仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

鍵を返せば済むことさⅣ

2008年08月29日 16時29分57秒 | Weblog
「アキコはどうして生きていると思う。」
「何よ。急に。」
「いま、アキコとこうしていられるのも。偶然なのかなぁ。」
「偶然・・・・そんなことないよ。」
しばらく考えた。
「まあ、私がヒデオのところへ行っていなかったら、ヒカルたちのとこには行かなかったかな。」
「そうじゃなくて・・・」
「なあに。」
アキコは珍しいと思った。ヒデオは寡黙で、ほとんど喋らない。ただ、二人でいるとその表情の微妙な変化で気持ちが読めた。しかし、今日は気持ちの問題ではないようだった。言葉に変えてることが必要だった。
「アキコはどうして「ベース」にきたの。」
同じ病院のインターンの医師に酔った勢いでホテルの部屋まで連れ込まれ、股間を蹴って、逃げ出し、気づいたら「ベース」に辿り着いたとは言えなかった。アキコが話し出す前にヒデオが続けた。
「なんか、イベントが終わってから、覚めてきているんだよ。」
アキコはヒデオの胸に耳を付ける形でもたれ掛かった。 ヒデオはアキコの脇に手を添えた。
「私は・・・、よく解らないな。でも、はじめて「ベース」に迷い込んだ時と、今の「ベース」は違う気がする。」
ヒデオは聞いていた。
「仁は凄いと思う。仁がいなかったら、いないかな。」
ヒデオの手が少し動いた。アキコは今日は話をする番なのだと思った。
「私ね、セックスはどうでもいいの。不感症じゃないけど、あんまりいい思い出がなくて・・・でもね。「ベース」でであったセクスはなんかぜんぜん違ってた。」
ヒデオが身体を起こした。アキコは顔を合わせるのがなんとなく恥ずかしくて、ヒデオの胸にさらに顔を押し付けた。ヒデオは大音量の中で胸から声が響くよう感覚が不思議だった。
「私ね、父親がいないの。小学校の時に死んじゃって。発破師だったの。農業もやってて、山で発破の仕事があると出かけていったの。その日も普通に出て行って、帰ってきた時は顔の形もわからないほどバラバラになっていたわ。母は私に父親の最期の姿を見せようとしてかえって傷つけてしまったと泣いていたわ。」
アキコは座り直した。ヒデオの横に、身体はヒデオの左腕に預けて。ヒデオは右手で、アキコは左手でグラスを持った。
「ファザコンね。好きになるのは年上の人で、なんか父親を探しているみたいだったなー。高校の時もね。バスケ部の顧問の先生を好きになっちゃって、面白い先生だったな。と思いたいんだけど。部室で着替えていると、あっまだ着替え中だったかって言ってドアを開けるのよ。皆、センセーいやらしいと言うと、すまんすまんって。はじめての人が先生だった。用具当番で一人でボールを片付けていたら、先生が来たの。ご苦労さんって言って、ボール籠を用具室に運ぶのを手伝ってくれた。用具室で籠からボールがこぼれて、拾って、籠の戻そうとしたら後ろから犯された。口を押さえられて、ブルマとショーツを一緒に下ろされて、指で開いて入れられたわ。痛かった。涙が出て、先生は直ぐに終わって、よかった。誰にも言うなって言われて、よかったって言葉が響いて、先生に求められるとしていた。」
ヒデオはアキコの肩を抱いた。
「あれ、私、何を話しているんだろ。・・・酔っ払ったかな。でもね。そんなのがあって、セックスって痛いものだと思っていたのよ。だからね。「ベース」でのは不思議だったなー。私ね。好きになって求められると直ぐにしちゃうのよ。なんか、男の人って直ぐにしたがるでしょう。先生のときは他の人ともしてるって知って嫌になっちゃったんだけど。・・・・」
普通に話しているつもりが涙が出てきた。

鍵を返せば済むことさⅢ

2008年08月28日 11時29分33秒 | Weblog
 ヒデオは言葉のないころの「ベース」を思い出していた。いつから言葉が必要になってきたのか。言葉のないころは誰と言うことを気にせずにそこに居れた。関係はそこに集う者たちの信頼感のみで成り立っていた。「救い」を求めるものたちが居場所に辿り着くのは偶然のなせる業でしかなかった。それでも人は集まり、さらに増殖した。統制が必要となり、そこにヒロムが現れた。と言うよりもヒロムの言葉が必要となった。ヒデオはヒロムの言葉に感動した自分をも思い出していた。イベントとしての「神聖な儀式」に向かっていたときの高揚した自分。その後の自分、達成感はあったが心のどこかで覚めていくものがあった。すべてはヒロムの言うように偶然の賜物でしかないのか。生まれる場所を選べないように、偶然の支配の中でただ生きているだけなのか。必然として存在するものは「死」のみ、であると言うこと。ヒロムの言葉を頭の中で追ってみた。電車は渋谷駅に着いた。ヒデオの肩越しで寝ていたアキコを起こして電車を降りた。
 ヒデオがアキコを誘った。
「あら、珍しい。」
「何が。」
「あなたが誘うなんて。」
確かにヒデオがアキコを誘ったことはなかった、アキコがしばしば押しかけてはいたのだが。
「それなら、もう少し飲まない。」
「どこで。」
「ここで。」
そう言うとアキコがヒデオの腕を引っ張った。二人は掲示板を見に行った。笑った。かつてはこの掲示板が頼りだったのだ。つい昨日のことのようで、けれど果てしなく遠い昔のようにも思えた。公園通りを歩き、パルコの脇を入ってスペイン坂を降りた。「ベース」はあった。それは思ったより狭いスペースだった。血だらけの仁やマサルの事件、同じことを思い出しているのを感じた。二人はスペイン坂を下り、道玄坂小路を抜けて、ホテル街のほうに階段を上った。ホテル街に付く前のロック喫茶へアキコはヒデオを誘導した。
 大音量でディープパープルのハイウェイスターが流れていた。ミサキは三階にヒデオの腕を引いた。二人は隅の靴を脱いで上がる席に腰を下ろした。店員が二人をつけるように水のグラスを持って上がってきた。ヒデオはストレートジンを、アキコはワイルドターキーを頼んだ。注文したものが運ばれると店員は階下に消えた。
ここなら、隣の客に話を聞かれることもなかった。ヒデオは音楽にあまり詳しいほうではなかった。ただ、その大音量にエネルギーを感じた。
 アキコが聞いた。
「どうしたの。」
「うんっ。」
しばらく沈黙が続いた。
卓袱台のようなテーブルを挟んで座っていたアキコがヒデオの脇に移動した。身を寄り添うようにしながら、アキコが聞いた。
「どうしたの。」
肩に擦り寄るアキコの目を見つめた。

鍵を返せば済むことさⅡ

2008年08月27日 15時47分17秒 | Weblog
ヒデオは「ベース」の管理をしなくなっていた。ヒロムの組織したチームがシフトを決め、ヒデオの負担を軽くした。ヒデオは人前にたって話をするタイプではなかった。だから、負担が軽くなった分、「ベース」に顔を出す回数も減った。以前は毎日、鍵を開け、鍵を閉めていたのだが。ヒデオの疑問、第一回「神聖な儀式」からヒデオは「ベース」について考えていた。「何のために、何を目的として」、その答えが出なかった。まず自分が何故、「ベース」に行くようになったのか。今はヒカルを助手席に乗せて、現場を仕切っているが「ベース」に迷い込んだときは自分が何なのか、何故ここにいるのかも解らない状態だった。生きることがすべて耐えることと同じように思えていた。そのころ、周りの人間はヒデオの前から姿を消し、たった一人取り残されてしまったような気がしていた。言葉にはできなかったが、人に対して不信感を持ち孤独に打ち勝つためにのみ一生懸命働いた。
 ヒデオは「救い」が欲しかった。初期の「ベース」の雰囲気はそこいるだけで個としての存在を忘れさせてくれた。自分は誰でもないけれど、そこにいる。同じように誰でもない人間がそこに集う。個としての存在の意味がなくなることで全体に調和する感覚に入ることができた。名前も何もなく、ただ、そこにいる事実だけが自分を認識させてくれた。肌の温もりは存在自体を教えてくれた。セクスはその空間と同じように共有感を増幅させた。誰でもない自分でいながら、存在を認めることができた。「仁」、その存在はそこに集う者たちを勇気付けた。彼等の危機を救い、呼吸によって統一される精神の「ベース」へ導いた。仁の存在がヒデオをさらに「ベース」へ引き付けた。

鍵を返せば済むことさ

2008年08月26日 15時07分02秒 | Weblog
 ヒロムとヒトミの熱い関係が続いている間にヒカルとミサキに動きがあった。ヒカルは月に一度か二度、アパートに戻り、家賃を払ったり、掃除をしたりしていた。もちろん一人で出かけた。一ヶ月か二ヶ月位してだろうか、それなりの貯えができた段階でヒデオに相談した。二人は桜上水の近くは嫌だった。安くて二人で住めるところを探した。だが、東京の東の方はあまり気が乗らなかった。結局、池ノ上と駒場東大前の間の風呂のないキッチンが四畳半と六畳のアパートを借りた。ヒカルは親にアルバイトを始めたので引越すとだけ告げ、白金のアパートを解約した。金はと聞かれたが、アルバイトで貯めたので何とかなると言い訳した。 ヒデオが何かあったのかと聞いてきたが、ヒカルはヒロムの世話にばかりなっていられないとだけ答えた。
 引越しの日、ヒデオが車を出した。ヒロムの家には家財道具がそれなりにそろっていたがヒカルの所持品は一人暮らしを絵に描いたように少なかった。電化製品は小さな冷蔵庫とテレビ、ラジカセだけだった。一口のガス台は備え付けのものだった。衣類も衣装ケース一つで済んだ。彼らの生活がいかに禁欲的なものであったかを物語るようにヒロムのところから持ち出されたのは綿製のボストンバッグ、一つしかなかった。ヒデオは仕事道具をすべて降ろして、引越しに備えたが、すべての荷物を入れても荷台はガラガラだった。
 下見はしていたものの、部屋について、ヒカルはガス台のないのに驚いた。ヒデオは笑った。部屋を片付けていろ、と言って車を走らせた。下北のディスカウントショップで二口の火口と魚焼きが付いたガス台を買った。ヒデオが戻ると片付けは終わっていた。ヒデオは引越し祝いだといってガス台を置いた。二人は感動した。不揃いのわずかな食器とフライパン、アルミの鍋が一つ、ヤカン、台所用品はそんなものだった。食器棚はカラーボックスだった。部屋の真ん中にガラステーブル、布団も一組しかなった。ヒデオは大丈夫かと聞いた。二人は見つめ合い、同じタイミングで笑顔を返した。ヒカルは作業服だった。ミサキはヒカルと逃げ出した時のジーンズとタンクトップにスタジャンだった。秋風が吹くにはまだ早かった。ミサキが走り、コーラと缶コーヒーを買ってきた。朝、早くにはじめた引越しは昼には終わっていた。昼飯を食べに行こうと、ヒデオが言い、近くの食堂に出かけた。引越し祝いだと、ヒデオが伝票を取った。ヒカルは車を置いて、夜、遊びに来てくれとヒデオに頼んだ。ヒデオは笑いながら肯き、帰って行った。
 ヒカルも一様、学生なので本もあった。それもカラーボックス一つだった。部屋にはカラーボックスが一つ、その上にテレビがのり、ラジカセがその前に置かれた。二人はガラステーブルをはさんで座り、見詰め合った。軽くキッスをして、何が必要か、話し合い下北に出かけた。二人は楽しかった。下北にはいろんな雑貨屋があった。ほとんどがウィンドウショッピングになったが、ゴミ箱代わりの金物のバケツを買ったり、押入れを改造するための材料を買ったり、二人で話して、二人で決めるのが楽しかった。予算はなかった。工夫をした。八百屋に行って野菜を買った。ビールの安い店を探してビールも買った。調味料も買い揃えた。最後に肉屋に行って、牛肉を買った。部屋に戻り、ミサキは料理をはじめ、ヒカルは押入れを改造して簡易洋服ダンスを作った。
 夜はすぐにやってきた。ヒデオはアキコを連れたきた。汗まみれの二人を見て笑った。ヒデオがまず風呂に行くか、と言い、近くの銭湯に行った。銭湯は歩いて5分くらいだった。時間を決め、銭湯に入り、男組が待たされた。ミサキはワンピースに着替えて出てきた。そのミサキを見て、ヒデオはヒカルの脇腹を突いた。部屋に戻り、アルミの鍋で作ったスキヤキをテーブルにのせ、祝杯をあげた。アキコは土産にワイルドターキーを持ってきた。ビールを飲みほし、ターキーを飲み、心地良くなっていった。
 時計を見て、腰を上げようとしたとき、ヒカルが二本の鍵を差し出しヒデオに言った。
「ヒデオさん、これ、ヒロムに返してください。」
「エッ、何で、お前が返せばいいだろ。」
「そうなんですけど・・・・」
ヒデオはヒカルの表情から何かがあると察した。
「いいよ。」
何も聞かず、ヒデオは鍵を受け取り、じゃあまたといって、まだ、飲みたそうなアキコを引っぱり部屋を出た。

あなたの背中に手を添えてⅢ

2008年08月22日 14時23分17秒 | Weblog
ヒトミはゆっくり腰を落とした。ヒロムはM字に開いた太腿をかかえるようにして
ヒトミ自身が近づくのを待った。ヒトミの尻で周りの光が奪われた。暗闇の中で白濁色の体液が光った。ヒロムはそれを吸いながら、ひとみ自身の隆起した部分を舐めまわした。ヒロムの舌は以前のようなこわばりはなく滑らかに動いた。ヒトミは声を出しそうなった。ヒトミのアパートの壁は薄かった。出勤準備に周りの住人が目覚めるころだった。声を喉元で堪えた。フーと息が漏れた。ハッ、ハッと息が弾んだ。ヒロムはヒトミの尻を頭でツン押した。ヒトミはそれを合図に両膝をヒロムの脇まで移動してヒロムの上に重なった。既に硬さを取り戻したヒロム自身を右手で握り、尻を突き出した。ヒロムは頭を起こすようにして再び、ひとみ自身を攻めた。ヒトミもヒロム自身をくわえた。くわえながら、自然と腰が動いてしまった。
ヒロムはヒトミの腰を押さえた。持ち上げて、もう一度向きを変えるようにうながした。ヒトミはヒロムの顔が見えるように向きを変えて立ち膝になり、ヒロム自身を受け入れた。収縮は始まっていた。ヒロムは手を伸ばして、ヒロムの乳房を擦った。突き上げようとすると前にヒトミの腰が運動を始めた。前に、後ろに、左右に、円を描くように、不規則な収縮を伴って動き出した。前に倒れそうになるとヒロムの手が支えになった。動きは激しさを増した。ヒトミは、声が出そうになるのを脇に投げ出された家着を取り上げくわえてこらえた。抑制はさらに刺激を増した。収縮が規則正しくなった。ヒロムも水牛が目を覚ました。身動きできないほど密着した極部の動きにヒロムは目を瞑った。ヒトミは胸にあるヒロムの腕を強く握り締めた。腰は自動機械のように激しく動き、ヒロムの分身を飲み込んだ。ヒトミは家着をくわえたまま、ヒロムの上に倒れ込んだ。二人はそのまましばらく動かなかった。ヒロムは頬に当たる唾液の滲み込んだ家着をヒトミの口から外した。ヒトミの潤んだ目がヒロムを見た。勢いの納まったヒロム自身がヒトミから離れた。ヒトミは立ち上がり、壁にかけてあるハンガーからバスローブを取って羽折った。ヒトミは家着を持って流しに向かった。小さな流しに家着を投げ入れると部屋を出た。
 ヒトミのアパートもトイレは共同だった。朝、一番早い岡野さんに合わないか、心配だった。トイレで事後処理をして、部屋に戻るまで誰にも合わなかった。ほっとした。部屋に戻るとヒロムは裸で横になったままだった。ヒトミは顔を寄せて、ヒロムにキッスをした。バスローブをほどき、もう一度、ヒロムに重なった。ヒトミは耳もとで囁いた。
「明日も来て。」
ヒロムはフッと顔を上げて、ヒトミを見た。目が合うとヒロムの頬に口づけ、唇に口づけ、ヒロムの胸に顔を埋めた。少し重さを感じながら、ヒロムはヒトミの背中に手を添えた。

あなたの背中に手を添えてⅡ

2008年08月18日 16時02分07秒 | Weblog
静かに興奮は高まっていった。ヒロムは両足に力を入れ、踏ん張った。ヒトミの手の動きも唇の動きも激しさを増した。ヒロムの手に力が入った。さらに奥まで入れようとしたとき、ヒトミの手に力が入った。ヒロムは腰を引いた。ヒトミは一度唇を離し、あらためてくわえ直した。ヒロム自身がピクンと動く気配を感じて、ヒトミは唇を離した。すかさず、睾丸をまさぐっていたタオルでヒロム自身を包み請うんだ。柔らかく握ったヒトミの手の中でヒロム自身が脈打った。暖かい液体がタオルの中に染み渡った。タオルの感触がヒロム自身の頭を刺激した。ドクっ、ドクっと再び、脈打った。ヒロム自身が静かになるとヒトミはタオルに拡がったヒロムの分身を拭い取るようにタオルを丸めた。

 裸のヒロム、ヒトミが流しに行き、戻ってくるとヒロムはヌーヌーのような家着の裾を持ち、スーと引き上げた。ヒトミも腕を上げ、協力した。ヒトミの両肩を持ち、今度はヒトミを目の前に立たせた。ヒトミの二の腕を取って、頭の上に上げ、露わになった乳房に唇を近づけるといきなり乳首にキッスをした。瞬間的に身体を離そうとするヒトミを腕を持つ手に力を入れて止めた。スッと唇を離し、舌先を立てた。膝を折りながら、舌先でヒトミの肌をなぞり、手は脇腹を滑らせてヒトミ自身に近づいた。柔らかい腹の上を通過し、モジャモジャを掻き分けた。フッと触れたヒトミ自身は既に体液で満たされていた。手を離して、ヒトミの右足をヒロムは左肩に乗せた。尻のうしろからに手を回し、背中を支えた。ヒトミの股の間にもぐりこむようにして下から、ヒトミ自身にキッスをした。ヒトミ自身の隆起している部分を舌先で転がした。片足立ちの状態でユラユラするヒトミの左腿を右手で支えた。舌先を硬くしてヒトミ自身の入り口に押し込んだ。鼻先を自身の隆起に押し付けた。ヒトミの背中がジワっと汗ばんできた。と同時にヒトミの腰が動き出した。ヒロムの顔に押し付けるようにヒトミの腰が攻めてきた。ヒロムの左手が外れた。ヒロムはその重さに耐え切れず、そのまま倒れ込んだ。ヒトミはヒロムが完全に横になるまで両足で耐えた。ヒトミはヒロムの顔の上に自身を持っていった。両足をM字に開いて腰をずらし、ヒロムの舌先がキッスしやすいところで止めた。ヒロムはヒトミの尻に手を掛けた。上に押し上げると反転させた。ヒトミは一度腰を上げ、ヒロムの頭をまたいで、方向を変えた。

あなたの背中に手を添えて

2008年08月12日 13時02分27秒 | Weblog
 二人の行為は誰かそれを知る人がいれば、舞い上がった恋人同士に見えただろう。ヒトミはヒロムを離したくなかった。ヒロムが性的なものに溺れることを望んだ。ヒロムは性的な快感に自分が支配されていくことを感じながら、それを克服しようとした。二人はさらにその激しさを増して交わった。時間があればところかまわず、身体を寄せ合い、挿入に向かった。ヒトミは限界が来ていた。店を遅刻するようになり、段々、休みがちになった。ヒトミは店をクビになった。そのことをヒトミはしばらく誰にも言わなかった。わずかな蓄えはあった。
 ヒトミは店の終わる時間が近くなるとヒロムとの待ち合わせ場所に向かった。ヒロムは少し目を離すと鬚もじゃの男に戻ってしまう。特にミサキからの情報収集が終わってからはその傾向が強くなった。そんな時はテルホに行った。まず、激しい性交渉を済ませてから、風呂に入り、ヒトミはヒロムの鬚を剃った。ヒロムの身体を洗い、軽いマッサージをして、時にはそのまま、二度目の性交渉に入った。泡の付いた手の感触はヒロムにミサキの手の感触を思い出させた。そのころになると、ミサキとの関係から生まれたコンプレクスからはヒロムは自由になっていた。
 そんなある火曜日、ヒロムは最後の会員が「ベース」を出てから、ヒトミのアパートに向かった。始発電車が動き始めていた。まだ朝の喧騒には早い時間にそっと玄関の戸を開け、ヒトミの部屋のドアの前に来るとノックをする前にヒトミがドアを開けた。ヒロムを部屋にいれ、ドアを閉めた。キッスをした。いつもなら、そのままセクスが始まるのだが、ヒロムの汗の臭いがきつかった。ヒトミは下着も着けず、ヌーヌーのような服を着ていた。乳首の形がはっきりわかった。ヒロムは服を買わない。だから、田舎から持ってきた洋服しかない。その日も、ボタンダウウンのシャツと綿のスラックスだった。ヒトミはヒロムのボタンを外した。ヒロムは部屋の真ん中でたったままだった。ゆっくりとシャツを脱がせ、スラックスのベルトを外し、ズボンを下げ、足を持って靴下を脱がせ、トランクスを下げた。西向きのヒトミの部屋には朝日は当たらない。ぼんやりとした明るさの中でヒロムだけが裸になった。ヒトミは流しでタオルを絞るとヒロムの身体を拭いた。けして痛みの感じることのない強さで、それでも適度な刺激を伴ってヒロムの身体を拭いた。首の回りから肩、胸、腕、背中、腰、尻、太腿、足先までヒロム自身を残して柔らかく、そして、微かな刺激を伴って。最後に自身をタオルでくるんだ。睾丸のほうから拭き始め、タオルの中で転がした。手を伸ばして拭いているヒトミの胸元から、その大きく開いた胸元から乳首が時折、覗いた。ヒトミの行為を見ていたヒロムはその視覚的な刺激に自身が反応するのを感じた、睾丸からの刺激とともに。手の中で硬くなってきたヒロム自身を両手で拭いてから、ヒトミは、タオルの上から左手で睾丸を押さえ、右手で自身を握った。手の感触とは違う刺激。睾丸を上に向かうように押し付け、自身をタオルごしにしごいた。ヒロムがヒトミの頭に手を添えた。それを合図に、ヒトミはタオルから自身の頭だけを出して、その割れ目を舌先でくすぐった。体温のある突然の刺激にヒロムは一瞬、腰を引いた。それを引き戻すようにヒトミはヒロム自身を握り直した。それはヒロムの傘を刺激した。ヒロム自身はさらに固さを増し、天を向くような方向に力が入った。ヒトミはタオルから顔を出しているヒロム自身を今度は含んだ。割れ目の付け根を舌で押し上げるように刺激をして、平たい部分に軽く歯を立てた。今度は腰を引かず、ヒロムは腰を突き出した。ヒトミはタオルを両手で睾丸だけを包むようにしてヒロム自身をむき出しにすると唇に力を入れながら深くくわえ込んだ。喉の奥にヒロム自身があたるような気がした。ゆっくりと頭の部分まで戻して、また深くくわえた。徐々にその動きを早めながら、タオルの中の睾丸を握る力を強く、弱く動きのリズムに変えていった。

だから、お前がⅦ

2008年08月11日 13時48分52秒 | Weblog
ヒトミの身体は走りながら、ドンドン巨大化していった。博物館の入り口に近づき、ドアのところまで来ると既にその高さを超えていた。ヒトミはドアを突き破り、大きくジャンプした。ヒロムの身体はヒトミの強大化に反比例して矮小化していった。が、ヒロム自身と睾丸はヒトミの巨大化に合わせて大きくなった。その飛翔から着地するとそこは柔らかいベッドの上だった。強大化したヒトミの唇がヒロムに近づき、自身をくわえた。矮小化したヒロムの目には怪獣が口を開いているように見えた。ただ、恐怖はなかった。勃起した自身はその脊椎では耐えられないほど重かった。ヒトミは両手で自身を支えるようにしながら、唇を上下した。快感が脊椎を伝わって、と言うよりもダイレクトに脳に伝わった。まさしく全身が快感で解けてしまいそうな感覚にとらわれた。ヒトミは唇を離すと、ヒトミ自身にヒロム自身を運び、挿入した。ヒロムはツルンとした感覚を自身から感じるとそのままヒトミの中に入ってしまった。狭いトンネルを自身に引っ張られるように進み、柔らかな体液の中に、すべてが赤く発光している世界に引き込まれて行った。性的なものとは違う快感、というより安堵感がヒロムを包んだ。ヒロムは脊椎も脳もその眼球もすべたが一つになり、丸い肉の塊になっていくのを感じた。いつしか、それはヒトミの子宮の中で定着し、新しい生命として次の出番を待っているのだった。
息の仕方が解らない。こんな肉の塊では息ができない。・・・・
と思った瞬間、息苦しくなり目が覚めた。目の前にヒトミの乳房があった。

 眠りに引き込まれる前のヒトミがヒロムを抱きしめたのか、偶然、そうなったのかは解らなかったが、ヒトミの乳房の中にヒロムは顔を埋めていた。ヒロムは身体を起こし、ヒトミを見た。その寝顔は綺麗だった。ヒロムはヒトミの乳首にキッスをした。ヒトミはビクンと反応したが目は覚まさなかった。ヒロムはヒトミの毛布をかけ直し、体勢を整えて自分も毛布をかぶった。
 
 それからの一ヶ月ほど、二人は毎日、交わった。ヒトミの店が終わるのを待って、テルホに出かけた。時には、テルホに行くまで待ちきれず、雑居ビルの非常階段の踊り場で交わった。明治神宮の木立の影で、代々木公園のサクラの木の下で、恵比須と渋谷の間のガード下で、人目に付く可能性が二人をさらに熱くした。交渉が終わってから、時間差をつくり、「ベース」に出向いた。秘密にする必要などないのだが、二人は別々に「ベース」に入った。ヒロムの講和が終わるまでヒトミが待つこともあった。ヒロムはいいのだが、ヒトミは徐々に疲労感にさいなまれた。「ベース」を出てから、部屋に戻り寝る。いつも睡眠不足の状態が続いた。

だから、お前がⅥ

2008年08月08日 16時39分47秒 | Weblog
さらに周りの景色が変化した。アクリルの透明な箱がヒロムの上に被せられていた。博物館のような部屋の中の台座に乗せられ、陳列されていたのだ。いかにも金持ちという雰囲気の紳士、淑女がヒロムを興味深げに観察していた。ヒロムは自分の姿を、変わり果てた姿をジロジロと見られているのに耐えられない屈辱感を覚えた。動こうにも動けない。どうしようもない絶望感と羞恥心がヒロムを捕らえた。涙が出そうになった。その時、アクリルの箱の向こうにヒトミの顔が見えた。ヒトミは周りにいる人たちを掻き分け、箱に手を掛けた。エイッと気合を入れて箱を持ち上げ、ヒロムを抱えあげた。警備員がそれに気づき、二人に近づいた。ヒトミはヒロムを抱えたまま、警備員に体当たりし、凄い勢いで走り始めた。

だから、お前がⅤ

2008年08月05日 13時05分27秒 | Weblog
どんな状況なのか、確かめようと頭を起こした。その腕はたこの足のように自在に蠢き、ヒロムの身体に絡まりついていた。ただ、その手はやはり、女の手で、ヒロムに触れるその瞬間はミサキのあの手の感触を思い起こさせた。グルグル巻き状態の中で自身だけが天に向かってそびえていた。女の掌はそれを最後に残したかのようにゆっくりと握り締めた。快感が、いや、感触はやはり、ミサキの掌の感触だった。その手が動き出した。快感が走りそうで、走らなかった。もう一度、頭を起こして自身を見るとその先の空が暗くなっているのに気づいた。入道雲が空を支配し、雨雲が沸き立っていた。自身の先の砂の色が白から黒に変わり、激しい雨がヒロム目掛けて近づいてきた。豪雨は足元からヒロムを襲った。大粒の雨に当たった部分から、雨の分子に溶け込むように細胞が解けていった。絡まりつく女の手も解けていった。恐怖のあまり声が出た。
「わー」
と叫びながら体の解けていくのが皮膚の感触として、さらには筋肉、内臓の感触として取れえられた。このまま消えてしまうのか・・・・・。
 通り雨はヒロムの身体を舐めまわして、頭の上へと去っていった。目を閉じ、すべてがなくなってしまったような消失感に襲われた。それでもと思い頭を上げた。目は見えた。頭を起こすと脊椎とそれに絡まる神経だけが残っていた。その先にはヒロム自身と睾丸がその神経の辿り着く先として残っていた。つまり、頭と脊椎と自身のみがヒロムという存在のすべてになってしまった。