去年の夏、決勝の舞台で敗れ、ヒザを抱えて泣いている少年がいました。
現在、中2になるシュンヤです。
中1から中3までが一緒になっての全国茶帯ト―ナメント大会。1学年ちがうだけでも、かなり体力的な差はありますが、優勝するには技術面でも、また高いレベルが必要となるわけです。
内容的には、かなり押していたので、相手のガ―ドの上への中段回し蹴りばかりでなく、下段などを使い、少し蹴り分けるだけで勝利できたはずの試合でもありました。
でも、それでも負けは負け。
『これからの試合もキビしくなるなぁ‥』
私もシュンヤも、そのように感じたものですが、技術的には、現段階のシュンヤ自身に、特別に何が不足しているわけでもなく、やはり上手な精神コントロールと技の精度を上げて行く‥そんな部分にこだわるしかない!そのように思ったものでした。
私は2年前から、自身が指導している組手スタイルについて‥
『この組手スタイルは、身体能力の差なども埋めて行けるものであり、体力的には多少おとる子にも希望がある‥』
そのように、ずっと言い続けてきたわけです。
古流空手と総合格闘技の間くらいでマトメた組手法。
なぜ空手が一撃必倒を理想としているのか?なぜ武術であり護身術であるのか?
そんな部分を追求し、大切にしたスタイルでもあります。
そんな私の考えを、イチバン最初に理解し、信じた中で実践してきたのがサワであり、シュンヤでした。
だから見た目、二人のスタイルは似ていて、シンプルで技数なども少ない。必要最小限の動きの中、ほとんどジャブすら打たず、試合を組み立てて行きます。
技術的なことを、あまり細かくは書きませんが、その組手理論の軸になるものを、二人はとくに大切にしているからこそ、必要最小限の動きになるわけで、これから年齢と共に打撃力が上がれば、より効果的になることでしょう。
今だからこそ、東海地区の少年部では一番の実力者とも言えるシュンヤですが、高台強化練習会での最初の頃は、実力を発揮できないドコロの話ではありませんでした。
数ヶ月間は、年下のダイに組手で圧倒されるだけでなく、壁に追い詰められ、しゃがみ込んでしまう程の心の折れようで‥(笑)。
でも、そこからの努力は涙ぐましいものとなりましたし、特別に器用でもないシュンヤは、スタイルの軸を大切にするという心の在り方にブレがなく、ただ、ただ、その精度を上げるべく努力してきたように思います。
そして、素直さと人一倍の努力をできる才能を持つ、そんな高台強化練習会に参加する仲間達にも支えられ、少しずつシュンヤは強くなって行ったのです。
頭を丸め、ジッと不動立ちをする、今年の茶帯ト―ナメント大会、開始前のシュンヤ。
『ずいぶん気合いが入っているナァ‥』
と思いましたが、その精神面の在り方は、じつに良い方向へと向かうわけで。
決勝の相手は、中学3年生、体重77キロの強豪。じつに体重差20キロ以上。
大きく正面から打ち合うことはせず、相手の技を見切りながら、少しずつポイントを重ね、最後は延長戦の末、横から崩すように投げて勝利。
そう、ついに優勝。そして昇段となったのです。
シュンヤ→『このスタイルにしてから、練習でも、ほとんど顔に打撃をもらわなくなりました。決勝の相手は、先生より軽かったです♪』
なんと微妙な言葉だとは思いましたが‥(笑)、それでもシュンヤの成長を感じ、ソレをとても嬉しく思えたものでした。
今でも時々、シュンヤの試合映像を観ますが、そのギリギリの精神状態の中、奇跡的な試合をするシュンヤの頑張りには、真の感動があり、胸に込み上げるものがあります。
黒帯を取得した。武道啓明賞だって受賞した。
小さな子供達の面倒見もよく、自主的に手伝いも出来る。
『先生、何か御手伝い出来ることはありますか?』
シュンヤのそんな言葉を、何度、聞いてきたことだろう。
そんなシュンヤの良き成長には、たくさんの人々のサポートと、やはり誰よりも御両親の存在があります。
基本、週に5回、自らの仕事を終え、家事をしながら子供達の稽古への送り迎えを、いつも笑顔でしてくれている、お母さん。
いつもは優しく、もの静かな雰囲気のお父さん。それでも去年、秋の全国大会終了後‥
『シュンヤ!先生が、いつもオマエを上げてくれるからヤって行けるんだ!もっとシッカリしろ!!』
と、そのようにキビしくも、想いある一面を見せていた、お父さん。
そんな御両親の姿勢は、確実にシュンヤやリョウガの兄弟を、良き方向へ導いてくれているのだと思います。
白脇教室で、ある保護者の方が‥
『シュンヤ君は立派ですね‥』
と、言ってくれていたことがあります。
組手スタイルの中の『希望』より、努力を重ねる中で変わって行った、シュンヤのそんな『在り方』は、きっと多くの子供達にとって、確かな『希望』になるはず。
先日の報告会、黒帯を取得したことで、シュンヤから仲間達への挨拶がありました‥
『みなさんのおかげで黒帯を取ることが出来ました!ありがとうございました!』
あの日、ヒザを抱えて泣いていた、一人の少年。
そんな少年が、今、心からの『笑顔』を見せました‥。(^-^)
【今日の一枚】
★写真‥シュンヤ。
【教室長の一言】
☆『シュンヤ、昇段おめでとう!』 (^-^)v