KYOKUKENZO'S WORKSHOP 2024

「道」は自ら切り開くもの。
他人の後追いは「道」にあらず。

思いやりの必然性。

2014年02月07日 | スポーツ
稲葉選手のトークショーが
サッポロビール園で催された。

会場はたくさんのファンで
埋め尽くされ、

美味しい生ビールやワイン

ジンギスカンを楽しんだ後

お待ちかね、稲葉選手が登場して

会場は一気に盛り上がった。

堅実なプレー。チャンスに強い。
豪快なホームラン。実直な人柄。

本当に魅力的なプレーヤーだが
私が特別、彼を応援しているのには
他にも訳がある。



先日、古い書類を整理していたとき
むかし私がコンクールに応募した
コラムの草稿を見つけた。

もう4年も前に書いたものだが
入選して嬉しかったように憶えている。

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出張前夜に  曲 健三

2ヶ月ほど前から、右手の親指の
付け根あたりに痛みを感じていた。

最初はさほど気にならなかったのが、
だんだんと痛みが強くなってきた。

そのうち治る、と放っておいたら、
とうとう我慢ができない位になってきた。

診てもらった方が良い、と妻は言う。

近くの整形外科で診てもらったところ
デケルヴァン腱鞘炎」という診断で、
湿布と抗生剤を処方してもらってきた。

右手はなるべく使わないように
と言われたが書類やパソコン仕事なども
あって、全く使わない訳にも行かない。

薬をしばらく真面目に飲み、湿布も
続けていたが、痛みは解消しなかった。

これ。三つもでてきたわ。

片づけが苦手な私の代わりに妻は、
私のひきだしの整理をしてくれる。

奥のほうから萬金油という塗り薬が
三つも出てきて、いずれも少しだけ
手を付けている
、と言っている。

幼い頃からの常備薬で歯痛腹痛に
重宝する。なんでも来いの万能薬だ。

虫さされにも、すごくよく効く。

最近は専ら、夏の夜にだけ使うので
その度新しいものに手をつけてしまう。

使い切ってから次を開ければいいのに
次から次からと手をつけて、と
妻は私の不精を責めているのだ。

ほんとにもう!と笑いながら
フタを開けて、右手の親指の付け根に
擦り込んでくれた。

翌朝、それまで痛くて動かせなかった
親指が少し動かせるようになっていた。

私はこの薬を特に探していた訳ではない。

妻もこの薬を探すために私のひきだしを
整理していた訳ではないと思う。

多分その薬を見つけたときに、私の痛む
右手の事を思いだしてくれたのだろう。

結果として、ひきだしの整理が私の
右手の痛みの解消に繋がっている。

そこに私は、ある必然性を感じていた。

彼女には特別な事をしている意識はない。
形を変えて伝わる思いやりの必然性

明日は出張で、朝から家を空ける。

今日ぐらい早く帰らねばと思いながら
準備でまた遅くなった。

右手は使わぬようにという医者の忠告も
忘れるくらい指の具合は良くなっていた。

家に帰ると妻はテレビにかじりついていた。

おかえりなさーい。

彼女は最近、ファイターズに夢中だ。
その勝ち負けに一喜一憂している。

右手良いみたいだ、と声をかけると

よかったー。でも治りかけが肝心だから
今日はパソコンしないで早く休んでよ。


テレビから目を離さずに彼女はそう言った。

稲葉選手がホームランを打っていた。(終り)


稲葉選手の大ファンだったひと。

よく二人して球場へ出かけ

声を嗄らして応援したものだ。

あの時右手の痛みが治ったのは
薬の効能だけではない。

今ごろになって、そう思うのである。平成26年2月7日。曲 健三
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