AIやITがもてはやされる現代だが、機械に頼り過ぎて、じっくりと精神性や人格を磨く、という機会を無自覚に手放している人も多いだろう。

 

本誌11月号の「静寂の中で『真実』を求める 著者と『同通』する読書術」では、本をじっくりと読んでいるうちに、その著者の心境と同通し、"対話"が始まり、「霊的な導き」を得る時間となることを紹介した。

 

その意味では、限られた時間の中で、いかに悪書を遠ざけ、良書を手にするか否か、ということは、その人の人生を大きく左右すると言える。

 

今回、本欄では、現代の経営者を例にとり、異なる角度から読書の意義を見直してみたい。

 

 

イーロン・マスクは「本を読んで初めて、ほかの惑星に行くことを考えた」

スペースX社で民間企業によるロケット打ち上げに成功し、テスラで電気自動車を一新したアメリカの世界的富豪のイーロン・マスクは「火星に人類を送る」という壮大な夢を描いている。

 

公認伝記『イーロン・マスク』(ウォルター・アイザックソン著)によると、イーロンがロケット開発への使命感を抱いたきっかけは、少年時代の読書にあったという(以下の引用は同書)。

 

10代の頃のイーロンは本が大好きで、父親の百科事典を2セットも通読していた。そうした中で、父の部屋で見つけた本に、将来に為される発明の一つとして、ガスではなく粒子を噴射する「イオンエンジン」のロケットが紹介されているのを見た。

 

後年、イーロンはこの時の想い出を、「あの本を読んで初めて、ほかの惑星に行くことを考えました」と語っている。

 

その後、「宇宙はなぜ存在するのか」「人生にどういう意味があるのか」という疑問に頭を悩ませたが、教会の日曜学校の牧師の説明では納得ができない。また、科学は、「宇宙はどのようにあるのか」を説明するだけで、「なぜ」という疑問には答えられないことを知った。

 

 

少年時代、午後から夜まで9時間ぶっ通しで読書をしていた

少年時代のイーロンは、「午後から夜まで9時間ぶっ通しで読み続け」たり、友達の家の本棚に張り付いて本を探したり、街中の書店に入り浸って知識を集めたり、さまざまな疑問や悩みを読書によって解決しようとしていた。

 

当初読んでいたのは、ニーチェやハイデッガー、ショーペンハウエルなどの実存主義哲学だった。しかし、疑問は何ら解決せず、心がかき乱され、「分からない」という絶望感が募るばかり。「これはダメだ」と気づき、大好きなSFの世界に目を転じることにした。

 

そして、ロバート・ハインラインやアイザック・アシモフなどの作品を読み、壮大な宇宙の世界に想いを馳せる中で、人類が未来に待ち受ける危機を予感する。