仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

割れ目に落ちて8

2012年01月31日 17時33分39秒 | Weblog
夜になるまで何もなかった。

ドアをノックする音で目が覚めた。

「白鳥さん。」

女が口を押さえた。
首を横に振った。

「白鳥さん。いるんでしょ。さっきまで、電気がついていたんだから。」

女は口の前に人差し指を立ててた。
押さえ込むように上にのってきた。

「白鳥さん、今年の分の利子は入っているんですけど、去年の分がもう期限なんですよ。」
「コラァ、ドアを開けろって言ってんだよ。」
ドアを蹴る音がした。
「やめろ。」
「白鳥さん、皆さん、寝てる時間ですよ。回りの方に迷惑になりますよ。ドアを開けましょうよ。」

女は、首を振り続けた。

それから、一時間くらい、ドアの外で罵声が響いた。

割れ目に落ちて8

2012年01月24日 16時29分26秒 | Weblog
女は二日帰らなかった。
また、掃除をした。
小銭を集めて、ほうきとちりとりを買ってきた。
雑巾は、また、押入れの下の段の下着を使った。

ゴミを捨てた。

ドアが開いた。
「ねえ、お風呂行こうよ。」

昼前だった。
下着を買った。
女も下着を買った。
また、安い部屋に行った。
女は下着を着けていた。
脱ぐとゴミ箱に捨てた。
女はバッグからトリスを出した。
缶ビールに混ぜて飲んだ。
飲むと条件反射が始まった。
身体を洗って、また飲んだ。
女はすごく上手だった。
何もしなくても上でイッた。
少し寝て、帰った。

「今日はさあ、デニーズ行こうよ。」

肉を食った。

割れ目に落ちて7

2012年01月19日 16時04分36秒 | Weblog
ラーメン屋に入った。
女は化粧もしていなかった。

ヒトミ

ヒトミを思い出した。

その日、女は外に出なかった。
酒屋でビールとジンとつまみを買ってきた。
カリさんが持ってきたドンペリより数段うまかった。
酔いはじめると条件反射のように身体がカリさんを思い出した。
女は使えそうになったので喜んだ。
服を脱がされ、新しい布団にもぐりこんだ。
感じ方が違った。

寝た。

一晩で、部屋が荒れた。
女は財布・・・・・バッグの中や押入れや化粧品の入ったボックスの中やいろいろなところを探していた。
化粧品のボックスの下に札は隠した・・・・隠したわけではなく置いた。
小銭はズボンのポケットに入れた。

ボックスの下の金を女が見つけた。
にらんできた。
ポケットから小銭を出した。
笑った。

「お金がない。」

そういうと女は一時間半かけて化粧をして、押入れからハデ目の衣装を取り出して出かけた。
下着はつけていかなかった。

割れ目に落ちて6

2012年01月18日 17時17分22秒 | Weblog
女はジャージみたいなワンピースだけかぶって走ってきた。
前に立つと手を広げた。
「どこに行くのよ。何で出てくのよ。逃げないでよ。」
そんなつもりはなかった。
「服も買ってあげたんだから、逃げないでよ。」
女が抱きついてきた。
女が泣いた。
「お風呂、行こ。」
女が笑った。かわいく見えた。
部屋に帰って女は、上着を着て、バッグを持って町に出た。
拾われて、二日しかたっていないのに女に飼われた。

布団買わなきゃね。あれ臭いから捨ててさ・・・部屋きれいにしてくれてうれしかったんだよ・・・スウェットも買わなきゃ・・・・
あんたの上着・・・・・そうだ。靴も買わなきゃ・・・・

どうでもよかった。

この前より安いところが空いていた。
この前より狭い場所だった。
ユニットバスで女が身体を洗ってくれた。
欲しそうだったので、身体を洗ってやった。

どうでもよかった。

キッスした。
役立たずを女は何度も口に含んだ。
半分くらい起つと女はまたがった。
すぐにつかえなくなったので、指で慰めた。
女は感じた。

フリータイムの前だったので、十時にベルがなった。

買い物をした。
荷物を持った。

部屋に帰って、かび臭い布団を紐でぐるぐる巻きにして、一番大きいゴミ袋に入れて、ゴミ置き場に捨てた。

腹が減った。

割れ目に落ちて5

2012年01月16日 16時48分24秒 | Weblog
始発電車が動き出すころにドアが開いた。
仏頂面が何も言わずに入ってきた。
それでも、落ちかけた化粧を上から何度も叩いた仮面は健在だった。
酒臭かった。甘い臭いがしていた。汗の臭いと交じり合って部屋中が女の臭いでいっぱいになった。
部屋の変化については何の反応もなかった。
押入れを開けると、服を脱いだ。
下着姿になって、バッグからクレンジングクリームを取り出し、流しで顔を洗った。
仮面の下の顔が現れた。
何かを探し始めた。
「タオルがない。」
バッグからハンカチを取り出して、ごしごし顔を拭いた。
「スウェットがない。」
押入れを開けた。
「ない。」
顔が近づいた。
少し垂れた目、形は悪くなかった。
大きい鼻、形は悪くなかった。
厚い唇、形は悪くなかった。
が、丸い輪郭の中に配置されたそれらは均衡が取れていなかった。
「ねえ、捨てた。」
うなずいた。

突然、唇が近づいて、キッスが始まった。
ゆっくりとキッスした。
覆いかぶさるように女の体重が胸部を圧迫した。
そして、女は寝た。

しばらく重さに耐えていたが、さすがに重かった。
女の身体から抜けだした。

布団を掛けようか、考えた。
カビの臭いが気になった。
押入れから上着を何枚か取り出し、かぶせた。

朝の空気が吸いたくなった。

外に出た。

割れ目に落ちて4

2012年01月12日 17時11分55秒 | Weblog
夜になっても帰って来なかったから外に出た。
鍵も掛けなかった。
広い道路に出るとごみ収集の看板があった。
その周りにゴミ袋がたまっていた。

部屋とそこを何度も往復した。

ゴミがなくなった。
畳が見えた。
殺風景な部屋だった。

小さな円卓とラジカセがあった。
壁一面に食い込んだような台所に、調理器具あるいは食器らしきものはなかった。
押入れを開けてみると、上の段に外出用の衣装がつるされていた。
下の段はなんだかわからない状態だった。
ゴミの下に隠れていた布団はかび臭かった。
押入れに入りそうな場所はあったが窓際に畳んで置いた。
中がグチャグチャの化粧品の入ったボックスを円卓の上に置いた。
カセットをまとめてラジカセの脇に置いた。
掃除器具が見当たらないので、押入れの下の段からグチャグチャに丸まったキャミソールを取り出して雑巾にした。

自分が何をやっているのか、わからなかった。

何の許可もなく、汚れているものはすべて捨てた。

窓を開けた。
隣の木造アパートの壁がすぐそこにあった。

窓を閉めた。

その夜は帰ってこなかった。