コロナ不況、人口減、寝そべり族……もう下り坂の中国経済【澁谷司──中国包囲網の現在地】
2021.07.12(liverty web)
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《本記事のポイント》
- 年収20万円で「小康社会」など程遠く、コロナ感染事情を見ればGDPプラス成長などあり得ない
- 減り続ける人口が経済を萎ませる
- 国力を衰退させる「寝そべり族」の登場
中国共産党は今年、結党100周年を迎えた(1921年7月23日、同党は上海で結党)。しかしその経済発展は、下り坂に入りつつあるかに見える。
年収20万円で「小康社会」など程遠い
習近平・国家主席は7月1日、「小康社会(ややゆとりのある社会)の実現」を宣言している。これは2016年3月、王岐山・中央規律委員会書記(当時)が、第13次5ヶ年計画(2016年~2020年)で掲げた目標だ。
ところが、2020年5月28日、李克強首相は全国人民代表大会の記者会見で「中国には月収1000元(約1万7000円)の人が6億人もいる」と暴露したのである。月収1000元ということは、年収1万2000元(約20万4000円)にしかならない。これでは、1キロ30元(約510円)以上もする肉は食べられない。また、中小都市の1ヵ月分の家賃にもならないだろう。
はたして、月収1000元の人々が6億人(全人口の約43%)も存在する中国が「小康社会」を実現したと言えるだろうか。
GDPプラス成長などあり得ないコロナ感染事情
この貧しさが発展の"伸びしろ"かというと、それも怪しい。
習近平政権は2020年、GDP目標数値さえ打ち出すことができなかった。それにもかかわらず、中国共産党は昨年のGDP成長率をプラス2.3%と公表している。この数字は、にわかには信じがたい。
周知の如く、中国は「新型コロナ」発症国である。中国共産党は、昨年1月のコロナ発症地である武漢市を皮切りに、全国各地でロックダウンや半ロックダウンを実施した。現在に至っても、地域によっては、未だそれが継続している可能性を排除できない。
昨年1月から現在に至るまで、中国では移動が厳しく制限されてきた。例えば、農民工(2020年には約2億8560万人。前年比、517万人減少)で、働いていた元の地域へ戻れない人も多く存在したのである。農民工の不在で、生産に支障をきたした工場も少なくなかったのではないか。
そんななか中国では、消費も投資も冷え込んだ。世界各国では軒並みGDPがマイナスになっているが、中国のGDPだけがプラスになるということは常識的には考えられないだろう。
減り続ける人口が経済を萎ませる
コロナで短期的にはかなり失速していると見られるが、中長期的に見ても相当危ない。人口減少が、経済衰退トレンドにつながる可能性があるのだ。
中国共産党は今年5月31日、今後1カップル「3人までの子供」を承認した。新生児数が年々減少傾向にあることに対する措置である。
中国では1979年、1カップルにつき1人の子供しか産み育てる事ができない「一人っ子」政策が開始された。そして、2014年までの35年間、ずっと同政策が継続された。その間、さまざまな問題が噴出している。例えば、女性への強制的人工中絶が行われたり、戸籍を持たない「闇っ子」が生まれたりした。
中国共産党は2016年、1カップルが2人まで産み育てることのできる「二人っ子」政策を導入している。けれどもその甲斐もなく、子供は増えずに、逆に減少した。
『地産鋭観察V』の記事「人口出生率断崖式下跌,対楼市意味着什么?」(2021年3月4日付)によれば、2016年の新生児は1786万人で、2000年以降最も多く誕生した年となった。だが2017年には1723万人、2018年には1523万人、2019年には、1465万人と減少し、2020年は1004万人まで激減したとも思われる。昨年は、前年比461万人減で、31.5%も減少している。
ジャーナリストの中島恵氏は、中国の新生児減少には次の要因が考えられると指摘している。(1)物価・生活費(不動産・教育費など)の高騰、(2)ライフスタイル、人生観の変化、(3)結婚率の低下、晩婚化、である。
確かに、教育費の高騰は甚だしい。
北京大学中国教育財政科学研究所が2017年に実施した調査によれば、「全国の就学前教育と小中学生教育の一人当たりの年間平均支出は8143元(約14万円)で、中でも農村部は3936元(約6万8000円)、都市部は1万100元(約17万4000円)」にもなったという(『CRI』「中国家庭教育支出調査『収入は教育需要に影響』」2018年1月15日付)。
また「小中学校段階の学生による塾など校外教育への参加率は47.2%に達し、塾の学生一人当たり年間平均支出は5616元(約9万7000円)」だったという。
これでは子供を産もうという人は減るだろう。
国力を衰退させる「寝そべり族」の登場
ライフスタイル・人生観の変化についても、党にとって深刻な"問題"がある。
ごく最近、中国共産党の政策に、真っ向から抗う若者達が登場した。「寝そべり族」(「躺平族」。あえて頑張らない生き方をする若者)という"新人類"である。彼らはマンションを買わず、車も買わない。結婚をせず、子供も産まない。そしてほとんど消費しない。最低限の生活を維持し、他人の金儲けの道具になったり、搾取の奴隷になったりしないようにする。
彼らは、アルバイトをして、ぎりぎりの生活維持をしながら、ゲームなど、自分のやりたいことをして過ごす。決して大きな夢や野望は抱かず、慎ましやかに生きていく。ある意味、自由、気ままなライフスタイルと言えよう。他方、見方によって、このライフスタイルは、「非暴力による政府への抗議」と言えなくもない。
中国共産党は「寝そべり族」の生き方を非難する。だからといって「もっと一生懸命に働け」とは命令できない。彼らの生き方は法に抵触するわけではないので、同党としても、簡単には彼らを収容所送りにできないだろう。
今後、こういう若者が増加すれば、中国の経済成長が見込めないし、国力が衰退するのは間違いない。政府としても頭が痛いのではないか。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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