『白線の内側で』村上和巳川柳句集 を読んで
「貌」「浮世床」「季は花に」の3章から成っていますが、一貫した作者の匂いと佇まいがあります。
結局は人の評価のまま生きる
私をずばり他人が定義する
初めのほうに、生の人間関係を詠むという王道の川柳が据えてあるのですが、ところどころ、不真面目なわたしの琴線をくすぐる笑いが見うけられます。
せっかくの嘘だ明るい方にする
反論は保冷バッグで持ち帰る
あとがきを読むと大きな病気をされたことがわかります。でも、作者の前向きの生き方に救われます。
病室で氷の溶ける音を聞く
飄々と次の3句。
迷ったら無論楽しい方にする
趣味だけを書いた名刺を持っている
誰か押す降りますランプ待っている
楽しい生き方をするにはゆるい選択と少しの遠慮とゆったりとした時間をもつことですね。
現今、戦のニュースは毎日飛び込んできますが、わたしたちの意識は遠いところにあります。だが明日は知れず。戦を詠まなくてもいい日が来ることを望んでいます。「絆」は是非の分かれることばだと私も思っています。
新時代いつも異端の顔で来る
戦争の準備期間という平和
一斉に絆と言えば怖くなる
文句なく好きな次の2句。でも「繋いだ手・・・」の句は所々ひらがなにすると印象がかわるかも。
繋いだ手離す切っ掛け難しい
豆の木に登ったままの親不孝
高齢者ならではの句も次のように詠まれると納得。
どの川も三途の川の支流です
果物は美味しい場所に種がある
物事の本質が種ですね。
ページに沿って選んでいたら最後に選んだのは恋句になってしまいました。恋のドアはSNSじゃなくてやはり手動がいいですね。
恋のドアやはり今でも手動です
タイトルからもわかるように、一歩引いて物事をみている作者がいます。でも決して視線は冷たくはなく、泰然かつ寛容で飄々とした眼差しです。心でひとりごとを言いながら、めくりながら順番どおりそのままを書かせていただきました。鑑賞にはなっていませんが紹介とさせていただきます。
令和川柳選書『白線の内側で』村上和巳川柳句集 2023年3月25日初版 新葉館出版
(いわさき 楊子)