仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

どこでどうして、何のために10

2011年08月18日 17時01分26秒 | Weblog
 彼は長距離射撃用のライフルのスコープから目を離し、その銃口を十階建てのビルの屋上の床に向けた。その至近距離で発射すれば、床を貫通するかもしれない。とかれは思った。
 しばらく、床を狙っていた。
 彼は銃を肩にかけ、座った。先ほどまで、足を掛け、狙いを定めていたコンクリートの部分を背もたれにして、空を見た。雲の流れる速さに驚いた。

 もう、いいか

彼は長い銃口を口にくわえ、靴を脱ぎ、足の親指で引き金を引いた。

 彼の番は終わった。

彼は何人も殺した。何人も脅した。だから、それでよかった。


どこでどうして、何のために9

2011年08月08日 13時01分20秒 | Weblog
 それから、彼は堕ち始めた。女を買い漁り、酒におぼれた。そんな時、奈美江にあった。 奈美江は金のために「売」っていた。彼も、奈美江も同じだった。どこかで、同じものを感じた。彼は県警から依願退職を迫られ、署長に写真を見せられた。どうすることも出来なかった。
 そんな自分のことなど話すつもりはなかった。奈美江の身体が暖かかった。二人は何かを許せるような気がした。だから、奈美江は話を聞いた。彼は自分をさらけ出した。
 奈美江が「流魂」に入る前のことだった。奈美江は「売」りの回数を増やした。彼を自分のアパートに呼び寄せた。個人参加の形で彼を大会に出させた。ところが、萩尾は、彼の参加を知ると、早速、動いた。

 「予選の最終戦で負けてくれればいいんですよ。イヤだとは言わないですよねえ。県警の方々にどう説明するですか。決勝戦までいっちゃうとまずいんじゃないですか。」

 萩尾たちは、何でも「金のなる木」にした。博打は、社会的な地位も、金持ちも、貧乏人も関係なく、心に染込み、虜にする。だから、その大会も、萩尾の「ご開帳」ということになった。中には県警の幹部もいた。萩尾は彼の都合のいいように、後に有利なるように、ことを動かした。

 なぜ、彼は萩尾にしたがったのか。
 
 萩尾の撮った写真を署長室で見せられた。歪んだその顔は、「欲獣」そのものだった。立っている女の乳首をくわえ、その女の股の間で、四這いになりケツをつきだしている少女に突っ込んでいた。酷い自己嫌悪に襲われた。

 萩尾の言いなりになった。奈美江にその写真を見られたくなかった。

そして、彼は奈美江のところに帰れなくなった。