ANAホールディングス(HD)の貨物事業が好調だ。けん引するのは米ボーイング製の大型貨物専用機「777F」。4月23日、5都市目の就航地として成田­―米ロサンゼルス線に投入した。成田・羽田空港は中国・上海や韓国・仁川などと貨物ハブとしての競争が激化している。苦闘が続く旅客事業の「穴埋め」をどう果たしていくのか。貨物事業を手掛けるANAカーゴの外山俊明社長に聞いた。

外山俊明(とやま・としあき)
1990年、全日本空輸(ANA)入社。13年貨物事業室副事業室長。14年ANAカーゴ出向。16年より現職。ANA取締役常務執行役員貨物事業室長を兼務。

新型コロナウイルスの影響で旅客事業は深刻な打撃を受ける一方、貨物事業は絶好調です。

ANAカーゴ・外山俊明社長(以下、外山氏):2020年秋以降、貨物専用機を使った貨物便を月900便前後、旅客機を使った貨物便を月1000〜1400便程度運航している。基本的に貿易貨物は海運が中心で、航空は「上澄み」のような需要を取っているため、航空貨物事業はボラティリティー(変動率)が大きい。19年は貨物事業にとって、米中貿易摩擦などの影響であまり良くない年だった。20年はかなり良い年、といった印象だ。

航空貨物の市況が好調な理由は何ですか。また好調ぶりはいつまで続くとみていますか。

外山氏:大きく2つの要素がある。1つは航空需要の低迷で旅客便の運航本数が減り、貨物スペースも減ったこと。経済状況はさほど悪化しておらず、貨物需給が逼迫している。もう1つは海運の影響だ。コロナ禍もあって20年秋から海運の需給が逼迫しており、貨物が海運から航空にどんどん流れている。

 国際航空運送協会(IATA)の予測では、国際線の旅客需要がコロナ禍前の水準に戻るのは24年。程度の差こそあれ、24年にかけ徐々に需要が戻っていくイメージだ。となると、航空貨物の需給の逼迫も徐々に緩和されながら一定期間続くとみている。ただ、海運の需給の逼迫はそこまで長引かない。21年6月までなのか、9月までは続くのか、など意見は分かれるが、そんなに長くは続かない。

国際貨物事業の売上高は20年10~12月期、508億円と前の年の同期と比べ、2倍近くに増えました。利益水準はどうだったのでしょうか。

外山氏:詳細な数字は公表していないが、かなりジャンプアップした。貨物専用機はしっかり営業利益を稼ぎ出している。旅客機による貨物専用便は限界利益、キャッシュを稼いでいくという点では及第点といえる。ここに旅客を乗せられるようになっていけば、それなりの利益水準になっていく。旅客が乗れば乗るほど利益になるということだ。

通常は航空に流れてこない貨物も

国際貨物ではどういった需要が増えているのでしょうか。

外山氏:航空貨物の主役は自動車関連に加え半導体関連や電子部品、さらに医薬品や医療機器だ。商材ごとに運び方は異なる。3つそれぞれでマーケティングチームをつくって、ソリューションを提供している。自動車は20年4~6月ごろは工場が止まっていた。徐々に中国や米国の市場が回復し、メーカーも新車を投入した結果、テストカーの運搬需要も出始めている。

 タイ・バンコク線などは自動車の特殊鋼材などの需要も大きい。通常は重量の問題で航空には流れてこない貨物だが、海運が混乱する中サプライチェーンを維持するためにコスト高を覚悟して航空に流れてくる。

 半導体は5G需要に加え、スマートフォンやゲーム機、PC、OA機器の需要が増えていったことで調子が良い。半導体製造装置の荷動きも大きい。医療関連はコロナ禍当初はマスクなどの衛生商品から始まり、体外式膜型人工肺(ECMO)などに変わり、今は新型コロナのワクチンや医薬品の需要が大きい。

一方で国内貨物は大きな伸びはあまり見られません。

外山氏:宅配便は増えている。宅配大手は長距離を運ぶとなると全国でサービス基準を合わせるため、鉄道やトラックだけでなく航空も使う。ただ国内貨物も旅客便の運航数が減っており、運賃が上がっている。運賃が一定の水準までいくとやはりトラックで、鉄道でという選択肢があるため、国際貨物ほどは増えない。

EC(電子商取引)分野では、米アマゾン・ドット・コムが自前で貨物機を保有する動きもあります。

外山氏:アマゾンには成田空港のネットワークの活用などを熱心に働きかけている。でもアジアで自社のネットワークを築くという動きはまだなさそうだ。一方で我々は独DHLや米フェデックスなどと取引をする中で、国際宅配便に合う路線と時間帯で貨物専用機を飛ばして、活用してもらっている。