仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

やがて無言の時は過ぎ2

2009年10月30日 17時35分23秒 | Weblog
電車の窓から暗い川の両岸に並ぶ、街灯の明りが見えた。

親方が次の現場の予定を伝えに来る前に、二人は電車に乗っていた。
そうするべき何かが二人にあったのか。
次の仕事が何処なのかくらいは聞いても良かったのではないか。

荷物はほとんどなかった。
女がポツンとつぶやいた。
「お化粧が・・・・。」
電車が駅に着いた。
男は女の手を取った。
地方都市の閉店時間は早かった。
改札を抜け、駅前を見回した。
明りのついている薬屋に飛び込んだ。
店員はすでに閉店に向けて、片付けを始めていた。
「あの、あの、少し、少し、いいですか。いいですか。」
男が言った。
女を店の中に押し込んだ。
女は慌てた。
ファンデーションと口紅だけ買った。
男が金を出した。
「ありがとう、ありがとう。」
女は繰り返した。
男は女の左手を引いた。
女はだいじそうに右手の紙袋を握った。
二人は走って電車に戻った。
電車は二人を待っていたかのようにゆっくりと動き出した。

やがて無言の時は過ぎ

2009年10月29日 16時59分19秒 | Weblog
闇の中で手さぐりをするように女は自分の下腹部を擦った。
その事実は口に出して言っていいものか、迷っていた。
もう、三ヶ月になった。
医者に行ったわけではなかった。
時々、嘔吐が女を苦しめた。
女にとって、それははじめての経験だった。
マサルとの戯れ。その時はその事実はやってこなかった。
今、飯場の賄い所で食用油の臭いを嗅ぐと必ずといっていいほど、吐いた。

女はその事実に気付いてからも、毎日の営みを拒みはしなかった。

その日はその現場があける日だった。
男は焼酎を飲んで帰った。
酔いのせいか、男は陽気だった。
女は今日ならと、思った。
「できたみたいです。」
その言葉だけで、男は感じた。
男の顔はこれ以上ないというくらいの笑顔になった。
きつく抱きしめようとして、パッと手を離した。
女はその手を取り、自分の下腹部に誘った。
男の手がやさしく触れた。
その手からは暖かく柔らかな波が女の身体全体に拡がった。
女は男の頭を抱え込んだ。
涙がこぼれた。

星が見えるまで5

2009年10月28日 15時58分00秒 | Weblog
 警護に当っていた武闘派の報告をツカサは聞いた。「流魂」の執行部は想像される女性との性的関係を問題にすることはなかった。ただ、ヒロムの変化の原因が女性にあるのではないかと疑った。それは偶然が支配する男女の関係だったのだが、執行部は女性について調査した。

桜井薫子 37歳 東京都港区広尾の株式会社 六興商事 社長 桜井耕造の一人娘、上智大卒。 

夫 直和は六興商事の専務 立教大卒、卒業後、何社かの転職を経て、六興商事に入社、土地取引、マンション一棟買い付け等、大胆な営業で成績を上げ、桜井に気に入られた。桜井の勧めで薫子と結婚。世田谷の家は耕造が結婚時に購入、二人の新居とした。が、そのころ、直和は広尾の会社の近くにマンションを借り、そこに住んでいた。直和の経営手腕、営業力から耕造は別居について意見することはなかった。むしろ、一人娘をわがままに育てたことを恥じた。

そして。

その日、火事があった。ヒロムが鍵を確認しに戻ったその夜、書斎近くと思われる場所から出火し、家は半焼した。焼け跡から、女性の遺体が発見され、鑑定の結果、薫子と断定された。出火原因については火元のないところからということもあり、不審火の疑いも含めて捜査が続けられていた。

 ケビンは何度も主人を起そうとした。が、薫子は起きなかった。ケビンは動物の本性から、火を恐れ、逃げ出した。近くの少女が焼け跡近くにたたずむケビンを拾った。が、けして慣れることがなかった。仕方なく出火後、五日目に整地が終わったその場所に戻した。直和も、耕造もケビンの存在すら、知らなかった。

執行部はその事実をヒロムに伝えることはなかった。

星が見えるまで4

2009年10月27日 14時28分20秒 | Weblog
 窓から差し込む光が、街灯の明りに変わった。ヒロムは重さをさほど感じない女性を抱きかかえ、階段を上った。一つ目の部屋のドアを女性を落とさないようにしながら開けるときつい男性用の整髪料の臭いがした。隣の部屋のドアを開けた。そこは不思議と臭いがしなった。ベッドもなかった。
 次の部屋のドアを開けた。女性の甘い臭いがした。その彩を確かめることは夜になりかけた空気の中では難しかった。目が慣れるとそこは少女の部屋のようだった。出窓にはフランス人形が並んでいた。ベッドカバーにフリルが付いていた。やはり、アンティークの調度品で構成された部屋は貴族の令嬢の部屋、そんな感じがした。そう感じただけなのだが。
 ヒロムは女性をベッドに降ろした。セミダブルベッドのカバーを半分待ち上げ、女性が眠れるようにした。ヒロムはもう一度、女性を抱き、ベッドに寝かせた。羽毛の肌がけを掛けた。しばらく女性を見ていた。女性の脇にもぐりこんだ。女性は目を覚まさなかった。ヒロムは女性が目覚めるまで待とうか、と思った。が、ヒロムはベッドをでて、外に出た。
 新居に着く手前になって、鍵を掛けずに来たことが気になった。ヒロムは小走りで戻った。その家の明かりは全て消えていた。玄関に回り、ドアを開けようとすると鍵が掛かっていた。安堵の気持ちが拡がった。呼び鈴を鳴らすこともなく、ヒロムは新居に戻った。

 次の日、ヒロムは熱を出した。時ならぬ風邪に薬学部が跳んできた。
「宰、お加減はいかがですか。」
そういうと抗生剤や解熱剤、栄養剤と数種類のクスリをおいていった。ヒロムはうんざりしていた。常連に全部処分するように言った。
「困ります。私が叱られます。」
「全部飲んだといっておけ。」
ヒロムの熱は二日間下がらなかった。それでも、三日目には食事が取れた。ヒトミは新居には戻ったがヒロムの寝ている書斎に顔を出すことはなかった。その頃、ヒロムは深夜まで本を読み、書斎に用意した簡易ベッドで眠るのが習慣になっていた。身体のだるさはなかなか抜けなかった。
 一週間が過ぎた。
 その日は朝の目覚めも良かった。午後になって、ヒロムは久しぶりに散歩に出かけた。砧公園のおなじベンチに腰を下ろした。公園ではあの雨の日と同じような景色が繰り返されていた。本は持ってこなかった。しばらく、ボーっとしていた。ふと思い立ち、女性の家のほうに歩き出した。ヒロムの散歩道は女性の家の反対側から公園に入るコースだった。
 家が見えるはずの道路まで来てヒロムは目を疑った。新居とおなじ形の家がなかった。家の後ろに見えていた大きな家の外壁が見えた。家のあった場所に行くと綺麗に整地され、ロープが張られ、売り地の看板が立っていた。隣との境界線のあたりに水道の蛇口が一つぽつんと立っていて、その脇にダンボールが置かれたいた。行って見ると中にケビンがいた。一緒に入れられたドッグフードはほとんど空だった。ヒロムが手を差し伸べると愛らしく舐めた。ヒロムはケビンを抱きかかえ、新居に戻った。涙のあとを玄関の前でふき取って。

星が見えるまで3

2009年10月26日 17時31分00秒 | Weblog
 外国製の大きな冷蔵庫があった。中にはやはり、輸入食材が多く入っていた。ペリエの栓を抜き、綺麗に並べられた棚からグラスを取った。淵に彫刻の施されたトレイが目に入った。グラスをのせ、リビングに運んだ。
 女性は腕をクロスさせ、テーブルに頭をつけていた。フッと顔を上げた。白く透き通るような肌が怖いほど綺麗だった。ヒロムは一瞬、足を止めた。
「勝手に、持ってきたけど・・・。」
「お優しいのね。」
ヒロムはグラスをテーブルに置いた。女性は身体を起こし、ゆっくりと水を飲んだ。ヒロムは、女性と向かい合う形で椅子に座った。この前の訪問の時と座る場所が逆になっていた。女性は飲み干すと、グラスを置いた。
 ヒロムを見つめた。
 ヒロムも女性を見つめた。
 言葉は何も出てこなかった。
 時計の音が聞こえた。
 女性は立ち上がった。ヒロムの座っている椅子の空いているスペースに腰を下ろした。ヒロムは女性の肩を抱いた。
 言葉はなかった。
 体温が感じられた。
 息づかいが伝わった。
次の瞬間、女性にかかる重力がヒロムの胸に伝わった。女性は静かな息をして、目を閉じていた。ヒロムは女性を拒まなかった。受け入れるのとも、違っていた。女性の静かな寝息とともに現実に存在する身体ではなく、もっと違った部分が一つになるような、それが、当たり前のことのような、不思議な感覚にヒロムはなっていた。退屈な時間ではなかった。満たされているのとも違った。
 ヒロムの頭の中に二つの顔が浮んだ。一つは公園で言い訳をしたときの顔と、もう一つは先ほど、フッと顔を上げた時のそれだった。叱られた幼い子供のような顔。可愛らしさの溢れた顔。そして、その歳を感じさせる顔。けして、老いて見えるわけではなかった。いま、その顔を覗きこむと、綺麗な寝顔になっていた。
 時間はゆっくりと流れた。

星が見えるまで2

2009年10月19日 17時45分42秒 | Weblog
 表札を見れば名前など簡単にわかった。ヒロムは記憶からも表札からも目をそらした。中に入って、ヒロムはこの前座った椅子に女性を座らせた。
「ほんとにすみません。」
「横にならなくてだいじょうぶですか。寝室は二階ですよね。」
「そんな・・・・。」
「何か飲物を持ってきましょうか。」
「でも・・・。」
「キッチンの場所はわかります。」
ケビンが玄関で鳴いていた。ヒロムは玄関戻り、ドアを開けた。ケビンは心配そうに主人のもとに走った。
「ケビン、ハウス。」
女性がそういうとケビンは階段を駆け上がった。ヒロムは目で追うだけだった。ハッとして、キッチンに向かった。キッチンは広かった。
といってもヒロムの新居と変わらないのだが、ヒロムの新居は常任と常連が入れ替わりで二人の世話をした。ヒロムがキッチンに入るのは深夜、飲物を取りに行く時だけだった。

星が見えるまで

2009年10月15日 16時50分14秒 | Weblog
 振り向くと女性が立っていた。はじめてであった時とおなじ服装だった。
「ごめんなさい。ほんとうにごめんなさい。でも、怖かったの。ほんとうに怖かったの。」
ヒロムには女性がおびえる小動物のように見えた。
「昨日も、おとといも、その前の日も、あなたが・・・・・、私も、・・・・でも怖かった。私、あなたの姿が見える場所まで来たの。でも、あなたに見られるところにはいけなかった。怖かった。ケビンを離して、あなたがケビンを撫でてくれなかったら、と思ったら、怖くてケビンをきつく抱きしめていました。振り向いて、走っていました。
 昨日も来て下さった。雨の中で、ずっと・・・・・あなたが見えて、あなたに気付かれない場所で、そこの繁みで・・・・私も待っていました。あなたが私に気付いてくれることを・・・・・、でもね。今日ね。いけないと思ったの。ほんとうに勇気を出さなくてはいけないと思ったの。だから、だから・・・・・・。あなたはケビンを撫でてくれた。あなたは来てくれた。私は、私は・・・・・。」
そう言うと女性はフラフラ揺れて、しゃがみこんでしまった。ヒロムはケビンを手放し、女性のところに駆け寄った。
「どうしました。」
「すこし、めまいが・・・・。」
ヒロムは女性を抱きかかえ、女性の家に向かった。ケビンは二人についてきた。
「ケビンは夫にも慣れていないのよ。そのケビンが・・・・、手を離したら、あなたのところに駆け出すわ。もし・・・・もし、あなたがケビンを撫でてくださらなかったら・・・・・。」
女性は震えていた。
「でも、でも、あなたは撫でてくれた。ケビンを、ケビンを。」
「しゃべらないほうが・・・・。」
「ごめんなさい。」
ヒロムは女性が女性の家に向かっていることについて何も言わないのが不思議だった。
 女性の身体は華奢だった。ヒトミとは違っていた。ヒトミはもともと、肉感的な身体だったが、金をかけ、トレーナーとエッステシャンに磨かれた身体は出ることころが出て、しまるところがしまり、力強い美しさを身につけていた。その力強さは、かつてのヒトミとは違う人格も生み出したようだった。手の中の女性は柔らかかった。
「もう、もうだいじょうぶです。」
「お家までお送りします。」
「ほんとに、ほんとに、」
というだけで身体には力は入らず、ヒロムに身を任せていた。玄関に着くと、パンツのポケットに手を入れ、ヒロムに鍵を渡した。

王様の新居10

2009年10月14日 17時36分04秒 | Weblog
 次の日、ヒロムはおなじベンチに座っていた。
夕暮れが訪れ、街灯に明りが灯った。ヒロムは腰を上げて、新居に戻った。

 また、次の日、おなじベンチに座った。
その日は本を一冊、持ってきた。コリン ウイルソンの「アウトサイダー」だった。もう何度も読み返した本だった。その行間さえも想像できた。本が読めないほど暗くなるまで、ヒロムはじっと座っていた。

 三日目は、雨だった。
ヒロムは傘を差して、ベンチの近くの東屋で立っていた。女性の家を訪ねるわけでもなかった。
「ふー。」
溜息が漏れた。ヒロムは新居に戻った。

 四日目。
ヒロムはおなじベンチに腰を下ろした。今日、女性が現れなかったら、明日はやめようと思っていた。犬が足元に絡まった。
「ケビン。」
そう、呼んで頭を撫でた。
「ごめんなさい。」
女性の声がした。

王様の新居9

2009年10月13日 17時02分09秒 | Weblog
 雨の音が消えていた。夕暮れになる前の空に太陽がのぞいた。南向きの窓から窓枠の長い影が格子模様を映しだした。女性は二人がけのソファーに腰をかけていた。ヒロムの気配を感じて振り向き、立ち上がった。すでに細くて長いビールのタンブラーに口をつけていた。
「ごめんなさい。」
「いいえ、そのままで。」
「こちらに座って。」
「はい。」
女性が指差したのは女性の隣ではなく向かいの席だった。ヒロムは不思議な気持ちになった。が、言われるままに座った。
「ごめんなさいね。私、勘違いをしていたのかしら。」
「何をですか。」
「あなたがおなじくらいだと思ったの。」
沈黙。
「わたしね。あまり、人と話をしたことがないの。いえ、日常的なことではなくて・・・・。そう、子供がいないのよ。ずっと、主人と二人でだけで・・・お手伝いさんはいるけど・・・。あなたに声をかけたのは、私としてはすごい冒険だった。あなたがおなじ顔をしているように見えた。同じくらいの年齢のように見えた。だから・・・・。」
「いいですか。」
「はい。」
「あの、名前を、」
「おっしゃらないで。お名前を聞いたら、現実に戻ってしまいそうで・・・。」
「はい。」
「すみません。勝手なことばかり言って。」
「いいですよ。」
「あッ。ごめんなさい。お注ぎもしないで。」
女性はビールの小瓶を持って、ヒロムの前のタンブラーを満たした。
「どうぞ、召し上がれ。」
「ありがとう。」
沈黙。ヒロムはビールを口に運んだ。
「私より、ずっと、お若いんでしょうね。」
「そんなには・・・。」
「おばさんよね。」
「そんなことないですよ。」
沈黙が続いた。夜の臭いがしてきた。明りをつけない部屋の中で二人は静かに時が過ぎるのを感じていた。女性は言った。
「また、いらして。」
「いいですよ。」
「約束はしませんわ。あなたがあのベンチに腰をかけていらしたら・・・・。」
「はい。」
「お嫌だったら、いいのよ。私を無視してください・・・・。もしそうでなかったら・・・・。ケビンを撫でてください。」
「はい。ご馳走様でした。」
「あッ、いけないお衣装が・・・・。」
そういうと女性は脱衣所に走った。ヒロムの服を持ってきた。ガウンをバスローブを脱がせ、衣装を着せた。一度でその構造を把握したようでヒロムは手を出さなかった。別れの挨拶をして玄関のドアを出ようとした時、女性はヒロムの手を取った。
「きっと、きっとよ。」
その手から、あの電流がヒロムに流れた。
「はい。きっと。」
ヒロムはその手をギュッと握り返した。手を離すと、女性の顔が遠のくように見えた。ヒロムは新居に向かって歩き出した。

王様の新居8

2009年10月09日 17時03分08秒 | Weblog
ヒロムはヒトミのときと同じように全裸の女性を想像していた。振り向くと女性は薄い白の長いタンクトップのような浴着を着ていた。跳ね返る水で乳首が透けていた。それは裸体よりエロチックだった。以前のヒロムなら、直ぐにも勃起しそうな状況だった。「流魂」でのポジションはヒロムを変えていた。
 ヒロムは女性の手を取った。
「後は自分でしますから。」
「いえ、ほんとにいいんですのよ。いつも、というのは、うそになりますけど、以前は主人の身体を洗うのが日課だったんですから。」
ヒロムは女性を見た。女性の目は、懇願するような目でも、誘い込むような目でもなかった。普通のごく当たり前のことのように微笑んだ。
「お任せします。」
女性はヒロムの手を取り、足を取り、丁寧に洗った。ヒロムはその指先にかすかな電流を感じた。記憶の奥から、ミサキの手を思い出した。女性はいそぐわけでもなく、それでいて、手際よくヒロムを綺麗にした。最後にヒロムを立たせると、股間と尻を洗った。ヒロムの身体は石鹸だらけになった。
「さあ、流しましょう。」
シャワーで、立たせたまま、全身を流した。長いタンクトップは全体が濡れた。下着は着けていなかった。
「メガネをしていないと可愛いらしいこと。」
女性はヒロムが年下であることに気付いた。金物の棚から、めがねを取って、ヒロムに渡した。
「少し待っていただけます。」
そういうとバスルームを出た。メガネをかけた。洋風のリビングとは違い、バスルームは改築したらしく新しかった。カーテンのかかった窓枠との違和感が面白かった。
「どうぞ。」
声がした。ヒロムがバスロームを出ると、ワンピースタイプの家着に着替えた女性がタオルをもって立っていた。乳首がツンと立っているのが解った。
「どうぞ。」
「ありがとう。」
「こちらにバスローブと、ガウンがありますから。」
「お衣装が乾くまで、こちらで。」
やはり、アンティークの雰囲気が漂う棚に綺麗に置かれいた。
「冷たいものでも用意しますわ。ビールでも・・。」
「あ、アルコールはけっこうです。」
「そう、何がいいかしら。」
「いえ、ビールで。」
「はい。では、あちらでお待ちしています。」
ヒロムはなぜ、とまた考えようとした。女性に性的なものを感じなかった。ヒロムがというより、女性の接近が性的なものを感じさせなかった。
ヒロムはガウンに手を通した。ヒロムには大きかった。