茶語花香

人生は旅なり。
中国茶をはじめ、花のある暮らし、読書、旅などを中心に、日常の出来事を綴ります。

素晴らしき世界

2021-03-10 22:47:00 | 本・映画・舞台

近所の白木蓮が満開になった。
無数な白鳩が泊まっているかのように。
白木蓮が大好きだ。

人生の大半を裏社会と刑務所で過ごしてきた男の再出発の日々を描く映画を観てきた。

俳優の役所広司さんが裏社会にいた人間を熱演。これまでの役とは、またひと味違った好演技だ。

男は真面に生きようとしても、なかなか社会に馴染みない切ない話し。そこに人情味もあり、胸に沁みる。

日本ではどのような職業の人でも、ほとんどの人は礼儀良く、都会と地方の教育レベルもさほどの差が感じないのだ。

ところで、激変の波にのまれる中国情勢では、中国エリート層の面々が、かなりの階級意識を持っていることに、最近私は驚いた。

貧困差や教育の格差が顕著に現れた中国社会においては、階級意識までと根付いてしまったことに、なんだか落胆したような気分だ。


フェードル

2021-01-26 02:19:00 | 本・映画・舞台


ギリシア神話に基づき、フランス劇作家ラシーヌの名作フェードル。栗山民也演出。

緊急事態宣言を受け、一度発行したチケットが全部払い戻しになり、50%の席だけ再販売されました。

チケットの払い戻しと再購入、二度手間でしたが、それでも観に行きたかったです。

大竹しのぶさんをはじめ、俳優陣達の演技力に大いに感動し、和訳された美しいセリフが耳にも優しく、心地良かったです。

シンプルな舞台背景、俳優陣達の立ち振る舞いが美しく、見事に絵になるような構図でした。

舞台が終わり、客席からカーテンコールが五回も鳴り響きました。私も席を立ち、長く拍手しました。

俳優陣達の演技に対する感謝だけではなく、緊急事態宣言の中、工夫しながら決行された出演関係者全員への敬意を表したもののように思えました。


盤上の向日葵

2020-08-10 17:09:00 | 本・映画・舞台



ここ半年、なんとなく映画館から遠ざかり、
小説を貪るように読んできました。

柚月裕子の『盤上の向日葵』

すっかり忘れていました。
広州にいた頃、Amazon Japanでkindle版をすでに購入したこと。
向こうではなぜか読みこむ事ができませんでした。
本の存在、最近思い出したのです。

事件を追う時系列と、
苦しみから抜け出すように成功しても、
常に悪人と狂気に付き纏われる棋士上条の生い立ちが交互に進みます。

話しがどこへ向かっているのか
知っていることは心地よい。
と同時に、事件の真相も気になり
神経を立てられます。

多様なキャラ立てもバランス良く、
エンタメ作品として実に上等な仕上がりです。

将棋の知識がまったくなくても愉しませて頂きました。
盤面が分かる方なら、うんと数百倍も愉しめるのではないかと。

プロ棋士の厳しい世界を知らされ、最近活躍されている藤井聡太棋聖の事を、なんとなく連想しながら読んでいました。

読み終わるまで、

「あれっ、筆致の持ち味が全然別物だなぁ」

と数ヶ月前に読んでいた柚木麻子さんの作品だとずっと勘違いしていました。

柚月裕子さんと柚木麻子さん、まったくの他人でしたのに。私、どうしたの(笑)

柚月裕子さんは、おそらくハードボイルドの男性物語を得意としています。ほかの作品も、進んで読んでみたいと思います。

次は、『孤狼の血』かな。


BUTTERバター

2020-05-01 22:08:00 | 本・映画・舞台



肩越しのロングヘアが溶け出すバター🧈のように描くデザイン。表紙のイラストに惹かれ、二月書店でジャケット買いした一冊。

愛人となったシニア男性が次々に死んでいった実際の事件の女性容疑者カジマナ、その真相を迫ろうとする女性記者町田里佳。

事件を追う記者、というネタなら事件解決優先のミステリーだと想像する。が、この物語では、里佳が料理得意な容疑者の誘導のもと、料理を通して奇異な世界観に入り込んでいく。その中、他人の価値観に刃向かって苦悩する人間の心理や、自分との向き合い方があまりにも現実的で切実だった。

読んでいるこちらも振り回されていたような気がした。
後半のストーリーは、少し乖離してしまうのが、個人的に作品としてちょっと残念に思う。
しかし、事件をこんな形で作品にするとは、新鮮な感じがした。

作品の伏線であるバター。バターを使ったいくつかの料理を食べた時の描写に、垂涎するほど強く惹かれた。

就寝する前に読んでいて、空いてもいないはずのお腹に、時々何か口に運びたくなった、との嫌悪感を覚えていた(苦笑)

読み終わると、少し値の張るエシレバターを。もう一度買って、今度こそちゃんと味わおうかな、と思わせてもくれた(笑)

作者の柚木麻子さん、きっと途轍もなく繊細な舌の持ち主であろう。そして食する時の体感を活字に変える力が秀逸だ。

心を躍らせていた。



昨夜のカレー、明日のパン

2020-04-18 14:48:00 | 本・映画・舞台



数年ぶりの暴雨だと、天気予報士のアナウンスが流れてきた。

ザーザーの雨音は、聴き慣れた広州の音に似た。広州の雨は、こんなに一日降り続けることはない。しかし、約束したかのように、確実に毎日、俄然に訪れてきて、また突如に消えてゆく。

広州と日本の二拠点で生活している我が家だが、コロナの影響で広州便が止まり、次の広州行きがはかなくなった。外の雨音がなんとなく懐かしく切ない。

ここ数年買いためていた本を、少しずつ消化していく。

2014年の本屋大賞第二位。
私の読む力にも限界があろうかと思う。
とにかく最初の数ページをめくった時、
「何を書きたいのか?」
はてな❓❓❓の連続でした。

あまりにも平凡すぎる日常を描く中、何を伝えたいのか、何でこんなの賞まで取ったの、と迷路に迷い込んだ。

読み進むと、
「あれ、この話しにはほんとうはこういう話と繋がっているんだ!🤭」
「あの話にでてきた人は、この人だったのか」
の「発見」、そして肩を下ろしたような「解放」の瞬間が、次から次へと訪れてくる。サスペンスではないのに、すごい!

平凡の暮らしが、徐々に、徐々に違う景色が見え、深いぬくもりに包まれました。

最初の数ページで決めつけなくてよかった。
途中でサジを投げなくて正解だった。

こういう作品を書こうと、作者の意図を覗けた気ができ、作品の構図に改めて感心した一冊でした。