漁港に着いた時は、早くも粉雪が舞い始め、休憩小屋の前に立った時は、風まで吹き始めていた。
海は早くも苛立ち、ちらちらと白波を見せ始めている。
「こいつはまずいなあ」
小屋の前で鉄さんは、思案顔でつぶやいた。
その時、小屋の戸が開いて赤間猛が現れた。
「船で帰るのは無理だなあ」
いきなり駄目押しの一声をかけた。
「やれやれまた雪中行軍か」
鉄さんはうんざりしたように言った。
「えっ、歩いて帰るのですか」
「まさか、あんたの真似はやらんよ。汽車で入江の上の駅まで行って、そこから歩く。夏なら
15分もあれば着く。たいした距離じゃないが、坂だし雪もある。月が明ける頃には完全に歩けな
くなるが、今ならまだ大丈夫だ」
言いながらも空を眺める鉄さんの顔には、不安がある。
「今日は止めた方がいい。この空模様だと荒れる」
猛も空を仰いで言った。
「この後汽車は夕方まで無い。4時には陽が落ちるから、雪のあの坂道は危険だ」
続けた後で、ぱっと笑い顔になった。
「今夜はわしの所に泊まるといい。久しぶりに一杯やろう。かみさんも娘たちも喜ぶ。うちは賑
やかなのが好きなんだ。鉄さん暫く来ていないから丁度いい。皆喜ぶ。あんたもいいだろう」