これからジャズを聴く人のためのジャズ・ツアー・ガイド(14)
前回、エリック・ドルフィーとブッカー・リトル(tp)とが、ジャズクラブ「ファイヴ・スポット」で共演したライヴ版のなかに、私がイチオシの曲があると書きました。それは3枚あるアルバムの2枚目に収められた「アグレッション」です。この曲はブッカーのオリジナルであり、題名どおり、たいへんアグレッシブで、戦闘的な意欲をかき立てる演奏です。この曲でドルフィーはベースクラリネットを吹いており、その独特の演奏スタイルも聴きものですが、ここでの主役はやはりブッカーでしょう。
パーソネルは、二人のほかに、マル・ウォルドロン(p)、リチャード・デイヴィス(b)、エディ・ブラックウェル(ds)。
まずテーマをブッカーが吹き、ドルフィーがそれに合わせます。そのままブッカーのソロに突入。彼のソロは、アップテンポに乗りながら、速い指の運びで吹きまくる部分と長く息を吐き出す部分との両方で構成されていますが、次のフレーズを繰り出す前に間をあけ、よく考えたうえで吹くという特徴があり、それが生演奏らしいたいへんメリハリのある効果を生んでいます。単に「攻撃的」なのではなく、息の長い部分ではトランペットという楽器がもともと持っている哀調が存分に発揮されています。何となく日本の軍歌を連想させるところがあります。
これは61年の録音ですが、マイルスが新しいクインテットを組んで、速いパッセージのアドリブを好んで聴かせはじめたころの演奏に通ずるものが感じられます。マイルスの新しいクインテットは63年以後ですから、そう考えると、12歳も年下のブッカー・リトルのほうがマイルスに先駆けていたことになります。事実関係はよく知りませんが、マイルスは状況に鋭敏な人ですから、もしかするとこの若輩に強い影響を受けたかもしれません。そんなふうに想像すると、なんだか楽しくなりませんか。
ブッカーの場合、大御所クリフォード・ブラウンの演奏から深く学んでいるところがあり、その意味では、この若き天才が、先達のすべてをみずみずしい感性によって吸収して発展させたと言えるでしょう。
「アグレッション」は17分に及ぶたいへん長い演奏ですが、冗長さをまったく感じさせません。ソロはブッカーからドルフィーに受け継がれ、マル、リチャードへと続き、ブッカー、ドルフィー、エディ三人の短いかけあいのあと、エディのドラムソロ、そしてテーマに戻って終わります。全体のバランスもよく、全編スリルに満ちており、生演奏としては比類ない逸品と言えるでしょう。
ではどうぞ。
Eric Dolphy And Booker Little At The Five Spot Cafe- Aggression
さて、ブッカー・リトルは、このファイヴ・スポットでの演奏の3カ月後になんと急死してしまいます。享年23歳。素晴らしい相棒を得たドルフィーの落胆はいかばかりだったでしょう。前にビル・エヴァンスの相棒スコット・ラファロが、ヴィレッジヴァンガードでのライブの数日後に、25歳の若さで交通事故死したことを書きましたが、天才って、夭折を運命づけられているのでしょうか。ちなみに、クリフォード・ブラウンも26歳で交通事故死しています。
その後ドルフィーは、ヨーロッパに遠征し「イン・ヨーロッパ」というアルバムを3枚残しています。vol.1の中からフルートの演奏で、ベーシスト、チャック・イスラエルとのデュオ、「ハイ・フライ」をお聴きください。チャック・イスラエルは、スコット・ラファロ亡き後のビル・エヴァンス・トリオのベースも務めました。なんだか因縁が深いですね。
この演奏、孤独感が深く、けんめいに息を吐き続けるドルフィーは、涙を必死でこらえているような趣があります。途中でふー、とため息のような声を漏らす部分が出てきますよ。
20140301 schuimfontijn Balans Middelburg ~ Hi-Fly ~ Eric Dolphy
前にちょっと名前を出したことがありますが、名トランぺッターの一人にフレディ・ハバードがいます。彼は60年代のフリージャズ華やかなりしころに名を連ねていますが、その演奏はむしろオーソドックスで、破壊的なところは少しもありません。もともと抒情的でメロディアスなフレーズを吹く人で、いわゆるフリージャズには本質的な影響は受けなかったと言えるでしょう。
フレディは、ブッカー・リトルと同年生まれで、仲良しでした。たぶんブッカーをかぎりなく尊敬していたのだと思います。彼がブッカーを偲んだ曲があります。「ハブ・トーンズ」から「ラメント・フォー・ブッカー」。パーソネルは、ジェームズ・スポールディング(fl)、ハービー・ハンコック(p)、レジー・ワークマン(b)、クリフォード・ジャーヴィス(ds)。
今回はここでお別れしましょう。
FREDDIE HUBBARD, Lament For Booker
前回、エリック・ドルフィーとブッカー・リトル(tp)とが、ジャズクラブ「ファイヴ・スポット」で共演したライヴ版のなかに、私がイチオシの曲があると書きました。それは3枚あるアルバムの2枚目に収められた「アグレッション」です。この曲はブッカーのオリジナルであり、題名どおり、たいへんアグレッシブで、戦闘的な意欲をかき立てる演奏です。この曲でドルフィーはベースクラリネットを吹いており、その独特の演奏スタイルも聴きものですが、ここでの主役はやはりブッカーでしょう。
パーソネルは、二人のほかに、マル・ウォルドロン(p)、リチャード・デイヴィス(b)、エディ・ブラックウェル(ds)。
まずテーマをブッカーが吹き、ドルフィーがそれに合わせます。そのままブッカーのソロに突入。彼のソロは、アップテンポに乗りながら、速い指の運びで吹きまくる部分と長く息を吐き出す部分との両方で構成されていますが、次のフレーズを繰り出す前に間をあけ、よく考えたうえで吹くという特徴があり、それが生演奏らしいたいへんメリハリのある効果を生んでいます。単に「攻撃的」なのではなく、息の長い部分ではトランペットという楽器がもともと持っている哀調が存分に発揮されています。何となく日本の軍歌を連想させるところがあります。
これは61年の録音ですが、マイルスが新しいクインテットを組んで、速いパッセージのアドリブを好んで聴かせはじめたころの演奏に通ずるものが感じられます。マイルスの新しいクインテットは63年以後ですから、そう考えると、12歳も年下のブッカー・リトルのほうがマイルスに先駆けていたことになります。事実関係はよく知りませんが、マイルスは状況に鋭敏な人ですから、もしかするとこの若輩に強い影響を受けたかもしれません。そんなふうに想像すると、なんだか楽しくなりませんか。
ブッカーの場合、大御所クリフォード・ブラウンの演奏から深く学んでいるところがあり、その意味では、この若き天才が、先達のすべてをみずみずしい感性によって吸収して発展させたと言えるでしょう。
「アグレッション」は17分に及ぶたいへん長い演奏ですが、冗長さをまったく感じさせません。ソロはブッカーからドルフィーに受け継がれ、マル、リチャードへと続き、ブッカー、ドルフィー、エディ三人の短いかけあいのあと、エディのドラムソロ、そしてテーマに戻って終わります。全体のバランスもよく、全編スリルに満ちており、生演奏としては比類ない逸品と言えるでしょう。
ではどうぞ。
Eric Dolphy And Booker Little At The Five Spot Cafe- Aggression
さて、ブッカー・リトルは、このファイヴ・スポットでの演奏の3カ月後になんと急死してしまいます。享年23歳。素晴らしい相棒を得たドルフィーの落胆はいかばかりだったでしょう。前にビル・エヴァンスの相棒スコット・ラファロが、ヴィレッジヴァンガードでのライブの数日後に、25歳の若さで交通事故死したことを書きましたが、天才って、夭折を運命づけられているのでしょうか。ちなみに、クリフォード・ブラウンも26歳で交通事故死しています。
その後ドルフィーは、ヨーロッパに遠征し「イン・ヨーロッパ」というアルバムを3枚残しています。vol.1の中からフルートの演奏で、ベーシスト、チャック・イスラエルとのデュオ、「ハイ・フライ」をお聴きください。チャック・イスラエルは、スコット・ラファロ亡き後のビル・エヴァンス・トリオのベースも務めました。なんだか因縁が深いですね。
この演奏、孤独感が深く、けんめいに息を吐き続けるドルフィーは、涙を必死でこらえているような趣があります。途中でふー、とため息のような声を漏らす部分が出てきますよ。
20140301 schuimfontijn Balans Middelburg ~ Hi-Fly ~ Eric Dolphy
前にちょっと名前を出したことがありますが、名トランぺッターの一人にフレディ・ハバードがいます。彼は60年代のフリージャズ華やかなりしころに名を連ねていますが、その演奏はむしろオーソドックスで、破壊的なところは少しもありません。もともと抒情的でメロディアスなフレーズを吹く人で、いわゆるフリージャズには本質的な影響は受けなかったと言えるでしょう。
フレディは、ブッカー・リトルと同年生まれで、仲良しでした。たぶんブッカーをかぎりなく尊敬していたのだと思います。彼がブッカーを偲んだ曲があります。「ハブ・トーンズ」から「ラメント・フォー・ブッカー」。パーソネルは、ジェームズ・スポールディング(fl)、ハービー・ハンコック(p)、レジー・ワークマン(b)、クリフォード・ジャーヴィス(ds)。
今回はここでお別れしましょう。
FREDDIE HUBBARD, Lament For Booker
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