時事通信社 2021年4月8日 15:33
楽天グループは8日、昨年4月に本格参入した携帯電話サービスの契約申込数が390万件を超えたと発表した。
昨年12月末時点の契約申込数は約200万件だった。
菅政権の携帯料金引き下げ要請を受け、
au「povoは集客装置」、店に不適切販売指示の罪
景表法、独禁法、電気通信法に違反のおそれも
「povoは集客装置」「povoフック」――。auショップを営む代理店に対しKDDIが配布している販促マニュアルには、そんな文言が並ぶ。
携帯電話大手のKDDI(au)がオンライン専用格安プラン「povo(ポヴォ)」を巡り、上記の代理店向けマニュアルで「povoを宣伝に活用して客を集め、auの大容量プラン等にその場で契約させるように」と指示していたことが、東洋経済の取材でわかった。同社の手法は景品表示法、独占禁止法、電気通信事業法に違反しているおそれがある。
povoはKDDIが3月23日に開始した、月間データ容量20GBで月額税別2480円のプランだ。東洋経済オンラインでは同月26日、NTTドコモがオンライン専用格安プラン「ahamo(アハモ)」をおとりに同社の大容量プランに誘導する「アハモフック」の問題点を指摘した(詳細は「ドコモ、『アハモでギガホ勧誘』景表法違反か」)。
政府要請による値下げの裏で、業界では格安プランへの注目度の高さを逆手に取った不適切販売が横行している。
povoのデメリットを並べ高額契約に誘う
東洋経済が入手したKDDIの代理店向け販促マニュアルには、「povo活用方針:①集客装置として訴求可能 ②au即日成約につなげる」と記されている。ここでいう「auの即日成約」には、当然povoは含まれない。povoはネットでしか受け付けておらずauショップの取り扱い範囲外だからだ。
KDDIは同マニュアルで営業トークのお手本として、「オンライン専用プランは料金面で得だが、その分、店頭や電話でのサポートがない」といったpovoのデメリットを強調するよう指示。そのうえで、auなら直接のサポートが可能なので「auのご利用をおススメしております」と誘導するように推奨している。
KDDIは代理店の成績評価項目の1つとして、auの契約に占める大容量プランの獲得率を使っている。高評価であれば加点される一方、最低評価の場合は減点。つまり、auのプランに加入させる場合は「とにかく大容量プランに加入させないと評価が下がる仕組み」(あるauショップの代理店幹部)だ。
こうした成績次第で、KDDIが代理店に支払うインセンティブ総額は大きく変わる。また、低評価のショップは事実上、強制的に閉店させられることもある。代理店からすれば、povoに客を誘導したところで評価に一切カウントされない。「povoフック」のマニュアルにのっとり、auの大容量プラン獲得に走るのは必然だろう。
東洋経済はKDDIに「povoで勧誘した客をauのプランに加入させるように指示するのは不適切では」と質問した。
するとKDDIからは、「新ブランドであるpovoを告知する目的で行っている。集客装置やフックという言葉は、お客様の関心が高いpovoについてメリットとデメリットを店頭で案内することを意味している」「お客様のニーズに合わせ、安心で大容量プランのau、データも繰り越せるUQモバイルを含めて案内し、適切に提案するよう推奨している」(広報)との回答があった。
だが、KDDIは上述のマニュアルで「auの即日成約につなげる」ように指示している。加えてマニュアルでは、ソフトバンクのオンライン専用格安プラン「LINEMO」を引き合いに設定・問い合わせ方法などオンライン専用プランならではのデメリットを指摘する説明例も掲載。他方で、povoの具体的メリット(月額に1回当たり200円を追加で支払えば24時間データ使い放題になるなど)の説明を促す記述はない。
povoの巨大看板で集客
記者も実際に「povoフック」の営業現場を訪れた。3月28日の日曜日、多くの買い物客で賑わう東京都内のあるショッピングモールの1階に、auショップの出張販売ブースがあった。
そこには、約2メートル四方のpovoの巨大看板が掲げられていた。「新料金プラン povo誕生」の大きな文字が並ぶものの、「オンライン専用」等の文字はない。その近くに張り出されたポスターでは「20GB 2480円」の文字が強調されていたのに対し、「受付やサポートはオンライン専用」という説明はごく小さな注意書きにとどまる。
スタッフが「povoに興味ありますか」と話しかけてきたので「あります」と応じると、「(モール内の)上の階に店舗があるので、そちらで話を聞いていきませんか」と言われ、記者はauショップへと案内された。
イベントブースで伝えた通り「povoに入りたい」と話すと、ここで思わぬ説得を受ける。「少しの間でいいので、いったんauのプランに入りませんか。そうしていただければ1万円キャッシュバックするので直接povoに入るよりお得です。数日後にpovoに変えてよいので」というものだ。
代理店がそこまでしてauのプランを推すのには理由がある。前出のauショップ代理店の幹部は「数日でもauのプランに入ってもらえば他社からの乗り換え獲得件数にカウントされ、店の成績アップになる。すべてはKDDIの成績指標を追うためだ」と話す。キャシュバックの原資については、「KDDIではauへの乗り換え獲得1件ごとに代理店にインセンティブを出しており、1万円くらいならほぼ賄える」(同幹部)という。
KDDIとしては、auショップが「後でpovoに変えればいい」と案内した客のうち、後々povoへの移行を忘れてしまう、あるいはオンライン手続きがわからずauのプランを契約し続ける客がある程度残れば、十分に「お釣り」がくる計算とみられる。
このやり方は「レ点商法」にも酷似する。レ点商法とは、携帯ショップが客に対し、「動画や補償サービスなどの有料オプションに入ってくれればキャッシュバックします。後日、すぐに解約していいです」などと持ち掛け、申し込みの項目にチェック(=レ点を入れ)させ大量のオプションに加入させる手法だ。
客が解約を忘れれば、携帯電話会社には毎月オプションの料金が入り続ける。携帯電話会社にはおいしいが消費者保護の観点から問題とされ、今ではあまり見られなくなっている。だが記者が経験した「povoフック」は、代理店がKDDIの販促マニュアル通りに「au即日成約」を実行しようとした、新たなレ点商法ともとらえられる。
KDDIのpovoを使った一連の販売手法は、法律的に見てもさまざまな問題がある。元消費者庁表示対策課・課長補佐の染谷隆明弁護士は、「オンライン専用の商品を店頭で広告に使う場合には、それをわかりやすく明瞭に表示することが望ましい。店頭で契約できるような誤認を消費者に与える場合、景品表示法違反のおとり広告にあたることがある」と話す。
また、染谷弁護士は「低容量プランを望む利用者に大容量プランを販売するといった場合、『利用者にわかりやすく案内して適切なプランを勧めなければならない』と定める電気通信事業法の適合性の原則にそぐわない」と指摘する。KDDIによる「povoへの加入希望者を誘導してauの契約を取る」趣旨の代理店への指示や、大容量プランの獲得率向上を求める成績指標は、この原則に抵触するおそれがある。
「官製値下げ」が生んだ皮肉な結果
加えて、KDDIが代理店に無償でpovoの宣伝活動をさせていることも問題になりそうだ。染谷弁護士は「家電量販店がメーカーの社員に無償で販売活動支援をさせ、独占禁止法違反の『優越的地位の濫用』に当たるとされた事例がある」と話す。
前述の通り、代理店はpovoへの誘導をしてもそれ自体にメリットはない。「povoフック」がKDDIの主張する、povoの純粋な宣伝や案内を目的とするものだとすれば、それはそれで、対価を支払わず代理店に支援をさせているという独禁法上の問題を指摘されかねない。
携帯大手各社のオンライン専用格安プランの導入は、菅義偉首相の意向を受けた武田良太総務大臣を中心に政府が主導したもの。「官製値下げ」とも揶揄される。消費者の通信費負担を減らすはずだった値下げが、皮肉にも法律違反まで疑われる「povoフック」や「アハモフック」といった不誠実な営業手法を生んだといえる。
一方で、国はKDDIの大容量プラン獲得率を指標とする評価制度などは長らく野放しにしている。携帯電話という老若男女が使う重要な生活インフラで不適切販売が横行している実態に、総務省、消費者庁、公正取引委員会はどう向き合うのか。