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幸福な復原の記録

いやはや凄い人がいるものです。

惜櫟荘というのは吉田五十八が設計した熱海の岩波別邸の事だそうですが、
本書の著者である作家の佐伯秦英さんは隣地に仕事場を構えたことがきかっけで
この住宅にほれ込み購入、されただけでなく、この建築を伝えていくために
文化財方面で言う「解体修理」をなんと自費で実行されました。

本書は岩波書店の「図書」に連載された、その経緯をつづったエッセイを纏めたもの。
実はこの作家さんのお名前は全然知らなかったのですが、
NHKでやっていた時代劇ドラマ「陽炎の辻」の原作者さんなのですね~。
修復プロジェクトの話に著者の若い頃のスペインでの生活や、
そこから広がった作家や画家との交流、
そして「物書きとしての生き残り」をかけた「文庫書き下ろし時代小説」
というジャンルの開拓の話などが重なり合って語られています。
そこから著者の作家としての矜持が伝わってきて、感じるところがありました。

惜櫟荘だより惜櫟荘だより
佐伯 泰英

岩波書店 2012-06-21
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それにしても修復前と修復後の丹波石貼りの「景色の違い」への言及など、
やわらかな語り口ではあるけれども、
著者のものを見、感じる力には恐ろしいものを感じます。
今回の修復は吉田五十八のお弟子さんである建築家の板垣元彬さんが設計監理、
施工は水沢工務店と言う黄金コンビが担当されているのですが、
こういったお施主さんに出会えたら建築家冥利に尽きるなぁ、と思いつつ、
相当恐ろしいことでもあるよなぁ、と思ってしまいました。

なお、見落としていましたが、本修復工事に関しては
青井哲人さんが新建築住宅特集の2012年8月号で言及されているようです。
(青井さんの2012/07/30付BLOGはこちら
機会を見てチェックしたいと思います!
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