「働き方改革」をどう見るべきか
幸福実現党政務調査会ニューズレター No.15 2018.04.13
「働き方改革」をどう見るべきか
政府は6日、後半国会の重要法案に位置付ける、働き方改革関連法案を閣議決定しました。以下、ポイントを整理します。
1.働き方改革関連法案とは
働き方改革について、政府は「一億総活躍社会」の実現に向けた最大のチャレンジとし、同法案を後半国会の重要法案と位置づけています。同法案の主な項目は次の通りとなります。
政府内での議論
- 残業時間(時間外労働)の規制強化
- 同一労働同一賃金の法制化
- 高度プロフェッショナル制度の創設
- 裁量労働制の対象拡大(⇒今回の法案では削除(注1))
(注1)裁量労働制に関する厚生労働省の調査に不適切なデータが相次いで発覚するなど混乱が広がったことが背景にあり、今回の法案では削除されています。
2.各論に対する党政調会の基本的な考え方
(1)残業時間(時間外労働)の規制強化
過度な民間介入に他ならず、規制強化に反対。
残業規制に関して、現状では、残業の限度が月45時間、年360時間に定められていますが、労使協定(労働基準法36条;いわゆる36協定)を結ぶことにより、それを超える残業が可能となっていました。今回の法案では、労使協定を結んで、特別の事情があるとしても、時間外労働を(ⅰ)月45時間超は年6カ月まで、(ⅱ)2~6カ月の平均が月80時間以内(休日労働含む)、(ⅲ)月100時間未満(休日労働含む)、(ⅳ)年720時間以内)と定め、(ⅰ)~(ⅳ)のいずれかに反すれば企業側に罰金、懲役などといった罰則規定が設けられることになります。
しかし、一律に残業規制を行えば、労使双方が不利益を被ることにつながりうると指摘できます。大和総研は、残業規制により全体の残業代が最大で年8.5兆円減少し、雇用者報酬を全体で3%下押しすると見積もっています(注2)。また、法規制強化によりサービス残業が誘発され、本末転倒の状況に陥ることも否定できないでしょう。
企業側の立場に立てば、残業規制の強化により中小をはじめとした各企業が業務の支障をきたし、活動の大きな足かせを受ける可能性があります。また、企業は残業を行わないことにより極端に給料が安くなってしまわないよう、労働時間当たりの報酬を増やす必要に迫られる可能性もあります。今回のような規制の見直しにより、日本経済に悪影響をおよぼすことにもなりかねません。
残業規制強化の背景には、過労死を引き起こすとされる長時間労働慣行の是正を図ろうとする意図がありました。しかし、そもそも長時間労働が過労死の要因であると言い切ることができるのでしょうか。平成25年度の労災認定の際の支給決定理由を多い順に見ると、「仕事内容・仕事量の大きな変化」が55件だったのに対して、「嫌がらせ・いじめ、暴行等」も55件、「悲惨な事故、災害の経験、目撃等」が49件(注3)となっています。これを見る限り、「過労死」の原因を全て「長時間労働」に帰することができるわけではなく、働く側の心の問題にも求められることがわかります。
総じて、残業規制は政府による過度な民間への介入に他なりません。こうした労働規制の強化に反対します。
(注2)大和総研「日本経済見通し:2017年8月(2017年8月18日付)」より
(注3)厚生労働省・平成25年度「脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況」より。尚、同年の全体の労災認定数は436件。
(2)同一労働同一賃金の法制化
法制化に反対。
賃金のあり方については、基本的には企業ごとの自由意志に任せるべき。
同一労働同一賃金とは、正社員と非正規社員との間で不合理な格差をなくし、職務内容が同等の労働者に対しては、基本給や賞与、有給休暇など待遇面において対等に扱われるべきだとする考え方のことを言います。今回の法案では、正規と非正規の不合理な待遇差を解消し、待遇差がある場合には企業側に説明義務を課すとしています。
同一労働同一賃金を進めて、非正規雇用者の賃金を上げるよう制度で押し付けることになれば、企業側にとっては、パート、アルバイト、派遣社員などの待遇改善を行う必要に迫られ、人件費などの面で負担が増大することが予想されます。
一方、労働者側にとっては、非正規社員に対する人件費が上昇するのに伴い、正規社員の賃金が低下する可能性に直面します。また、これまでの待遇であれば雇われていた非正規社員であっても、人件費の上昇により、企業が雇用に慎重になることも考えられます。
そもそも、労働者側から雇用形態として積極的に非正規形態が選ばれているという実態があることからも(注4)、同制度の導入で一方的に正規・非正規間の待遇差の解消を図るという姿勢には疑問を呈さざるを得ません。
賃金のあり方については、企業ごとの自由意志に任せるべきであり、国が介入すべき問題ではないでしょう。同一労働同一賃金の法制化には反対します。
(注4)厚生労働省・平成26年「就業形態の多様化に関する総合実態調査の概況」における「正社員以外の労働者の仕事に対する意識」によると、正社員以外の労働者が、雇用形態として非正規雇用を選ぶ際、多くが「都合の良い時間に働けるため(37.9%)」「家計の補助・学費等を得るため(30.6%)」などとポジティブな理由を挙げており、「正社員として働ける会社がなかったから(18.1%)」とする者は、全体の1/5以下しか存在していないことがわかる。
(3)高度プロフェッショナル制度の創設
制度の対象を拡大すべき。
今回の法案では、柔軟な働き方を認めることで、国際比較上低い位置に留まる日本の労働生産性を改善すべきであるなどとの趣旨から、高度プロフェッショナル制度の導入が盛り込まれています。高度プロフェッショナル制度とは、(ⅰ)年収1075万円以上、(ⅱ)高度の専門的知識等を有する、といった一定の要件を満たす一部の専門職(金融ディーラーやアナリストなど)を労働時間規制から除外するという制度です。
野党側は、この制度を「残業代ゼロ制度」と批判するのに加え、「定額働かせ放題」を許すことで、過労死を促進するのではないかといった指摘をしています。しかし、今の日本経済において労働時間と成果が比例しない仕事は一定以上存在しているはずであり、柔軟な働き方を認めるための環境整備を進めることは必要不可欠であることからも、同制度の導入を推し進めるべきだと考えます。
ただ、今回の法案では、年収が1075万円以上の労働者が対象となっているなど、極めて限定的なものとなっています。アメリカでは、全労働者のおよそ2割が高プロ制度と同様の仕組みで働いているとも言われていますが、日本においても年収要件等を緩和して、同制度の対象をさらに広げるべきというのが、党政調会の見解です。
尚、今回の働き方改革法案では、裁量労働制(注5)については全面撤回していますが、柔軟な働き方を広く認めるべきとの考えから、本来は推し進めるべきものです。産業界からは、日本の労働法制は働き方に関して硬直的なものしか認めていないため、優秀な人材が海外に流出してしまうのではないかと危惧する声も上がっています(注6)。
裁量労働制や高度プロフェッショナル制度など、「時間」ではなく、「成果」をベースとした働き方が主流となることで、企業側から見れば、有用な人材に効果的に報酬を配分することができるとともに、残業という不確定要素が無くなることで、従業員の給与自体のベースアップも可能となります。結果として企業・労働者双方にとって大きな便益が生まれることになるでしょう。
(注5)裁量労働制とは、実際に働いた時間を労働時間とするのではなく、予め決められた時間を労働時間とみなす制度のこと。
(注6)日本経済新聞(電子版)4月7日付「働き方改革 企業に危機感 法案、裁量労働化拡大を全面撤回」より。
3.解雇規制の見直しなど、本来あるべき労働法制についての議論の徹底を
労働生産性の向上による企業収益拡大のために、”働き方改革”を推し進めるのは、本来は企業の自主的な努力に委ねられるべきです。柔軟な働き方を一定程度認める高度プロフェッショナル制度の適用範囲を拡大させるとともに、時間外労働の規制強化や同一労働同一賃金の法制化などに関しては見直しを検討すべきです。
また、過重労働の防止やブラック企業の根絶のためには、対策強化を検討するとともに、本来的には雇用の流動化に向けた取り組みを行うことが必要です。雇用が流動化すれば、労働者側はよりよい環境で働ける企業を自由に選ぶことができるようになり、企業側は質の高い労働者を獲得するために、労働環境の改善に向けた取り組みが迫られることになります。
正規雇用を過度に保護する現在の日本の労働法制は、時代性に適合せず、企業の活力を奪い、労働市場全体をも硬直化させています。必要最低限の法規制によって、労働者の安全と安心を守りつつ、企業経営者の多様な価値観を受容する労働環境の創設こそが、全ての労働者の幸福に寄与すると考えます。
本当の意味で”働き方改革”を進めようとするのであれば、日本は今、解雇規制の見直しをはじめ、本来あるべき労働法制のあり方について議論を徹底する必要があるのではないでしょうか。