グローバル化への準備---英語と他の言語(6)から続く。
(6)作文のキーポイント
ここでは、筆者が今日まで実践してきた作文(Writing)のキーポイントを、
1)構造(Mechanics of Writing)
2)用語(Terminology)
3)形式(Form)
4)文体((Style of Language)
5)内容(Content)
に分けて説明する。
この方法は、60年代にアメリカで受けた教育に、日米の民間企業や国際機関の経験を加味したものである。この説明は、一般的な文章から技術的な論文やシステム設計書の作文を対象にしている。また、個人の作文から複数の人が共同で仕上げる文書にも当てはまる。
1)構造(Mechanics of Writing)
何かを書こうとするとき、まず、文章の論理的な構造(メカニックス)を考える。自分が思うことをどのように表現するか、どのように論理的に展開するかと考える。
参考だが、この段階を機械やシステムの場合では構想設計または概要設計と言う。この構想設計が甘いと後々設計変更が必要になり、結果として駄作になるケースが多い。同様に、小説、詩歌、絵画などでも、最初の構想が大切だと思う。
最も一般的な文章の構造は、起承転結である。言い換えれば、文章の展開順序であり、起承転結の他にも、結論から書き出す方法、演繹法や帰納法、あるいは気の向くままに書く方法などがある。
この段階では、書く順序を下に例示するような目次案にまとめる。もちろん、1000字程度(日本語)の個人的な作文では、目次案などと言う大げさものでなく、構想は頭の中だけで済ませる。しかし、長文やビジネス文書の場合は、目次案は必須である。メモでもいいから、必ず紙に書き出し、チェックすることをお勧めする。下の例はビジネス文書の目次案、文書が完成したとき右側にページ番号を入れる。
目次案
目次案の内容を検討するとき、たとえば起承転結をフローチャート(流れ図)に展開する。フローチャートの上で、作文の順序をあれこれと考えて、目次案を最終化する。これはコンピューターシステムの概要設計と同じ手法である。
実際のフローチャートでは、目次案の見出しだけでなく、見出しの中身を複数のキーワードに分解する。
たとえば:
見出し=「背景」
「背景」のキーワード=「調査の目的」「現場ヒアリング」「将来への対応」「期待効果」・・・
「背景」をキーワードに分解して、中身をより明確にした。
作文では、一つのキーワードを一つの主題文(Topic Sentence)として、その主題文を複数の支持文で説明して一つのパラグラフを作る。ここでは、キーワードは省略するが、アメリカの作文教室では、キーワードを含むフローチャートを手書きで作成し、先生に説明し、添削とアドバイスを受けた。
この段階で作文の粗筋が見えるので、全体のページ数も推定できる。2~3人で報告書を書くときに、個人々々があれこれ悩むより、この方法で驚くほど速く文書が完成する。
2)用語(Terminology)
作文においては、使用する単語や言葉の用法に一貫性がなければ全体が支離滅裂になる。また、読者も混乱する。特に、複数の人が一つの文書を作成するときには用語の統一は必須になる。もし、外国語への翻訳が必要な文書の場合は、用語の統一で自動翻訳の精度も向上し、手間とコストを削減できる。
用語の統一は、国レベルでも実施している。たとえば、日本語では「公用文における漢字使用等に関する実施要領」(平成22年)の別紙は、「次のような代名詞は,原則として,漢字で書く。例 俺 彼 誰 何 僕 私 我々・・・」などと用語と書き方を示している。
アメリカでは、「用語と章立てのルール」として、Mil Spec(ミルスペック:Military Specifications and Standards:軍用規格)を利用する方法もある。また、国内外の民間企業や自治体には、独自の文書作成基準やルールがある。
ある地方自治体は、お役所の固い表現を平易な言葉に変えていた。
慣用語の平易化(1980年代後半頃の例)
一環として → 一つとして、忌たんのない → 率直な、追って → 後日、既定の → 定められた、かかる → このような、懸念 → 恐れ 心配、格段の → 特別の、幸甚に存じます → 幸いです、所存であります → 考えです、講ずる → 実行する 行う、所定の → 決められた、ご臨席 → ご出席・・・
ここで、用語に関する余談になるが、国連の専門機関での仕事始めは言葉合わせだった。
専門機関では欠員に応じて専門職を適宜任用するが、専門語は必ずしも世界共通ではない。たとえば、Technical Feasibility(技術的に実現できるかどうか)、Operational Feasibility(人が運用できるかどうか)、Economic Feasibility(経済的に成り立つかどうか)の意味が新任の専門職と国連の定義に違いがないことをチェックした。これは、いわゆる言葉合わせだった。
また、グローバルシステムの開発では、各国各社の参加者の用語を英語に統一、アメリカ本社の文書管理サーバーで集中管理した。日本ではあまり一般的な仕事ではないが、文書管理の専門家が内容や改訂版や機密を管理した。
用語統一の一部だが、日付時間の書き方、通貨の書き方(Yenか¥など)、計量単位のメートル法系への統一、英語句読法への統一やイギリス英語とアメリカ英語の違いをアメリカ流に統一した。
また、ドイツでは小数点の代わりにコンマを書くので、他の国では千の単位と間違う。そこで、小数点はピリオドに統一した。さらに、フィートポンド法のメートル法への統一も厄介な問題だった。プロジェクトではメートル法に統一したが、外部の組織と関連する問題は統一できなかった。この問題は、現在も国家レベルでは統一されていない。度量衡の統一は、法律、技術、経済、運輸などあらゆる分野に影響する大きな問題である。
さらに、コンピューターの文字コード(シフトJISなど)もユニ・コード(Unicode)で多くの文字を表現できるようになった。90年代初頭のキーボードには¥サインが存在しなかった。このような個々の問題に触れると切りがないので、ここでは省略するが、グローバル化には根の深い問題があちこちに潜在する。
用語統一の最後に、日本のグローバル企業の用語管理で気掛りなことを一言付け加えて置く。
このブログの2012-01-09で説明した基礎情報の英語化は進んでいない。それは、社内用語や業務規定や技術基準などの英語化とそのメンテナンスのことである。この作業には、人材確保とコストが必要で、片手間の仕事では片づかない。しかも、一企業だけの努力には限界があり、国家の基盤整備と連動すべき、水面下の氷山のような大きな問題である。
とりわけ、企業の基礎情報の英語版はグローバルな活動の土台である。その土台作りには、不断の努力が必要である。もし、世の表面的な流れに気をとられて、この土台固めとメンテナンスを看過すると、華々しい海外展開が砂上の楼閣に転じる恐れもある。
1960年頃、日本食を洋食器に盛り付け、ナイフとフォークで食し、本船(自分の船)は洋食であると言う新参外航船(外国航路に新規参入した内航船)があった。しかし、洋食には船内でのスープ作りとパン焼きが基本、厨房関係者は定期的にホテルで研修を受けた。たかが貨物船とはいえ、ほのるる丸の食事は仕事で来船するヨーロッパの人々にも通用した。ただ洋食器に盛り付けただけの日本食と同様、表面だけの英語化=グローバル化と誤解してはいけない。
次回、3)形式に続く。