カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

ふざけて下品で、かつハートウォーミング    無ケーカクの命中男(ノックト・アップ)

2012-07-05 | 映画

無ケーカクの命中男(ノックト・アップ)/ジャド・アバトー監督

 酔った勢いで事に及んで、そのまま妊娠してしまった後の騒動をそのまんま映画にしたような作品。いや、そのまんまだけど、一方的に失敗したのは明らかに女性の方である。酔っていたとはいえ朝になってみると、何故こんなことになったのか自分でも後悔するようなイケてない男にげんなりしてしまう。もう二度と合うこともないだろうし、若気の至りだったと諦めようとしていたところが、しばらくするとつわりが始まってしまう。折しも仕事の上でもチャンスが巡ってきており、何とかこの難局をやり過ごそうとするのだが、いかんせん妊娠は現実で、仕方なくいやいやナンパの相手に電話することになるのだが…。
 悲劇が客観的には喜劇であるのは当たり前のことだが、これが当事者だと泣くにも泣けない状況であるところが、実に泣かされるというか、笑わされる。いろいろ折り合いをつけて上手くやろうとするのだけれど、男の方はその友人たちも含めてどうしようもない馬鹿ばかり。子供ができたというのに、ナンパの続きでまたやれるということしか頭にないように見える。普通ならこれは堕胎して男と別れる事が一番賢明であることは明らかそうなのだけれど、やはりそれは妊娠した女性の複雑さもあるのだろう。そのうちどんどんお腹は大きくなっていく。
 しかしながらそのような悲劇でありながら、徐々にだけれど、だんだんと温かくなるような、そういう展開もチラホラ見られるようになり、ただのバカで無責任で脳無しのように見える男が、あんがい自分なりに誠実になろうとしていることも見て取れるようになる。男というのは単にモテないオタクだったにすぎないだけで、まだまだ大人になりきれてないという存在だったのかもしれない。特に女を陥れようだとか、そういうことを考えている訳でなく、思った以上にナンパが上手くいって、その上関係までもてて有頂天になっていたにすぎないのだった。しかしながら難しい状況にあるのは頼りなくも理解していない訳ではなく、そのちょっとおかしいけれど素直な言動によって、まわりのまともそうに見える人々の方を、少しづつ変わらせることに成功していくのである。妙な逆転劇ということも言えて、なかなかどうしてよく出来たお話なのである。
 世の中にはできちゃった婚というカップルはそれなりにありふれた事であるように見える。人は社会性のある生き物だから、ある程度の倫理上の事であれば、やはり守ろうとするということなのかもしれない。もちろん結婚という結論について、踏ん切りをつける事件であるということも大きいだろう。酔った勢いでの過ちということになると、さらにそのハードルは高くなるのだけれど、いわゆる望まれた出産でもない事なのに、大きく人生を変える転機になりうるということだ。子供という現実は人間の頭や都合とは一切関係が無い。結局人はその自然現象に、従うか、または真剣に付き合うということなのだ。別にお説教くさいお話では微塵もないのだけれど、そのことによって実は、人間は人間らしい考えを獲得していくのかもしれない。ふざけた下品なコメディだけれど、冷たい映画という訳ではない。情けない笑いを通して、妙に温かい気分になる変な映画なのであった。
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