主:まずこういう資料が出てくる。内閣府のデータ(*注3)だが、交通事故の「死者数」はここ13年間減少の一途で、平成25年では4373人、うち65歳以上の死者は2303人で、やはり減少気味だが、他の世代のほうの減少カーブのほうが圧倒的に急なので、交通事故死者全体の中で占める割合としては増加していることになる。でもこれは被害者のほうだからね。歩いている老人がはねられるというケースが多いんだろう。このことは別の資料(*注4)に当たってみると確かめられる。歩行中が1050人くらいで、約半数。自動車乗車中は600人から700人の間を推移していて横ばいだ。「乗車中」ということだから「運転中」はもっと少ないことになるよね。いずれにしても、「高齢者は交通事故に遭いやすい」ことは当然で、それは高齢者ドライバーが他人を殺める割合が高いかどうかとは直接の関係がない。でも世間では「高齢者は危ない」というイメージを抱いていて、そのことと、「高齢者ドライバーは事故を起こしやすい」という先入観とを混同しているんじゃないかな。だから報道の関心がそちらのほうに集中して、そういう事件を好んで取り上げるようになる。どうもそう思えるんだけどね。
客:先入観か事実かどうか、まさにそこを調べるわけだろ。
主:その通り。その前に、君が初めに挙げた五つの事故の死亡者は、全部合わせると6人になる。約一か月間の間に6人という数字は年間に換算すると72人。亡くなった方には不謹慎な言い方になって申し訳ないが、この数字は、現在の年間交通事故死者総数約4300人という数字に比べて多いと言えるだろうか。割合にするとわずか1.7%にしかならないよ。
客:だけど、報道されてないのもあるかもしれないぞ。
主:それはまずないだろう。いま言ったように、マスメディアはニュースヴァリューのある事件が一つでもあれば、一定期間、連鎖反応的にそれっとばかりそういう事件ばかり集中的に探し当てる。これまでいつもそうだったじゃないか。
客:ふむ。まあそれは認めるとしよう。だけど、老人の免許保有者が実際にどれくらい運転しているかはわからない。身分証明書代わりに更新している割合が多いんじゃないか。
主:それは確かにそうだな。しかしより若い世代だってペーパードライバーはけっこういるからな。その世代差がどれくらいかは、よほど精密な意識調査でもやらない限り割り出せないだろう。だから一応、免許保有者は実際に運転をしているという仮定のもとに考えていくしかない。で、いまのところ、我々が得ている資料から、もう少し厳密に計算してみよう。同じ年の警察庁の資料によると(*注5)、運転免許保有者の総数は約8200万人。高齢ドライバーは年々増えていて、80歳以上は平成25年時点でなんと165万人を超えている。そこで、全体と80歳以上とで、死亡事故を起こしたドライバーの割合を比較してみるよ。さっき言った通り、80歳以上で死亡事故を起こしたドライバーを年間72人と仮定する。交通事故死亡者総数は4300万人台。そうすると、次の計算式が成り立つだろう。
交通事故死亡者の、免許保有者総数に対する割合
4300÷8200万×100≒0.0052(%)
80歳以上の人が起こした事故での死亡者の、免許保有者数に対する割合
72÷165万×100≒0.0044(%)。
どうかね。80歳以上のドライバーが他の世代に比べて死亡事故を起こす割合が高いわけではないことがわかるだろう。
客:うーむ。仮定が入っているからそんなに厳密とは言えないな。それに死亡事故だけでは、不十分じゃないか。負傷者がたくさんいるかもしれないからな。もう少しびしっと結論づけられる資料はないのかね。
主:君もなかなかしぶといな。まあいい。じゃあ、もう少し探してみよう。……あった、あった。これも同じ平成25年のものだけど、ちょっと決定的だぞ(*注6)。ていねいに読んでみてくれ。(一部語句、改行など変更)
平成24年の65歳以上のドライバーの交通事故件数は、10万2997件。10年前の平成14年は8万3058件だから、比較すれば約1.2倍に増えている。これだけを見れば確かに「高齢者の事故は増えている」と思ってしまうだろう。しかし、65歳以上の免許保有者は平成14年に826万人だったのが、平成24年には1421万人と約1.7倍となっている。高齢者ドライバーの増加率ほど事故の件数は増えていないのだ。
また、免許保有者のうち65歳以上の高齢者が占める割合は17%。しかし、全体の事故件数に占める高齢者ドライバーの割合は16%で、20代の21%(保有者割合は14%)、30代の19%(同20%)に比べても低いことがわかる。
年齢層ごとの事故発生率でも比較してみよう。平成24年の統計によれば、16~24歳の事故率は1.54%であるのに対し、65歳以上は0.72%。若者より高齢者のほうが事故を起こす割合ははるかに低い。この数値は30代、40代、50代と比較して突出して高いわけでもない。
また、事故の“種類”も重要だ。年齢別免許保有者10万人当たりの死亡事故件数を見ると、16~24歳が最も高く(8.52人)、65歳以上はそれより低い件数(6.31人)となっている。
客:うーむ……。
主:つまり、これから推定できることは、認知症の人は別として、高齢者は概して自分の心身の衰えをよく自覚していて、また経験も豊富なので、慎重な運転を心がけているということになる。だから、マスメディアの流すイメージを鵜呑みにして、「高齢者の免許証を取り上げろ!」などと乱暴なことを言う人が多いけど、それはナンセンスだな。俺のドライバー歴は約30年だけど、俺も若い頃のほうが事故を起こしていたよ。ここのところけっこう車を使っているが、10年ばかり無事故だ。でもたしかに自信過剰は禁物だね。また一口に高齢者といっても、65歳と75歳と85歳とでは衰え具合が全然違うだろう。そのへんのきめ細かな分析視点も大事だと思うよ。
客:うーむ。マスメディアの流す情報に踊らされてはダメだということだな。俺も免許証返上や規制強化論については、少し考え直すことにしようか。
*注1:小浜逸郎『デタラメが世界を動かしている』(PHP研究所)
*注2:http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo
*注3:http://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h26kou_haku/gaiyo/genkyo/h1b1s1.html
*注4:http://www.garbagenews.net/archives/2047698.html
*注5:https://www.npa.go.jp/toukei/menkyo/pdf/h25_main.pdf
*注6:">http://www.news-postseven.com/archives/20131010_215628.html
とくに、巨大資本のIT関係が日本のインフラに食い込むための布石ではないかと疑われます。
おっしゃるような可能性は、大いにありそうに思えます。
NHKなども、80歳以上のドライバーによる交通事故被害者の問題をことさら取り上げる番組を組んでいました。事故率は若い世代のほうが高いというのに。
安全な自動運転車が普及すること自体は悪いことではないですが、巨大な外国資本が日本参入を狙っているとすれば問題ですね。
しかしそれではマスコミはなぜそんなにして高齢者から免許を取り上げたいのでしょうか。なにかご存知ではないでしょうか?
マスコミは、悪意をもって高齢者の免許を取り上げようとしているのではないと思います。
要するに、「老人運転は危険」という先入観にハマっていて、それが本当かどうかを確かめもせずに、たまに起きる老人運転の事故をことさらニュースとして取り上げるのだと思います。
この点に関しては、マスコミは「悲惨な事故を未然に防ごう」という善意から取材・報道しているのでしょうが、要するに、物事をきちんと考えようとしないのです。
無知な善意ほど怖いものはありません。