、西は山地の感じがする。車窓から見える那須岳も良く晴れている。山に近づくにつれ雑木林の新緑が美しい。我々はカーナビに方向を教えてもらいながらの旅であるが、芭蕉たちはこの広い山地を彷徨するように歩いたことだろう。時間的にも、体力的にも精神的にも大変だったろうと思うことしきりである。
芭蕉は道中、館代から馬に乗せてもらった馬子の求めに答えて
野を横に馬引き向けよほととぎす
と詠んでいる。
那須湯本温泉神社の奥にある殺生石は玉藻の前、実は金毛九尾の狐のなれの果てとして知られている。謡曲「殺生石」は、昔、鳥羽院に仕えた玉藻の前が天子を病気にしたが、化生のものであると見破られ、那須まで逃げてきてここで殺されその執心が石になり多年人を殺めてきたが、旅の僧の供養により悪事をしないと約束して消える、という話である。硫黄の臭いがたちこめる石のごろごろした河原の奥に大きな岩があるのが殺生石である。「おくのほそ道」には所収されていないが、そこに芭蕉の次の句碑があった。
石の香や夏草赤く露あつし
良い天気で帰るのが勿体ないようだったが、車の混まないうちにと一路、帰宅。登戸駅に16時半に着いた。M君運転ありがとう。楽しい旅行だった。(このシリーズ最終回です)