鉄さんは力をこめて、テグスを引き揚げる。ほどなくハリに掛かった魚が揚がり始めた。
獲物はカジカとアブラコにソイだ。時折鰈(かれい)も混ざる。魚種は驚くほど多彩で量も多い。
しかし延縄は意外なほど短い。
「今日のわしの頂き分だ」
鉄五郎はトロ箱に種分けされて収まった獲物を見て、満足気に言った。
引き揚げられた仕掛けを巻き、魚をハリからはずすだけの作業で、ゴム手袋を履いた指は、すっ
かりかじかんで、感覚が無くなっている
「風も雪もないので、今日は楽な日だった」
鉄さんの言葉に高志は返事の声も出ない。冷たい海の上で、この上風が吹き雪が舞ったらどうな
るのか。
山が海に迫り出し、複雑な形で入り組んだ崖を成している一帯の天候の変わり易さは、容易に想
像が着く。
突然海が荒れ出し、突風にでも見舞われたら逃げる間があるのだろうか。
高志の不安に鉄さんは答える。
「遠くに出たら逃げ切れない。だから冬場の漁は眼の前、家の前だけだ」
高志は頷いては見たが、なお完全に不安は拭い切れなかった。
漁を終えた船は、そのまま漁港に向かった。海は一層黒く、重たげな色になっている。
うねりも出始め、船は速度を上げ始める。
「また船酔いにやられるのか」
高志は作業中は忘れていた、昨日の辛さを思い出して、曇天の空を仰いだ。
「できるだけ遠くを見ていろ」
獲物はカジカとアブラコにソイだ。時折鰈(かれい)も混ざる。魚種は驚くほど多彩で量も多い。
しかし延縄は意外なほど短い。
「今日のわしの頂き分だ」
鉄五郎はトロ箱に種分けされて収まった獲物を見て、満足気に言った。
引き揚げられた仕掛けを巻き、魚をハリからはずすだけの作業で、ゴム手袋を履いた指は、すっ
かりかじかんで、感覚が無くなっている
「風も雪もないので、今日は楽な日だった」
鉄さんの言葉に高志は返事の声も出ない。冷たい海の上で、この上風が吹き雪が舞ったらどうな
るのか。
山が海に迫り出し、複雑な形で入り組んだ崖を成している一帯の天候の変わり易さは、容易に想
像が着く。
突然海が荒れ出し、突風にでも見舞われたら逃げる間があるのだろうか。
高志の不安に鉄さんは答える。
「遠くに出たら逃げ切れない。だから冬場の漁は眼の前、家の前だけだ」
高志は頷いては見たが、なお完全に不安は拭い切れなかった。
漁を終えた船は、そのまま漁港に向かった。海は一層黒く、重たげな色になっている。
うねりも出始め、船は速度を上げ始める。
「また船酔いにやられるのか」
高志は作業中は忘れていた、昨日の辛さを思い出して、曇天の空を仰いだ。
「できるだけ遠くを見ていろ」