伊達だより 再会した2人が第二の故郷伊達に移住して 第二の人生を歩む

田舎暮らしの日々とガーデニング 時々ニャンコと

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ジャコシカ33

2018-04-25 19:59:12 | ジャコシカ・・・小説
鉄さんは力をこめて、テグスを引き揚げる。ほどなくハリに掛かった魚が揚がり始めた。

 獲物はカジカとアブラコにソイだ。時折鰈(かれい)も混ざる。魚種は驚くほど多彩で量も多い。

 しかし延縄は意外なほど短い。

 「今日のわしの頂き分だ」

 鉄五郎はトロ箱に種分けされて収まった獲物を見て、満足気に言った。

 引き揚げられた仕掛けを巻き、魚をハリからはずすだけの作業で、ゴム手袋を履いた指は、すっ

かりかじかんで、感覚が無くなっている

 「風も雪もないので、今日は楽な日だった」

 鉄さんの言葉に高志は返事の声も出ない。冷たい海の上で、この上風が吹き雪が舞ったらどうな

るのか。

 山が海に迫り出し、複雑な形で入り組んだ崖を成している一帯の天候の変わり易さは、容易に想

像が着く。

 突然海が荒れ出し、突風にでも見舞われたら逃げる間があるのだろうか。

 高志の不安に鉄さんは答える。

 「遠くに出たら逃げ切れない。だから冬場の漁は眼の前、家の前だけだ」

 高志は頷いては見たが、なお完全に不安は拭い切れなかった。

 漁を終えた船は、そのまま漁港に向かった。海は一層黒く、重たげな色になっている。

 うねりも出始め、船は速度を上げ始める。

 「また船酔いにやられるのか」

 高志は作業中は忘れていた、昨日の辛さを思い出して、曇天の空を仰いだ。

 「できるだけ遠くを見ていろ」
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