小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

お知らせ

2018年05月02日 22時42分02秒 | 思想


5月17日(木)
拙著『福沢諭吉 しなやかな日本精神』(PHP新書)
が発売になります。
日本の独立のために何をなすべきか。攘夷思想とも欧米崇拝とも一線を画した福沢の「しなやかで強靭な日本精神」に肉迫する刮目の書。
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誰が実権を握り、日本を亡国に導いているか

2018年05月02日 00時42分54秒 | 政治


GWたけなわですが、やはり大切なので、堅苦しい話題を。

財務省の不祥事が続く中、与党の中からは解散総選挙の声も出ています。
森山国対委員長が4月25日、「内閣不信任決議案が出されれば、衆院解散も一つの選択肢」と述べましたが、二階幹事長はこれを否定しました。
これはたぶん合意の上の役割分担でしょう。
解散されては困る野党へのちょっとした脅し。

万一総選挙ともなれば、国民の政治参加の機会というわけで、マスメディアはこぞって大騒ぎし、国民もつられて、その経緯をめぐって否応なく興奮します(筆者も少しは興奮しますが)。
しかし、以前にも書きましたが、国会議員の勢力分布がどうなるかに関心を集中させることが、本当にいまの政治の動きを理解したことになるのか。
答えはNOです。

なぜならまず第一に、いくら野党が安倍政権打倒を叫ぼうと、力関係が違いすぎます。
政権支持率が下がっても、選挙結果は大勢に変わりないでしょう。
解散をチラつかせられた野党の焦りがそれをよく示しています。

第二に、これが重要なのですが、いまの日本の政治を現実に動かしているのがどういう勢力かということを、多くの国民はあまり認識していません。
総選挙などがあると、何党が何人当選したかがいかにも日本の政治の焦点であるかのように見えます。

日本の政治を現実に動かしているのは、第一に財務省と総理官邸とのせめぎ合い、第二に内閣府の下にある経済財政諮問会議、規制改革推進会議、また経済財政諮問会議と連携している日本経済再生本部傘下の産業競争力会議(2016年9月より「未来投資に向けた官民対話」と統合され「未来投資会議」と改称)などの政府諮問機関の動向です。
やたら何とか会議という漢字が並び、名前を聞いただけでも引いてしまいますね。
ちなみに安倍首相は、規制改革推進会議以外の二つの議長を務めています。
でも議長職ってそんなに実権を握っていませんよね。
つまり、国民の見えないところで財務官僚やこれらの諮問機関の委員たちが大きな力を振るっているのです。

さて第一のせめぎ合いは、消費増税やPB黒字化の達成を目指す財務省と、これを本音では拒否したい安倍首相との、長きにわたる暗闘を意味します。
この暗闘の事実を打ち消して、安倍政権を全否定する向きもあります。
筆者はけっして安倍首相の肩を持つわけではありません。
ダメなところが山ほどあります。
しかし不正確な認識にもとづいて、財務省も安倍も一蓮托生としてとらえてしまうと、
何と戦うべきかが見えなくなります

事実、安倍首相は2014年の増税に懲りて、10%への増税を二回延期しました。
また、2017年の閣議決定(骨太の方針)では、それまで書かれていた「10%への増税」の言葉が消えるとともに、新たに「財政健全化」の方向性として「債務残高対GDP比」という正しい概念が書き加えられました。
残念ながらPB黒字化の方も残ってしまったのですが。
これは両論併記ということになるので、一体どちらが本筋なのかわかりませんね。

有力自民党議員のほとんどは、財務省に洗脳され、増税やPB黒字化が正しいことだと信じてしまっています。
安倍首相はこの面では孤独なのです。
財務省の度重なる不祥事が財務省を委縮させ、今年6月の骨太の方針でPB黒字化を抹消せざるを得なくなるという好影響を及ぼすといいのですが。

さて第二の各種諮問機関の動向ですが、ここには「民間議員」と称する輩が幅を利かせています。
未来投資会議(旧産業競争力会議)の首魁は、何といっても、あの竹中平蔵です。
他に経団連会長・榊原定征、東大総長・五神真、日立製作所会長・中西宏明といったお歴々がそろっています。
この人たちは、空港や水道などインフラの運営権売却の前倒しを提言しました。
つまりグローバリズムの申し子たちなのです。
またいわゆる「働き方改革」の内実である残業代ゼロ制度を推進しています。
この会議の前メンバーだった経済同友会代表幹事・長谷川閑史は、「ブラック企業に悪用されることはない」と発言しました。
安倍首相もこの動向には逆らえない様子がうかがえます。
というか、彼自身もグローバリストで規制緩和論者ですから、彼らの提言を積極的に支持しているというべきでしょう。

また、最も政権中枢に近い(中枢そのものと言ってもよい)経済財政諮問会議のメンバーには、「民間議員」として、榊原定征が二股をかけて名を連ねています。
他に財務省の御用学者・伊藤元重、日本総合研究所理事長・高橋進、サントリーホールディングス社長・新浪剛史といった「錚々たる」顔ぶれです。
すでに三橋貴明氏が4月27日のブログで暴いていますが、
https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/day-20180427.html
以上四人は、4月24日の会議で、「地方行財政改革の推進に向けて」と称して、そのタイトルに背反するとんでもない亡国資料を提出しています。
それによると、
一般財政の総額に目安を設ける
つまり歳出を制限するということですね。

PB黒字化に向けては、税収増を地方歳出の増加に充てるのではなく、債務残高の引き下げに充てる
つまり「政府支出」ではなく、すべて「借金返済」に充てるというのです。
これでは、GDPになんら寄与しないことになります。
いや、その分だけGDPが減ることになります。
税収増は支出として市場に還元されず、返す必要のない「返済先」、つまり日銀当座預金残高のなかに消えます。

歳出についても不断の見直しを行っていく
つまりデフレ期に、なんと節約を奨励しているのです。

ちなみに「税収増」と言っていますが、消費増税によって税収増が見込まれることを自明の前提にしている点もおかしい。
増税で消費も投資も一層冷え込んで、その結果税収も減ってしまう可能性がきわめて大きいのに。
これは97年の橋本内閣の時に3%から5%への増税で実際に起きたことです。

こんなに政治も経済もわかっていない愚かな連中が、実際に日本を動かしているのです。
もりかけやセクハラなどをめぐる国会での与野党の、ほとんど意味のない攻防だけが報道されていますが、あんなものは時間と金の空費だけで、日本の政治を動かす何のきっかけにもなりません。
せいぜい財務省のデカい面を少しはげんなりさせるくらいでしょうか。

国民は、マスメディアの垂れ流す情報に惑わされず、国家の実権をだれが握り、どんなひどい方向に持っていこうとしているか、そのことに視線を集中させるべきなのです。
財界のボスや御用学者や無能なエコノミストによって構成される「民間議員」をまず追放せよ