『松田京美川柳集』
なにもかも求めぬひたすら太い首になる
美しい牙もて君は男だよ
いまもむかしもライオンおまえ素敵だね
心中とはいいものだろう春の闇
屁ふり虫君には君の武器がある
したたかにほほえみばかりしてみせる
決心なんてくるくる変えていいのだよ
ラジオ体操第二がしたくなるパリだ
おわりなのかはじまりなのか目がさめる
雑念のなんて楽しい春だろう
うっかりとこの世に生れきたわたし
壊れぬように壊さぬように受話器置く
猫ふんじゃった獅子ふんじゃったアララララ
妻でいるなんてつまらぬ午後だろう
生き下手のためらい傷が深くなる
冬座敷肉も聖書も菜も喰おう
天も地もゆるんでしまう二重顎
生も死もとても重たい象の足
顔ぐいとあげてひとりだなと思う
原風景にまっ赤な口があるわたし
この川柳集が24年も前の熊本の川柳人のものということに驚く。序文は当時の噴煙吟社会長の吉岡龍城氏が書いている。きくところによると松田さんは一人で黙々と書いておられたのではなく、大会などにも参加して仲間との交流もあったという。だが、この川柳集発行の後、たった19年間の川柳活動にきっぱりと終止符をうたれた。まだ57歳の若さだった。今も熊本のどこかで川柳に関心をもって見てくださっていると信じている。
発行の翌年、熊日文学賞候補数冊の中にあげられた。川柳集が地元の文学賞候補になるのは稀有なことだった。ちょうど私が川柳を始めた年だったが残念ながらお会いする機会はなかった。
『松田京美川柳集』―噴煙叢書第十九集―
一九九九年六月発行 著者 編者 松田 京美 発行所 川柳噴煙吟社
※この本は私の師の故柿山陽一氏のものだった。青鉛筆で師のチエックの入ったもののなかから抄出した。
(いわさき楊子)