NHKの番組に「漫勉」というのがある。厳密にはNEOとついていて、新たなシリーズが始まったのだ。基本的には浦沢直樹という漫画家が、恐らく本人が気になる漫画家にインタビューするような形式であるが、先に仕事場に定点カメラで作画の様子を何日間かに渡って撮影している。その映像をお互いに見ながら話をするのである。
そういうことは、いくらNEOと銘打っても、基本的には前シリーズと何ら変わりなくて、そうしてこれがめっぽう面白い。プロの漫画家だから、当然絵がものすごく上手いのだが、その描いている様子が、なかなか皆さん個性的なのだ。基本的なことは、ほとんど変わらないように見えて、しかし細かいところはちゃんと違う。いろんなこだわりがあって、そのこだわり様の在り方が、本当にみんな違う感じなのだ。ちょっとオタクっぽいところもあるんだが、自らも漫画家である浦沢が、その細かい描き方について質問する。そういわれてみると、そうかな、という感じで、話が静かに弾んでいく。漫画家にも色々いて、あまり話が得意でないタイプの人も多いのだが、漫画のことについて、特に漫画を描くという行為については、やはり語るべきことがそれぞれにあるらしく、いつの間にか、自分自身がそのことに気づいていく様子も面白いわけだ。今まで言語化して、そのような絵の面白さを表現していなかった人もいるようで、自分自身でそのことを発見する驚きも含まれているようだ。
基本的には彼や彼女らは、描いている絵が気に入らない時が特に面白かったりする。とにかく何度も何度もしつこく描き直すのだ。どこがどう違うのか傍目にはほとんど分からないような細かい差であっても、やっぱり気に食わなければ描き直している。描くスピードがそれなりにあるとはいえ、一枚の原稿を描くのに何時間もかかっている(これにはそれなりに個人差はありそうだが)。そうでありながら、やはり描き直すときはやっぱり描き直している。下描きは鉛筆を消しゴムで、ペン入れ後はホワイトで消し直してその上に描く。(最近はパソコンの人もいるようだが)そうして紙そのものを変えて描く。何度も何度もそういうことを繰り返してきたことは、その撮影中だけのことではないことも見て取れる。プロだから上手い絵なのに、それでも描き直してやり直して、自分なりに納得がいかないとならないのだ。
さらに細部を細かく描いているのも面白い。いわゆるノッてくるというか、どんどん楽しくなって描いている様子が分かる。そこまで描く必要が本当にあるのかよく分からないところを、丁寧に丁寧に描きこんでいく。本当にそんな風に描いてたんだな、というのが分かって、呆れるが感心してしまう。本当は原稿の締め切りもあったりして、描いているのは楽しいことばかりじゃないのだろうとは思うのだが、しかしやはり漫画を描くという行為そのものが、楽しくて仕方ない人たちが漫画家なのだ。売れなくなるとつらいものがあるかもしれないが、とにかく描き続けていることが、漫画で表現できることが、楽しいということなのかもしれない。
僕は小・中学のころに、ちょっとだけペン書きの漫画を描いていたんですよ。ものすごく時間がかかるのに呆れて、漫画描くより文章書いた方がいいな、と思ってやめてしまったけれど、それだからこそ僕は漫画家にはなれなかったわけだ。ほんとに納得出来ました。でもまあ、漫画描くように仕事ができたらな、と「漫勉」観ながら考えております。もっと漫画も読まなくちゃな。