そこで始まる演奏には普通のバンドのような楽譜はなかった。ハルとミサキのヴォイスにも決まりごとはなかった。ヒデオとアキコのダンスにも決まったステップはなかった。ダンスといえば言えるが、アキコが人形となって文楽のように動く、といったほうが良かった。始まりと終わりをどうするのか、そんな決まりごともなかった。
誰かが始めた。リハーサルルームができてから、そのドアを開けるところから始まった。
その日はハルがドアを開けた。ハルはしばらく一人だった。ハルはドラムスの前に座り、スティックを握った。簡単なエイトビートを刻んだ。二重ガラスの窓から、ルームの中の空気の振動が伝わった。マーのドラムのノリに似ていた。が、それは軽やかで、心地良かった。そのノリに引き込まれるというより、一緒に弾んでしまうようなリズムだった。
ミサキがドアを開けた。電源を入れれば、マイクが使えるようになっていた。
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
ハルが笑った。ミサキも笑った。リフレインと単純なリズムの心地良いルーティンが始まった。マサミが入ってきた。マサミはマーのスティックケースからスティックを取り出した。ハルが刻まないトップシンバルをハルと向かい合う感じで鳴らし始めた。キープされているテンポ感。マサミの音は小節を超えるように、崩すように、アクセントを入れてきた。それに反応するミサキ。
二重ガラス窓に男たちの顔が並んだ。アキコはその気になるのに比較的時間が、というより飲みが必要だった。一番最後にドアを開けるのがアキコだった。演奏をとめることなく、三人の演奏者はその顔を見て噴き出した。
マサルが入ってきた。ボリュームを絞り、エフェクターを踏み込んだ。
チン ツー
フルボリュームにして腕を大きく振った。
ガー キー
ボリュームを絞った。
チン
皆が笑った。マーもヒカルも入ってきた。ハルのキープを崩すように、キープを試すように、マーはキーボードを、ヒカルはベースを叩いた。ハルは負けなかった。ミサキがスティックを持って、マーの横に移動した。マーにスティックをわたした。マサミはハルの援護をするように軽快なリズムでキーボードを叩いた。マーはハルの横に移り、フロアタムでハルとシンクロした。ハルはマーに任せ、ミサキと合流した。
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
ヒカルがポジションを探し始め、マサルがテーマを探った。そして、一つのスタイルができるとヒデオとアキコを待った。仁のような半開きの目になっているアキコに口づけ、ヒデオが手を引いた。二人の動きが始まると、動きと呼吸をするように音が変化した。
誰かが始めた。リハーサルルームができてから、そのドアを開けるところから始まった。
その日はハルがドアを開けた。ハルはしばらく一人だった。ハルはドラムスの前に座り、スティックを握った。簡単なエイトビートを刻んだ。二重ガラスの窓から、ルームの中の空気の振動が伝わった。マーのドラムのノリに似ていた。が、それは軽やかで、心地良かった。そのノリに引き込まれるというより、一緒に弾んでしまうようなリズムだった。
ミサキがドアを開けた。電源を入れれば、マイクが使えるようになっていた。
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
ハルが笑った。ミサキも笑った。リフレインと単純なリズムの心地良いルーティンが始まった。マサミが入ってきた。マサミはマーのスティックケースからスティックを取り出した。ハルが刻まないトップシンバルをハルと向かい合う感じで鳴らし始めた。キープされているテンポ感。マサミの音は小節を超えるように、崩すように、アクセントを入れてきた。それに反応するミサキ。
二重ガラス窓に男たちの顔が並んだ。アキコはその気になるのに比較的時間が、というより飲みが必要だった。一番最後にドアを開けるのがアキコだった。演奏をとめることなく、三人の演奏者はその顔を見て噴き出した。
マサルが入ってきた。ボリュームを絞り、エフェクターを踏み込んだ。
チン ツー
フルボリュームにして腕を大きく振った。
ガー キー
ボリュームを絞った。
チン
皆が笑った。マーもヒカルも入ってきた。ハルのキープを崩すように、キープを試すように、マーはキーボードを、ヒカルはベースを叩いた。ハルは負けなかった。ミサキがスティックを持って、マーの横に移動した。マーにスティックをわたした。マサミはハルの援護をするように軽快なリズムでキーボードを叩いた。マーはハルの横に移り、フロアタムでハルとシンクロした。ハルはマーに任せ、ミサキと合流した。
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
チュ チュ チュ チュッチュ チュディチュ
ヒカルがポジションを探し始め、マサルがテーマを探った。そして、一つのスタイルができるとヒデオとアキコを待った。仁のような半開きの目になっているアキコに口づけ、ヒデオが手を引いた。二人の動きが始まると、動きと呼吸をするように音が変化した。