仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

太陽の光はまぶしくて

2010年01月28日 10時25分55秒 | Weblog
「ベース」の景色が少し変わっていた。
マリコとサンちゃん、キーちゃんがミサキの農場で働いていた。土手と母屋の間に、ヒカルとヒデオと、仁が中心になって、六畳くらいの部屋を三つ増築した。不動産屋さんを通して、大屋さんに問い合わせるとほとんど興味がないらしく、勝手にどうぞ、ということだった。
 その頃の「ベース」は不思議な共同体だった。家賃はマサルが、光熱費、水道代は、ヒデオとヒカルとアキコが不動産屋にはらった。仁も働きに出た。食費は、ミサキの農園で取れたものを世田谷の団地や、マンションに売りにいって肉や魚を買った。その他のものはほとんどが自家製だった。山羊や鶏も飼った。時々、マサルとマーはつりに行った。期待はできなかったのだが。平井さんも顔を出すようになった。ジミーさんの店でのライブは定例になった。あの時のことでジミーさんは非常に恐縮しており、店の中へのクスリや葉っぱの持込を禁止した。まあ、いちようという感じだった。
 
 そんな中。その日が近づいた。

 キヨミが産気づいた。アキコは、その頃医療関係の講習会で知り合った千葉市内に助産院をオープンしたばかりの女性を連れてきた。事情を説明しても理解してもらえないと思い、自宅出産をしたいということで、口説いたのだが、その後の手続きの関係で事情を説明しなければならなくなった。普通では考えられないことだが、女性は納得してくれた。激しい陣痛や生まれ落ちるまでのこと、生まれてからの処理を考えると、自分らがしようとしていたことがどんなにか無謀なことかが理解できた。だが、男の子は無事に産声を上げた。

 生まれてくる力を皆が感じた。

その女性は戸籍のないことの不利益を説明した。もし病気になったら、学校へはいけない、おとなになったときにどう説明するのかなどなど。キヨミと皆の意思を確認した。皆の子として、皆が守るということを確認しあった。女性はまじめな人だった。そして、皆もまじめだった。リツコさんは「ベース」にかようようになった。

 ヒカルとミサキは復学を望んだ。農業系の大学の夜間部を受験する準備を始めた。その矢先、ミサキの父親が倒れたという知らせが届いた。
 ヒカルとミサキは一度、ミサキの実家に二人で挨拶に行っていた。現状を細かく説明したわけではなかったが、某団体からの脱出や「ベース」のこと、農業生産などを説明し、二人が誠実に付き合っているということで、それなりの理解を得た。というよりも、ミサキの親にしてみると彼女を止める、あるいは、連れ戻す方法を見つけられなかった。
 二人はミサキの実家がある名古屋に向かった。

その暗闇の臭いと住人12

2010年01月25日 17時26分02秒 | Weblog
 それは現実ではないので、というか、イメージしか覚えていないから。
皆の気が集中して、羽虫のような形になって、真理子さんに向かった。
真理子さんの身体が浮いて、身体の隅々まで羽虫におおいつくされた。
白い羽虫は真理子さんの体液を吸い、半透明の細胞壁が黄色から茶色に変色した。
螺旋状に動きながら、真理子さんが見えなくなるくらい増殖して、
真理子さんが茶色の生き物のようになった。
プシュー。
体液を吸った虫は太り続け、その細胞壁が限界に来た。
真理子さんの体液がシャワーのように螺旋状に噴射した。
茶色の水は、黄色に、やがて、透明になった。
透明になると、同時に、真理子さんの身体は白く、美しい真理子さん自身に戻っていった。
羽虫は透明な水とともに蒸発した。
仁の手がゆっくりと動いて、真理子さんが着地した。

とんでもない時間が過ぎたような気がしていた。

平井さんが来て、北川さんと佐藤さんがドアを開けようとトライした。ヒデオが入ってから、二十分くらいドアは開かなかった。が、ドアは開いた。全裸の集団が輪になって寝ていた。北川さんと佐藤さんがサンちゃんを起した。平井さんがマーを起した。
「こんな格好じゃまずいよ。」
真理子さんが気になった。マーとサンちゃんが駆け寄った。真理子さんは膝を少し合わせて、手はだらんとしていた。息も心臓も普通になっていた。
 最初に真理子さんに服を着せて・・・・・
真理子さんの身体から蒸気が立っていた。薬や草や汗の臭いの後に甘い、真理子さん自身の香りがした。北川さんがキッチンからタオルを鷲掴みで持ってきて、皆に投げた。真理子さんの身体を拭いて、服を着せた。
 皆が少しづつ戻ってきた。それぞれに身体を拭いて、周りに散らばった洋服の中から、自分のを見つけて着た。
 仁は・・・・
仁は大きないびきをかいて、目を閉じていた。勃起したまま、寝ていた。仁の身体も拭いて、洋服を着せた。ズボンをはかせるのは少し手間取った。仁は目を覚ましそうになかった。
「平井さん、僕らの大切な人が起きそうにないから、今日はこれで帰ります。」
マーが言った。
「そうかあ。」

その暗闇の臭いと住人11

2010年01月22日 17時48分24秒 | Weblog
それからのことをあまり覚えていない。
というのが正直なところかな。 
仁が演奏スペースに入ってきて、マサミが仁に頼んだような・・・・・
「仁ちゃん、お願い、あの時の秀ちゃんみたいになっちゃった。」
仁がドラムスの前で坊さんのように構えて座った。
その前に、皆とサンちゃんを除いて、店の人も、客も演奏スペースの外に出したような気がする。
ジミーさんは不安そうに何か言っていたけど、外に出るとそのまま店を出たらしい。
ヒデオが戻ったときには始まっていた。
皆が全裸になった。
彼女の身体を黒いコートを敷いて、仁の前に、靴も、ソックスも脱がせて寝かせた。
手が触れるか、触れないかで、気の流れを感じれるところまで近づいて彼女を中心に輪になった。
仁が例の言葉を発して、手を彼女のほうにかざして立ち上がると、彼女の上体が操り人形のように起き上がった。
仁の動きがそのまま、彼女に投影された。
仁が手を、腕を大きく開いた。
大きなうねりを感じた。
それが輪の中で流れをつくり、渦のようになって彼女に集中した。
それから、
気付いたら、皆が寝ていた。
「ベース」での神聖な儀式の後のように

その暗闇の臭いと住人10

2010年01月21日 17時40分17秒 | Weblog
 男たちの体臭がムッという感じで会場を包んだ。中には彼女に触れようと手を出す者もいた。が、それは周りで同じように興奮している男たちが静止した。不思議なモラルが、緊張感を保たせた。
 次のフィルインが合図だった。激しいマーのフリルインが興奮を高め、その次の瞬間、ピタッと演奏が止まった。
 アイオイガーイー
 おかしな悲鳴が聞こえた。彼女は身体をピンと一直線に伸ばして果てた。

 動かなかった。いや、全身が痙攣していた。彼女を囲んでいた客は、彼女を凝視し、その異常な状況に凍り付いていた。アキコが走った。彼女の身体を調べた。
「明り、明りをつけて。」
ジミーさんの近くにいた客がジミーさんに伝えた。ブラックライトとは違う、非常灯のような明りがついた。客のほとんどが異常な目つきをしていた。
「この子、何かやってたの」
シーンとした。
「ジミーさん、救急車呼んで。」
ジミーさんが客をかき分け、近づいた。
「救急車はまずいよー。」
困った顔のボーイソプラノが響いた。その会話を聞いて、客が動き出した。ドアが開いて、一人、また一人と演奏スペースを出て行った。サンちゃんが顔を出した。
「真理子。」
ジミーさんが肯いた。サンちゃんが走ってきた。
「ヤバイみたいなんだよ。」
「ヤバイって。」
「急がないと危ないわ。」
「えっ、えっ。」
「キメすぎたみたいなんだよ。」
「そんなあ。」
「あなた、この辺の救急病院知ってるの、」
「あっ、いえ。」
「確か、上原にあるよ。」
マーが叫んだ。
「そこにいきましょう。」
「店の名前出さないでね。」
そんな会話の間に、客はほとんどがいなくなった。
「オイ、ほんとうか。」
「ヒデオ、車回して。」
「解った。」
ヒデオが演奏スペースを出ると北川さんがそ知らぬ顔で煙草を吸っていた。
「どうかしたのか。」
「ええ。」
それだけ言うとヒデオは階段を駆け上がった。外に出た瞬間、誰かとぶつかった。相手はヒデオに弾き飛ばされる感じで倒れた。ヒデオが手を差し出し、起そうとすると・・・・・・
「ヒデオ。」
すごく優しい声が相手から聞こえた。
「仁。」
「あはは、来たよ。」
「仁、大変なんだ。車取りにいかないと。」
「どうした。」
テンポが緩やかだった。慌てていたヒデオが落ち着いた。
「下に行ってみてくれ。」
「ああ。」

その暗闇の臭いと住人9

2010年01月19日 17時30分19秒 | Weblog
彼女はドラムスの前で仁王立ちになった。左手に絡まったティーシャツを取ろうとグルグル振り回したり、足で踏んで引っ張ったりした。パッと手から離れて、お尻からコケた。客はヒデオたちの動きから、彼女もプレイヤーだと思った。全裸の、いや、ソックスとスニーカーだけの女性がコケた瞬間。
 グハハハ
と笑いが漏れた。
 彼女は立った。そして、大きく天に向かって手をかざし、八の字を描くように腰を振った。ヒデオもアキコも円運動をとめた。ハルとミサキも声が小さくなった。彼女の全ての部分がマーの目に入った。
 淡々と引き続けるヒカル。
 マーがフィルインを入れた。すると、機械仕掛けのように彼女が反応した。マーは面白かった。と、思うが早いか、クルッと彼女は客のほうを向いた。八の字運動が激しくなった。その動きに引き込まれるように、客が一人、また一人と立ち上がった。
 そして、彼女の八の字運動が感染していった。
「何ダー、これー。」
マーが叫んだ。マサルと目が合った。マサルは笑っていた。マーは振り向いてハルとマサミに合図した。マーのフィルインからテンポアップが始まった。それに合わせて彼女の運動も激しくなった。
 マーの視界から彼女が消えた。
彼女は腰を降ろし、大きく膝を開いて、客に見えるように股間に手を入れた。
 オオー
客の遠吠えが、合唱となってスペースを満たした。彼女は左手で身体を支え、腰を上下させながら、一番感じる部分を自分の指で攻め始めた。
 異様な興奮が客を包んだ。

その暗闇の臭いと住人8

2010年01月18日 16時32分27秒 | Weblog
 リムショットを連発した。
そこから、うねりのようなロールをスネアからタムに、また、スネアへとまわした。
ギリギリのところでアクションを繰り返した。
そこに入れるのは、マサルだけだった。
 感じた。
マサルはディストーションを踏み込み、ヴォリュームをめいっぱい、上げた。
掌で弦を押さえ、アンプに近づいた。
ヒィードバックの気配。
  キュグイーン。
  フアハウキー。
  グゴゴゴ
  キュイーン
唸るようなマーのドラム。
恐竜の雄叫びのようなマサルのギター。
 ハルも感じた。
  シー ハー シー ハー シー ハー
  ウイ アッ アッ アッ アッ 
  アッ アッ アッ アッ イー
マイクをかじるようにして、声を絞り出した。
少しづつ三人の色が見えてきた。
マーのドラムにテンポが見え始めた。
 じっとしているミサキにハルの手が伸びた。
ハルの指先が触るか触らないかのポジションでミサキを誘った。
ミサキも身体の中で感じた始めた。
 それは同時だった。
ヒカルとマサミの音が落雷のように間を割った。
そして。
 マサルのフレーズが始まった。
マーのドラムはなめるようなねちっこさで回り始めた。
フィルインは攻撃的だった。
ヒカルの淡々としたフレーズ。
不協和音に近いマサミのピアノ。
ヒデオとアキコは座ったままだった。
ハルとミサキの声はエロチックに絡んだ。
  ダイテエ ネエ ダイテエ
  ウッ アアー アアー アッ アッ アッ
 マサルのギターが、再び、吠えた。
全員でその状況に向かった。
エロスが理性を壊す場所に向かった。
 アキコの手を取り、立ち上がるとヒデオは後ろからアキコに重なった。
ヒデオが服の上から、アキコをまさぐり始めた。
アキコの腕は頭の上で組まれ、身体は大きくウェーブした。
膝をすり合わせるようにして歩き出すアキコ、追いかけるヒデオ。
マーを中心にして、ヒデオとアキコは円を描いた。

 演奏スペースから漏れる音がカウンターに座っていた客を動かした。
ドアが開き、ヒデオとアキコが造る円の周りに膝を抱えて座った
 壁際の住人たちも壁を離れ、その円の一番外側に腰を下ろした。
マサル、ヒカル、マサミの邪魔にならないように扇形を作るように客が座った。

 リフレインが、マサルのリフレインが戻ってきた。

 一番外側に座っていた壁の住人の一人が立ち上がった。客の円から少し離れるとアキコのウェーブとシンクロするように揺れ始めた。黒いコートのボタンをはずした。スッという感じで床に落ちた。ピンクの長袖のティーシャツ。中央に牡丹のような模様が入っていた。紺のボアボアのミニスカート、ボーダーのソックス、底の厚いスニーカー。
 長い髪が揺れた。
アキコをまさぐるヒデオの手の動きに同調するように彼女は自分のティーシャツの裾に手をかけ、ズリズリっという感じで持ち上げるとポンと首から抜いた。それは左手に絡まった。次に、ボアボアのミニスカートをクルッと回すとジッパーを下げ、腰を振りながら、踵まで下げた。
 この状況を誰も知らなかった。
佐藤さんはビーエスエイトのセッティングの間に明りの位置を変え、マサル、ヒカル、マサミには個別に、中央には大きな円を作った。
 その外側は闇だった。
だから、彼女の行為は誰の目にもとまらず、進んだ。足を抜き、右の踝に引っ掛かったボアボアのミニスカートをサッカーのキックのようにけりだした。中央の明りの円をそれは通過した。マーの顔の横をスッという感じですり抜け、ヒカルの前に落ちた。
 が、皆は気にとめなかった。
彼女はブラジャーもはずした。今度は手に持ち、中央の明りの円にむかって投げた。ブラジャーは円まで届かず、膝を抱えていた客の頭の上に落ちた。その演奏と突然の飛来物に驚き、客は、恐る恐る飛来物を手にした。驚きとともに振り向くと光のハレーションの中にショーツに手を掛けている彼女がぼんやりと見えた。彼女はショーツも投げた。今度は、ショーツが、マーのベードラに引っ掛かった。

演奏はさらに、続いた。

 彼女は左手のティーシャツと頭の上でグルグル回しながら、客の踏みつけるようにして、中央の光の円のほうに近づいた。



その暗闇の臭いと住人7

2010年01月15日 16時41分00秒 | Weblog
 唐突にキーちゃんのサックスが消えた。サンちゃんのドラムがソロに入った。テクニックを感じた。キーちゃんの影が誰かと重なった。明りの中に黒いジャンパースカートのケバイ化粧の女の顔がフッと現れた。キーちゃんはその女とキスをするとサックスを持ったまま演奏スペースから出て行った。サンちゃんのソロは長かった。ソロなのか、独り言なのか、聞いている人がいることなど彼には関係ないようだった。サンちゃんが突然スティックをポンと投げ上げた。スティックはフロアータムとスネアに当り、床に落ちた。それを拾おうともしないでサンちゃんも演奏スペースから出て行った。
 照明がいくぶん明るくなった。壁に張り付いた人が壺みたいなものにお香を突き刺し、臭いを独り占めするように足を組んで抱え込んでいた。ジミーさんが卓から近づいてきた。
「インターバル入れるから、そしたら、お願いね。」
「ハイ。どのくらいですか。」
「うー。」
「解りました。もう少ししたら準備、始めます。」
マーが答えた。
 マーの右手はビールで濡れていた。一口飲んだだけのビールの缶は、グチョっという感じで潰れていた。
「マーちゃん、手、怪我してない。」
「えっ。」
怪我はしていなかったが、いくぶん服も濡れたいた。
「今日、俺からはじめていい。」
「自由。」
「でも、いい感じではいってよー。」
「どうする。」
「一度、外に出てから、準備しよう。」
ヒデオが先頭にたって、演奏スペースを出た。カウンターには人がお尻だけチョンと乗っける格好で二十人まではいかないが座っていた。
「どうして中に入らないんだろう。」
ヒカルがつぶやいた。サンちゃんもいた。男と女がサンちゃんを挟んでいた。少し偉そうなにしていた。

 夜の臭いがしていた。星が少しだけ見えた。

その暗闇の臭いと住人6

2010年01月14日 17時18分32秒 | Weblog
 カウンターにビーエスエイトとおなじ人数くらいの人が座っていた。演奏が聞こえた。換気扇からか、何処からか、漏れてきていた。
ドアが開いた。
奇妙な感覚になりそうななんともいえない臭いがした。ジミーさんが出てきた。
「北ちゃん、新人の皆さんに何か出してよ。」
「今日は入りがいいなあと思ったら、平井さんのか。」
カウンターの後ろを通り、ステージの、いや、スタジオの、何だろう、演奏スペースにつながるドアの前に、ジミーさんの横に並んだ。
「えーと、何だっけ。」
「ビーエスエイトです。」
「ビーエスさんにね。何か飲物。」
北川さんは缶ビールを人数分、カウンターの空いてるところに並べた。ミサキがとって、皆に手渡した。居場所がなかった。
「中にいてもいいよ。」
言われるままに演奏スペースに入った。キーちゃんとサンちゃんの演奏が始まっていた。というよりも、出て行ったときから始まっていたらしかった。五人くらいの人影が動いていた。床に座り込んでいる人、壁に張り付いている人、揺れている人。場所を探して、座った。ブラックライトが薄く光る暗闇の中で明りの佐藤さんが細いダウンライトを二人に合わせていた。その明りは闇を際立たせた。臭いの元がその辺にあるはずだった。どこにあるのか解らなかった。
 キーちゃんとサンちゃんの演奏はテンポ感のない、フリーキーなものだった。
 影が揺れた。
マサルはマーの耳もとに口を寄せた。
「あの時の僕らもこんな感じだったのかな。」
ハルも近づいた。
「これって、マサルの部屋で・・・・。」
「何か違う。」
マーは集中していた。
「何か二人の関係が冷たい。」
確かに演奏はお互いのフレーズに反応するように音が動いた。力の関係。自己主張がぶつかる感じ。
「魂の部分が見えない。」
「マー。」
マーがいくぶん苛立ったいるのをマサルは感じた。
「出口がない。」
「マー。」
マサルとハルは両側からマーの腕をかかえた。

その暗闇の臭いと住人5

2010年01月13日 16時05分01秒 | Weblog
「何かさあ、アングラっぽいよね。」
「アングラって何。」
「えー、なんていうか。」
「地下って感じかな。」
「ミサキはこんなの知らないよね。」
「ヒカルもかな。」
「マーはこんな感じの店でやったことあるの。」
「うーあんまりない。というか、ない。」
「そうよね。」
「東京にはたくさんあるのかしら。」
「何だろうライブハウスって感じじゃないし。」
「いいよ。ライブしようぜ。」
「賛成。」
そんなに飲む気にもなれずに皆は店を出た。幡ヶ谷の駅でハルたちを待った。しばらくしてハルたちが改札から出てきた。ヒデオは皆に気付くと顔をクチャクチャにして笑った。
「どうしたのよー。」
「はは、トラのパンツにした。」
「えー。」
皆が叫んだ。
「私もトラにしたわ。」
「面白いんだよ。最初は黒を探したんだけど、何か、プレゼント用でトラのパンツとブラとショーツがセットで売っていたの。」
「ははは、これで完璧だ。」
「何がだよー。」
「ずるいよ。二人だけで・・・・。」
皆は笑った。皆は今までの違和感が吹き飛んでいくのを感じた。
 ジミーさんの店のドアを開けた。

その暗闇の臭いと住人4

2010年01月12日 17時20分41秒 | Weblog
 外に出ると空気が新鮮に感じられた。一度、駐車場に行って駅前に戻った。喫茶店を探した。あるにはあるのだがいい感じの店がなかった。皆はスパゲティ屋の二階の居酒屋に一度入ることにした。とりあえず、という感じで生ビールを頼んだ。
「何か、ぜんぜん違うね。」
「平井さんの紹介だから・・・・。」
マーは言いかけて言葉を飲み込んだ。
「とりあえず、カンパイ。」
ヒデオがグラスを掲げていた。
「いいのかなあ。ライブ前に飲むなんて。」
「リハのつもりでって言ってたし、いいかあ。」
マーの声はいつもより、大きかった。自分を納得させるような感じもあった。
「平井さん来るのかなあ。」
ハルが独り言のようにつぶやいた。
「今日は衣装に着替えるのやめないか。」
マサルが言った。
「店の雰囲気つかめないし、平井さんもリハのつもりでって言ってたし。」
「そうだな・・・・。でも、ヒデオさんとアキコさんどうなのかな。」
「うーん。どうかなあ。」
「どうかなあって・・・・。」
「そんなこと考えたこともなかったら、言葉にすると恥ずかしいわ。」
「今日は止めときますか。」
「うーん。なんとも。」
「いいじゃん、服の下にさあ、ボディーストッキング着ててさあ、何か、感じてきたら脱いじゃえば。」
ハルが言った。
「そうね。それもいいかも。」
「今日の下着の色、何。」
マサミが言った。
「何だよ。突然。」
「まあ、いいんだけど。全裸の上より、下着、着けていたほうがいいかなと思って。」
「そうか。」
「アキコどうする。」
「どうするって。」
「笹塚だったら、下着売ってるところあるよ。」
「買いに行くか。」
ヒデオとアキコ、ハルが笹塚に向かった。ついでにボディーストッキングを持って行って、試着室で仕込んでくることにした。残りは、セーブすることを前提に店で待つことにした。