ANAカーゴ社長「貨物競争、総合力で中韓に勝つ」
新型コロナウイルスの影響で旅客事業は深刻な打撃を受ける一方、貨物事業は絶好調です。
ANAカーゴ・外山俊明社長(以下、外山氏):2020年秋以降、貨物専用機を使った貨物便を月900便前後、旅客機を使った貨物便を月1000〜1400便程度運航している。基本的に貿易貨物は海運が中心で、航空は「上澄み」のような需要を取っているため、航空貨物事業はボラティリティー(変動率)が大きい。19年は貨物事業にとって、米中貿易摩擦などの影響であまり良くない年だった。20年はかなり良い年、といった印象だ。
航空貨物の市況が好調な理由は何ですか。また好調ぶりはいつまで続くとみていますか。
外山氏:大きく2つの要素がある。1つは航空需要の低迷で旅客便の運航本数が減り、貨物スペースも減ったこと。経済状況はさほど悪化しておらず、貨物需給が逼迫している。もう1つは海運の影響だ。コロナ禍もあって20年秋から海運の需給が逼迫しており、貨物が海運から航空にどんどん流れている。
国際航空運送協会(IATA)の予測では、国際線の旅客需要がコロナ禍前の水準に戻るのは24年。程度の差こそあれ、24年にかけ徐々に需要が戻っていくイメージだ。となると、航空貨物の需給の逼迫も徐々に緩和されながら一定期間続くとみている。ただ、海運の需給の逼迫はそこまで長引かない。21年6月までなのか、9月までは続くのか、など意見は分かれるが、そんなに長くは続かない。
国際貨物事業の売上高は20年10~12月期、508億円と前の年の同期と比べ、2倍近くに増えました。利益水準はどうだったのでしょうか。
外山氏:詳細な数字は公表していないが、かなりジャンプアップした。貨物専用機はしっかり営業利益を稼ぎ出している。旅客機による貨物専用便は限界利益、キャッシュを稼いでいくという点では及第点といえる。ここに旅客を乗せられるようになっていけば、それなりの利益水準になっていく。旅客が乗れば乗るほど利益になるということだ。
通常は航空に流れてこない貨物も
国際貨物ではどういった需要が増えているのでしょうか。
外山氏:航空貨物の主役は自動車関連に加え半導体関連や電子部品、さらに医薬品や医療機器だ。商材ごとに運び方は異なる。3つそれぞれでマーケティングチームをつくって、ソリューションを提供している。自動車は20年4~6月ごろは工場が止まっていた。徐々に中国や米国の市場が回復し、メーカーも新車を投入した結果、テストカーの運搬需要も出始めている。
タイ・バンコク線などは自動車の特殊鋼材などの需要も大きい。通常は重量の問題で航空には流れてこない貨物だが、海運が混乱する中サプライチェーンを維持するためにコスト高を覚悟して航空に流れてくる。
半導体は5G需要に加え、スマートフォンやゲーム機、PC、OA機器の需要が増えていったことで調子が良い。半導体製造装置の荷動きも大きい。医療関連はコロナ禍当初はマスクなどの衛生商品から始まり、体外式膜型人工肺(ECMO)などに変わり、今は新型コロナのワクチンや医薬品の需要が大きい。
一方で国内貨物は大きな伸びはあまり見られません。
外山氏:宅配便は増えている。宅配大手は長距離を運ぶとなると全国でサービス基準を合わせるため、鉄道やトラックだけでなく航空も使う。ただ国内貨物も旅客便の運航数が減っており、運賃が上がっている。運賃が一定の水準までいくとやはりトラックで、鉄道でという選択肢があるため、国際貨物ほどは増えない。
EC(電子商取引)分野では、米アマゾン・ドット・コムが自前で貨物機を保有する動きもあります。
外山氏:アマゾンには成田空港のネットワークの活用などを熱心に働きかけている。でもアジアで自社のネットワークを築くという動きはまだなさそうだ。一方で我々は独DHLや米フェデックスなどと取引をする中で、国際宅配便に合う路線と時間帯で貨物専用機を飛ばして、活用してもらっている。
いずれ「お祭り騒ぎ」は終わる
貨物事業者にとって、ECの伸長は商品の流通の仕方が店舗経由だったのが直接消費者に届くようになったというだけ。でもそのEC需要をしっかり取っていかなければ成長はない。そこで産業別のマーケティングチームとして4月からEC部門も設けた。これまでもECの担当者はいたが、例えば必要な時間帯で便を機動的に設定するなど、本格的な対応を進めていく。
今の需要増はある種特殊な状況です。長期的に利益を出せる体制を整えるにはどうすればよいのでしょうか。
外山氏:いずれこの「お祭り騒ぎ」は終わる。この間に構造改革を進めなければならない。売上高を伸ばす観点では産業別のマーケティングチームを通じて主役の商材の需要を取っていく。特に医薬品や完成車は誰でも運べるわけではない。指名が来るため、そこにしっかり対応していく。あとは路線ネットワークの再構築やコスト削減を進めていけば、お祭り騒ぎの後も持続的に成長できる。コロナ禍で世の中は変わった。我々も変わるチャンスだ。
競合の日本航空(JAL)は自前の貨物専用機を持っていません。
外山氏:JALは旅客機だけ、日本貨物航空(NCA)は貨物専用機だけで貨物を運んでいる。ANAは両方を使い、旅客ネットワークだけでは足りない路線を貨物専用機で補完している。旅客便の新規就航地を決める際も、貨物需要を踏まえて判断している。太平洋路線は20~25%を貨物で稼ぐ。無視できない水準だろう。そこに貨物専用機を組み合わせるという戦略がコロナ下でうまく働いている。
19年のように市況が低迷すると、大型の米ボーイング製貨物専用機「777F」は「お荷物」とされ、JALのように旅客便の貨物スペースだけで貨物事業を進めるのが合理的だという指摘もあります。
外山氏:どういうスパンで事業を見るかだろう。貨物事業はボラティリティーが高いことを踏まえ、ある程度長いスパンで考える。5〜8年で十分に利益を出していければよい。
航空貨物に関する記事を掲載すると、読者から「旅客機を貨物機に転用すればいいのではないか」との声がよく上がります。
外山氏:ボーイング「767」の転用プログラムはあって、盛んに使われている。でもグループで多くを退役させる「777」用はまだなく、24~25年にならないと出来上がらない見通しだ。そのプログラムがどの程度、信頼性と経済性があるのか注視する。今のタイミングで転用プログラムがあれば食いついていたかもしれない。
貨物スペースをコードシェアで仕入れる
ANAカーゴは那覇空港を重要な貨物拠点として位置づけてきました。今後の戦略はどうなっていくのでしょうか。
外山氏:沖縄県と共同で10年以上、那覇空港を物流拠点として育ててきた。那覇から数時間で到着する範囲に国内外の主要都市が多くある。深夜出発・早朝到着の貨物専用便で急送ニーズを取る算段を描いていた。ただ、国内外の空港間競争の中で他の空港でも深夜発・早朝着の便が増え、相対的に競争力が落ちていた。
沖縄県としては日本中から集めた商材を輸出する狙いがあり、取り組み以前の120倍まで物量が増えている。そこでコロナ下では、ANAはキャッシュを稼ぐために貨物専用機を成田空港に集中させ、需要が旺盛な路線に振り分けていく。コロナ禍前は国内外の航空会社が那覇空港と様々な都市を旅客便で結んでいた。そこでANAが貨物スペースをコードシェアなどで他社から仕入れ、自前のネットワークを組み合わせていく方針を取る。
他社から見ても、貨物需要を持ってきてくれるのはありがたいかもしれないですね。
外山氏:観光客需要を見据えて開設した路線に貨物需要が乗ってくれば、ウィズコロナの中でも復便しやすくなる。貨物だけでなく、観光の振興にもつながる。普段はライバルだが、この件に関しては趣旨を説明すると、是非一緒にやろうと言ってくれる会社は多い。沖縄県も事業に入っているため、中立公平も担保できる。
空港間の競争は激しさを増しています。貨物に関しても韓国の仁川空港は大韓航空とアシアナ航空の統合があり、中国・上海も存在感は大きいです。競争環境をどう見ていますか。
外山氏:一昔前までは取り扱える貨物量がだいぶ劣っていたが、羽田空港が国際化したことで、成田と一体的に考えればそのネックは解消しつつある。加えて、成田空港では貨物地区の改修作業に入っていく。
ANAは後発で、貨物の施設が点在している。新しい施設を空港と組んで一緒につくり、古い施設の一部と隣接させて一体運用する。新施設では画像認識のシステムや自動搬送機などを使いながら徹底的に省人化する。フォワーダー(混載貨物事業者)とのシステム連携を進めて効率化すれば、空港として新しい仁川や上海などとソフト面においても十分に勝負していける。
仁川や上海と比較すると、成田・羽田が持つ優位性は何でしょうか。
外山氏:大きく2つある。1つは大きな首都圏の市場をバックに持っている点でこれは上海も同様だ。2つ目は第3国間の貨物を中継する際の地理的優位性だ。ただこれは仁川も強い。あとは空港の使い勝手やIT(情報技術)インフラの整備、空港に着いた後の道路事情などソフト面の勝負になる。ここを整備して総合得点で勝っていきたい。