鉄さんはそんな彼に、ことさらの反応もなく、短い説明の後はいつも通りらしく、坦坦と自分の
やることをやって、今は一服といった顔で静かに茶を飲んでいる。
やがて彼はまた短く言った。
「さて今夜は鰈(かれい)の煮付と、鱈のアラ汁だ。これから作る。高さんはラジオでも聞いていてくれ。
飯を食ったら明日の延縄(はえなわ)の仕掛け作りをやるので手伝ってもらう」
言ってから腰を上げた彼は、茶箪笥の脇の棚に載せたラジオのスイッチを入れた。
高さんと呼ばれて高志は一瞬戸惑いを感じた。
いきなり見知らぬ人に、ベンチの隣に肩が触れるほどに接近して座られた気分だ。
しかし不快感はなかった。
むしろ緊張感が解けてほっとした、寛(くつろ)ぎと安心感を覚えた。
やはり知らぬうちに、ずっと張り詰めていたのだろう。そのことに気付いたら、鉄さんの一言が
嬉しくなった。
ラジオからは賑やかな漫才が流れ出した。
「何か手伝うことはないですか」
高志は立ち上がって、流しの傍に立ったが「いい、いい」と鉄さんに断られて、またストーブの
脇に腰を下ろした。
どうやら鉄さんも漫才に耳を傾けているようだ。
高志は早くも自分の知覚が弛んでいくのを感じた。
近頃、ふと気付くことなのだが、目まぐるしく転々と流れ歩いてきたせいか、新しい居所に腰を
下ろしても、さしたる感興も湧かなくなった気がする。
やることをやって、今は一服といった顔で静かに茶を飲んでいる。
やがて彼はまた短く言った。
「さて今夜は鰈(かれい)の煮付と、鱈のアラ汁だ。これから作る。高さんはラジオでも聞いていてくれ。
飯を食ったら明日の延縄(はえなわ)の仕掛け作りをやるので手伝ってもらう」
言ってから腰を上げた彼は、茶箪笥の脇の棚に載せたラジオのスイッチを入れた。
高さんと呼ばれて高志は一瞬戸惑いを感じた。
いきなり見知らぬ人に、ベンチの隣に肩が触れるほどに接近して座られた気分だ。
しかし不快感はなかった。
むしろ緊張感が解けてほっとした、寛(くつろ)ぎと安心感を覚えた。
やはり知らぬうちに、ずっと張り詰めていたのだろう。そのことに気付いたら、鉄さんの一言が
嬉しくなった。
ラジオからは賑やかな漫才が流れ出した。
「何か手伝うことはないですか」
高志は立ち上がって、流しの傍に立ったが「いい、いい」と鉄さんに断られて、またストーブの
脇に腰を下ろした。
どうやら鉄さんも漫才に耳を傾けているようだ。
高志は早くも自分の知覚が弛んでいくのを感じた。
近頃、ふと気付くことなのだが、目まぐるしく転々と流れ歩いてきたせいか、新しい居所に腰を
下ろしても、さしたる感興も湧かなくなった気がする。