ありがとう、トニ・エルドマン/マーレン・アーデ監督
最初から風変わりな、というか不穏な空気の流れる展開である。奇をてらったということはわかるが、そのユーモアのセンスがなんともわかりにくい。本人は面白く思っているのかもしれないが、そんな感じははたしてほかの人に伝わるものなのか。
買っていた犬が死んでしまい、その悲しみのためもあり娘の顔も見たくなったということだろう。娘の転勤先のポーランド・ブカレストに行く。娘は大手企業のバリバリのキャリアウーマンで、突然父が現れても仕事が忙しい。そのまま自分のビジネスの現場に連れまわすことになるが、そこでも父親は頓珍漢なギャグを連発して、どうにも顰蹙を買っているのかどうか…。ともかく娘には煙たがられて帰るようになるはずだったが、なんと変装して再度娘の生活に中に何度も闖入して騒動を起こすのだった。
長くて退屈な笑えないコメディで、とにかくこの父親がイラつくことばかりやるので、一緒に見ていたつれあいは呆れてみるのをやめてしまった。娘である立場の人としては無理もないことである。
おそらくこれらの表現は暗喩になっており、ドイツとEUの関係を揶揄しているのだろうことはなんとなくわかる。いや、そういう風に観ないことには、なんともつらい。しかしながら皆簡単に服を脱いでしまうし、何故か素人臭い歌まで聞かされる(演奏はなかなかだけど)。今時どっきりカメラでもこんな演出はしないだろう。
こんな映画しか撮れないからEUは、もしくはドイツはつまらない国なのか、と疑ってしまいたくなる。とにかくひどい出来栄えの映画で、そうして賞を総なめしてしまった。皆、気取っているのである。だからダメなんだろうと思うけれど、まあ、そういう国なんだろうから仕方がない。僕らは先に歩きましょう。
要するにファンタジーで、ショッキングなポルノを交えて世間を皮肉ってしまえば芸術なのである。まあ、その表現は面白くないわけではないが、だからと言ってそれが優れているわけではない。身内では楽しいというのは分かるが、見せられるほうはうんざりである。そういう気まずいものをあえて作っているのは分かるのだけど、時間がもったいないことには変わりない。まあ、変な映画を見たという人生経験にはなるんだろうけれど。