今から10年くらい前、
新容器の醤油が開発された。
二重構造になっている。
使用に応じて内容器が
圧縮されるので、
醤油が直接空気に触れない。
したがって
酸化速度が遅まり
長く鮮度が保たれる。
醤油がいつまでも赤い。
出始めのころ
メーカーの営業マンと
市内のホテルを
案内して回った。
朝食バイキングでは
納豆のヨコなどに
醤油差しが置いてあるが
やはりどうしても
各テーブルにも置く
必要があるという。
客の立場から言うと
たしかにある方がいい。
容器への醤油の補充は
大体アルバイトくんの
仕事と思うが、これが
また結構大変らしい。
まず数が多い。
卓数分あるから
ひとつひとつの補充で
えらく時間がかかる。
予備も入れると
相当な数になる。
しかも差し口が
よく詰まるので
つまようじなどで
突っつかねばならない。
大変そう。
・・・さらに
異物が入っていたり。
色が変わっていたり。
味が変わっていたり。
手を滑らせて割ったり。
こぼして絨毯汚したり。
手も汚れるし。
それならば
この新容器醤油で
すべてのお悩み解消と
自信満々売り込んだが
そう簡単には行かなかった。
数々否定意見を聞かされた。
基本商品についている
メーカーのロゴマーク。
ホテル朝食会場の
「非日常」に「生活感」を
持ち込んでしまう。
価格の問題。
どうしても割高になる。
特定のブランド表示は
ホテルとして思わしくない。
なるほど。
そういわれれば
エレベーター内の
メーカー名を隠している
ホテルもあるくらいだ。
そんな感じで当時は
全く売れずに帰ってきた。
その後10年。
新容器の醤油は
家庭用から売れはじめ
外食用がそれを追った。
いま家庭の醤油は赤い。
最近では
バイキング会場で
新容器の醤油を
見かけることも多くなった。
メーカーの話でも
売行は絶好調とのことだ。
高品質、安心安全。
消費者の意識は
食品販売の動向を変えた。
赤い醤油は
「非日常」に「生活感」を
持ち込むことを容認させた。
「生活感」は
「高鮮度」の代名詞になっていく。kyokukenzo