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「家元」と「家元制度」を切り分ける

例によって茶室>茶の湯への横道的な好奇心から
「近世茶道史」と「家元の研究」を行ったり来たりしながら読んでいます。
歴史にも茶道にも疎いプラナリアには結構難儀なことになっていますが、
併読することでおぼろげながら見えてくることも。

歴史学、社会学の視点から家元及び家元制度に関して掘り下げた研究をしている
西山松之助著作集〈第1巻〉 家元の研究 (1982年)」。
この本は家元や家元制度という言葉について重要な概念規定をしていて、
今でも時々引用されているようなので、
本題の茶の湯関係の話の前に、まずは備忘録としてメモしておきます。

家元とは;
1.伝統的な家芸又は芸能血脈(血縁に限らない)の正当を伝えると共に、
 そのことを根拠に、保有する一切の権利を独占している。
2.師匠と弟子が存在すると共に、弟子が無制限に増加することによって
 いっそう繁栄する文化領域に成立する。
 また、家元社会が膨大になっても恒久的な封鎖性を持つ。
3.経験的感性によって練磨する技能を主体とする芸能文化の領域で、
 その技能を秘密にすることができ、かつそれが無形文化財であるところに成立する。

家元の独占する権利;
1.技能に関する権利(秘匿権、上演権、「種目」「型」の統制・改訂権)
2.教授、相伝、免許に関する権利
3.賞罰、破門などの権利
4.装束、称号などの権利
5.施設ならびに道具を統制する権利
6.上記の諸権利によって生じる収入の独占権

家元制度;
家元は平安期には成立したが、家元制度として特殊な社会組織を構成し、
独自の文化機能を発揮したのは江戸時代からである。

1.完全相伝をする家元は家元制度を構成することはできない
  完全相伝=
  家元が秘技・秘伝を最高弟子などに皆伝し、
  それと同時に免許皆伝相伝の全権利をも譲り与える相伝形式
 →家元制度を構成するためには家元が相伝権を独占する必要がある。
2.弟子は上下統属の身分関係に組み上げられた「名取制度」を構成する。
3.家元と弟子との関係は擬制的な家族的結合をなす。

家元の技能の絶対的優位性;
家元的家父長権力の源泉=技能の絶対的優位性
但し家元が技能そのものに全く関与しない場合もある

無能力者が全能の座につくための条件設定
「秘儀の神典」をつくる(秘伝書等)→その秘儀・秘伝を相伝する

相伝;
1.相伝は、古い伝統による家元の家芸として伝授される。
2.相伝は、原則として技能に関するものであり、秘することができる。
3.相伝される神秘の神典は、流儀の技能実演に関する積極的原理で、
 その成立は神聖なものとして神秘化されている。
 また、神典伝授は免許皆伝の印可を意味し、
 被相伝者はこれにより技能の再生産をすることができる。
4.相伝に種々の種類と段階を設定することで、家元制度のヒエラルキーを構成する。
 また、頂点に最高深泌の秘伝を設定することで、
 一子相伝による家元の世襲制度を体系化する。
5.相伝は江戸時代にもっとも流行し、外来の新文化なども
 おおよそ秘技として特権化しうるものは
 相伝の体系をととのえて新流を創設するものが少なくなかった。

相伝の種類;
一代相伝、一日相伝、出入相伝、返り相伝、依勅相伝、一子相伝

以上で大体160P、以降実例に即して家元/家元制度の分析が350P、まとめが40P!!
最後の40Pと解説を読めば本書の主旨は分かるのですが、
歴史研究として面白いのは実例研究の部分かもしれませんね、
素養が無いプラナリアにはなかなか歯が立たないのですけれども、
でもこの部分で江戸期の千家や藪内家の家元制度確立について論じられていたり、
あるいは石州流が多数の流派に分かれた理由が考察されていたり
(単に完全相伝だった、で終わらせずに、完全相伝であった背景にも踏み込んで分析)、
はたまた本願寺派が家元制度的な制度を先行して組織していたという指摘があったり。

原著(1959)は半世紀以上前の本で、著作集への収録に際して増補改訂はしていないとのこと。
いやいや凄い本、研究です。手怖いけれども面白い。古本高いなぁ。
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