仁、そして、皆へ

そこから 聞こえる声
そして 今

新王を探せ2

2010年02月26日 14時33分04秒 | Weblog
「ですが、宰は象徴でいいわけで、実際に力を持っていなくてもいいのでは・・・」
「我々、「流魂」にとって、宰の位置をもう一度、確認して、それから、・・・。」
「それなら、ヒロムを探すの。」
「ヒロムさんは、お疲れのようでしたし、宰の位置にいることが・・・・。」
「そうなんですよ。会員の心の支えとして、コアは必要です。その人のためということが、・・・・
その人のためということで、個人の存在を肯定することができます。自分に責任を負うことはなくです。」
「すでに、「流魂」はビジネスとして成り立っています。そこのところをお考え頂ければ、コアの存在が必要だという事を理解いただけると思います。」
「ヒロムさんは、我々でコントロールできた。ですが、仁さんは・・・・」
「いや、ヒロムさんをコントロールすることも難しくなっていた。彼自身に情熱が無くなっていた。」
「執行部としてですよ。今、宰が不在であることを会員にどう納得させるか、あるいは、仁さんを新王として向かえるとして、その位置づけをどうするかですよ。」
 ツカサは違和感を感じていた。
ツカサにとっては宰はヒロムであり、姫はヒトミなのだ。執行部が話している内容は、ツカサを苛立たせた。

ドンッ。

ツカサが会議で使われる大きな円卓を叩いた。
「ツカサ。」
ヒトミが制した。
「あなたには、まだ、早かったようね。外に出て。」
「ハイ。」
ツカサはスッと立ち上がると部屋をでた。ドアを閉めるとツカサは壁を思いっきり殴った。その音は会議室の中に響きわたった。

「仁をコントロールできないと言ったわね。思い出して欲しいの。初めての「神聖な儀式」の時、仁はお金を鷲掴みにして出ていった。そして、二度目に現れたときも、金を欲しがったわ。彼は簡単に動くと思うの。お金があれば。」
「そっ、そうかもしれません。ですが、あの力をコントロールすることは・・・・・。」
「いまはですね。「命の水」に付加価値をつけることに成功しています。ですから、むしろ、力は必要ないと思うのです。むしろ見た目、容姿を重視して。姫にふさわしい人を選ぶというのも選択肢として考えられると思うのです。」
「演出家はどう思うの。」
「そうですネエ。とりあえず。ヒロムさんは新王を探す旅に出たとしておきましょう。彼自身が宰の仕事を終え、次につなぐ人を、真の王を探しに出たとでも。」
「いいわね。」


新王を探せ

2010年02月25日 16時21分47秒 | Weblog
 ツカサはその場所にいることに違和感を感じていた。武闘派は別働隊として執行部の命令を受けることはあっても、会議に参加することはなかった。ヒトミの一声でツカサは参加することになった。

「象徴としての宰の存在をどうするかだ。会員が宰の不在を知ったら、どう思うか。そこが問題なんだよ。」
「でも実際、宰には力がなかった。今の宰を会員の前に出すこともできなかった。」
「象徴であるからこそ、その神秘性を増すような演出をしていけばいいじゃないか。」
「男性会員には姫がいるからいいが、女性会員の最終目標がなくなる。」
「私は、仁を探して欲しいわ。」
「仁さんですか。」
「そうよ。仁こそがほんとうの力を持った人。そう思うでしょ。」
「ハイ。」
執行部の声がそろった。

太陽の光はまぶしくて8

2010年02月18日 14時01分20秒 | Weblog
ヒロムは着れそうな物を取り出して、後は、川に流した。河は臭かった。下着類は袋に入れた。インド人のような衣装を脱ぎ、素肌にジーンズをはき、トレーナーとジャンパーを羽織った。インド人のような衣装は川に流した。
 
 ヒロムは水道がある場所を探した。
 喉が渇いた。
が、不思議と空腹感はなかった。住宅街の中で公園を見つけ、水を飲んだ。袋に入れた下着を取り出し、洗った。着ている服から臭いがしていた。自分以外の体臭というものは気になるものだ。それでも、時間がたつと気にならなくなった。それと同時に空腹を感じ始めた。
ヒロムは歩いた。インド人のようなサンダルも気になった。何でも落ちていた。住宅街を抜ける頃にはスニーカーをはいていた。ヒロムが地理的なカンが優れているわけではなかった。ただ、空腹が、その場所を教えた。名古屋駅の近くまで戻っていた。飲食店街を一回りすれば、それなり、餌にありつけた。
 
 人として・・・・
 
 などということはヒロムの理性から遠のいていた。同じように餌をあさる人がいた。そして、その中にもルールがあった。それを知るには少し時間がかかった。
 その日は、餌を口にするとヒロムはまた、あの小屋に戻った。孤独感、寂しさ。ヒロムは感じなかった。独りであることが新鮮だった。

 ヒロムが彼らの制裁を受けたのはそれから、一週間くらいしてからだった。浮浪者といわれていた、今で言うホームレスの集団の中にも、仲間うちの階級があり、餌のとり方にもルールがあった。新参者のヒロムはそのルールを無視しているということでリンチを受けた。まあ、生命に関わるようなことなかったのだが、ヒロムはこんなところまで、人は人でありたいのかと、愕然とした。ヒロムは小屋をネグラにしていたが、彼らの多くは駅周辺をナワバリにしていた。ヒロムは戦う意志もなく、されるがままにしていた。何も答えたわけではないのだが、集団の中心人物らしき人が言い捨てた。
「わかりゃいいんだ。わかりゃあな。」
ヒロムはその場に倒れこんだ。誰もヒロムを助けようとはしなかった。しばらくそのままでいた。ヒロムの横を靴音が通り過ぎた。ヒロムを避けるように、汚いものを見ないように、自分は関わらないように。

こんなものか。こんなものなのか。

 何の気力もなく、ヒロムは小屋に戻った。しばらくして、小屋の扉が空いた。初老の先輩が立っていた。
「オイ、これ食え。」
そう言うと握り飯を差し出した。ヒロムはぽかんとしていた。近づいて、ヒロムの手を取った。
「食え。」
初老の先輩は握り飯をヒロムの手の中に押し込むと、パッと手を離し、走るように外に出て行った。
「食えよ。」
と言い捨てた。

こんなものか。こんなものなのか。

貧しきものは美しい。
なぜなら、貧しさゆえに知力がなく、ただ生きることのみを欲するからだ。

それがどうだ。ひとたび集団になれば、誰もが人より偉くなりたがる。
人は単純に同じではいられない。
こんなところでも、そうなのか。
アイデンティティーは階級がなければ、保持できない。
人は自分より劣ったもの、弱いもの、下のものを欲しがるのだ。
そして自分の優れていること、強いこと、上であることを自覚することでアイデンティティーを保てるのだ。

そんなものか。そんなものなのか

 ヒロムは、何時しか、その集団に溶け込んだ。しかも、一番隅に座った。餌も一番最後の残り物をあさった。衣類も同じだった。ヒロムの知力を用いれば、その集団に秩序を作り、その長となることも簡単なことだった。しかし、ヒロムはそれをしなかった。ヒロムは一番隅に座った。ただ、そうした態度が好感され、ヒロムの独りをじゃまするも者もいなくなった。それが許された。

誰に・・・・・

そんなものか。そんなものなのか。


太陽の光はまぶしくて7

2010年02月15日 17時35分50秒 | Weblog
 工場が立ち並ぶ、その地域は完全な闇になることはなかった。夜の気配が漂い始めた頃、ヒロムは動き出した。小屋の周りに野犬が近づいてくるような気がした。インド人のような衣装。ボロボロになった衣装には、ケビンの血とヒロムの血が染み付いていた。
 
 早く着替えたかった。

 ヒロムはあたりを見回し、小屋を出た。工場地帯を抜けて、住宅街に入り、人目につかないように歩いた。ゴミが点在していた。その頃は、ゴミが路上に転がっていることなどめずらしくなかった。成長の勢いにゴミの収集が追いつかない頃だ。テレビも、ベッドのマットレスも、自転車も、ギターも、箪笥も、何でも落ちていた。そんなゴミの中から、衣類の入ったゴミ袋をヒロムはあさった。何個か、小屋に持ち帰り、着れそうなものを物色した。中には女性の衣料もあった。使用済みのパンティーやブラが洗濯もされずに入っているものや、白くカビがこびりついたトランクス。

 ヒロムは、なぜか、笑いがこみ上げた。

こんなものか。こんなものなのか。
人というものは・・・・・・

太陽の光はまぶしくて6

2010年02月10日 16時09分17秒 | Weblog
何もかもが、何もかもが・・・・・

河の流れる音が聞こえていた。
闇にはまだ早かった。
ヒロムは脳が動いているのが煩わしかった。

何もかもが、何もかもが・・・・・・
もう、どうでもいい。

何もかもが理解不能の暴力で打ち砕かれ、消えていく。

ヒロムは何も欲しくなかった。
自らで死を選ぶことも煩わしかった。

必ず、死ぬのだ。

ただ、ただ、自分が消えていくのを待ちたかった。
頭の奥で橋本さんの言葉が聞こえた。

みんな、平等なんだよ。
金持ちも、貧乏人も、美人も、ブスも。
みんな、死ぬんだよ。
苦しくても、悲しくても、嬉しくても、楽しくても。
それは一時の感情の動きでしかないんだよ。
理論もね、人を助けるわけじゃないんだよ。
理論も、哲学も、個人にとっては死の瞬間が来た時じゃなきゃ理解できるものじゃないだろ。
なぜだろうね。僕らが生まれてきたのは・・・・

身体の中で何が流れ落ちた。
フラッシュバックのようにケビンの身体がボロボロになっていく光景がよみがえった。

闇が来るまで、闇が来るまで・・・・・


太陽の光はまぶしくて5

2010年02月08日 17時17分33秒 | Weblog
 背の高い草があったわけではなかった。そして、インド人のような衣装を着ていれば、誰もが不思議に思うはずだった。ヒロムは倒れたところでじっと待った、誰かが自分を見つけてくれることを。
 意識は徐々に戻っていった。目の前の空の青が綺麗だった。ゆっくりと身体を起こし、あたりを見回した。眼鏡がないとほとんどがもやの中だった。橋の支柱らしきもののほうに歩いてみた。その視力で眼鏡を探すのは難しかった。足元に黒い小さな物が目に入った。壊れた木箱のようなゴミの板の間から足のようなものが出ていた。手で触れても動かなかった。目を凝らすとそれはケビンだった。ウーという唸り声が周りから聞こえた。野犬だった。ケビンを抱きかかえると首元から血が出ていた。息もしていなかった。野犬が唸る声が大きくなった。三匹いたのか、それ以上か、ヒロムを目掛けて攻撃を仕掛けてきた。ヒロムはケビンを抱いて逃げた。野犬はヒロムのインド人のような衣装を喰いちぎった。それでもヒロムは走った。疲れが身体を締め付けた。ケビンが重かった。普通なら小型犬のケビンが重いわけがなった。が、その時のヒロムには、重かった。ヒロムはケビンをそっと、地面に置いた。そして、気持ちを新たに走り出した。逃げきれたら、ケビンを連れ戻すつもりだった。
 野犬はヒロムを追いかけてこなかった。そこに置かれたケビンにいっせいに襲い掛かった。ケビンの身体は鋭い牙の餌食になった。けれども、野犬はケビンを喰らうわけではなかった。バラバラになった足を、頭をおもちゃのように放り投げ、くわえ、じゃれあうようにもてあそんだ。その光景をぼんやりをした視界の中でヒロムは見つめた。野犬は縄張りを荒らしたケビンに制裁を加えていたのだ。その獲物を横取りしようとするヒロムにも襲い掛かった。が、その獲物をことごとく痛めつけ、征服感を満たされた彼らは退散していった。ヒロムなど存在しないかのように勝ち誇り、一瞥したものの、獲物を置き去りにした臆病者など相手にすることもなかった。
 ヒロムはしばらく、ボーと立っていた。そして、ケビンのバラバラになった身体の部品を集め始めた。その時だった。ヒロムの後ろから声がした。
「ワー、なに、何をしてるんだ。」
振り向くと、つり道具を持った初老の男がヒロムを見ていた。恐怖と怒りに満ちた顔でヒロムを凝視していた。ヒロムのインド人のような白い衣装は自身の血とケビンの血でところどころ赤く染まり、ボロボロになっていた。ヒロムはケビンを置き去りにして、また、走り出した。
「誰かー。」
後ろで男の叫び声がした。

 どれくらい走ったのか、何処を走ったのか、なぜそこにいるのか、解らなかった。ヒロムは河川敷にある何かの倉庫らしきところで息を切らせたいた。かび臭く、土くさく、湿った感じの小屋に何とかたどり着いた。肥料か何かの袋の上にヒロムは倒れこみ、そのまま眠った。

太陽の光はまぶしくて4

2010年02月05日 17時11分59秒 | Weblog
 太陽の光がまぶしい日だった。
 ヒロムは土地勘のない名古屋の町を走った。その路地からあの路地へ、大通りからまた路地へ、感じるままに走り続けた。
 ケビンはいなかった。
 駅の回りのビル郡を抜け、アパートが立ち並ぶエリアをすぎ、一軒家や工場が現れ、やがて大きな川の岸にたどり着いた。橋の欄干から、川沿いを見渡した。視界に黒い小さいものがうつった。
 ケビン。
そう思って身をのり出した時、ヒロムの黒縁のメガネは庄内川に吸い込まれた。フーという感じでメガネが川に落ちた。ヒロムの見ている世界もフーという感じで変わって言った。ほとんどが焦点の合わない世界になった。それでもヒロムは走った。ケビンを探して庄内川の河川敷に降りた。ヒロムは何かにつまづき、倒れた。頭を何かに打ち付けた。意識が視界と同じようにフーという感じで遠のいた。

 ツカサも帯同していた。ツカサの指示で武闘派はヒロムを探した。が、武闘派のほとんどが東京あるいは、その近郊、あるいは地方出身者で、たまたま、名古屋を熟知しているものがいなかった。捜索は夜に及んだ。ツカサはヒトミにうかがいをたてた。
「明日はセレモニーだから、もう、いいよ。」
その意図をツカサは察した。散らばった武闘派を集合させ、ホテルに向かった。砧公園の家の一件からヒロムは今で言う「ヒキコモリ」がひどくなっていた。それが執行部では問題になっていた。そしてまた、彼らにとってヒロムの存在自体が、存在のカリスマ性が薄れてきていた。ヒロムは会員を先導するための象徴でしかなかった。
 だから、それは誰でも良かった。
 まして、仁を知る常任たちはヒロムが研究している「力」をあてにしていなかった。
むしろ、「命の水」があればいいのではないか。プロセスも、教義も、すでに、完成しているのだから。
 次の日のセレモニーに向けて、常任と奈美江が協議をはじめ、「宰」の存在を感じさせるニュアンスを保持し、その存在の神秘性を強調するように講和を持っていくことで話は付いた。

 その日以来、ヒロムの捜索は行われなかった。

太陽の光はまぶしくて3

2010年02月04日 17時18分54秒 | Weblog
なぜ、名古屋か。

 それは徐々にその活動範囲を拡大していた「流魂」の名古屋支部ができたからだ。
 支部といっても常任で中官に位置する者の一人が家庭の事情で家業を継ぐことになり、一度、脱退したのだが、その時、バイト生活で食いつないでいた常連で中位に位置する者を仕事を紹介するといって、連れて行ったのが始まりだった。運送関係の仕事をしながら三人は夜の時間にナンパをし、日々の性的な欲求を満たそうとしていたのだが、その方法として、「流魂」のスタイルが非常に役立った。「教え」を伝えることによって、それに傾倒する人間が出てきた。が、最後の詰めの部分で、力が足りなかった。性的な戯れはその場限りで終わってしまい、継続することがなかった。
 中官は本部にコンタクトを取り、名古屋支部という形をとるので「命の水」を提供してくれないかと申し出た。「流魂」の常任たちはその頃、アップグレイディングポリシーに支えられてきた組織の限界を感じていた。役職が足りなかった。そこに、名古屋の支部の話が持ち上がった。偶然とはいえ、それが拡大の起爆剤になった。常任は岸折奈美江を支部長にすることを条件に名古屋支部の開設と「命の水」の提供の申し入れを受け入れた。
 名古屋支部は名古屋駅近くの雑居ビルの一室が借りられた。支部開設に当り、セレモニーが開かれ、ヒロムとヒトミが招かれた。
 ヒロムはケビンを連れてきた。というより、その頃、ヒロムがケビンを手放すことがなかった。支部に着き、奈美江を見た瞬間、ケビンがヒロムの手をすりぬけ、奈美江に飛び掛った。奈美江は恐怖のあまり、ケビンを蹴った。奈美江のパンプスのつま先がケビンの腹部を直撃した。
「キャイーン。」
ケビンは狂ったように走り出し、ヒロムの股を抜けて、名古屋市内に消えてしまった。ヒロムはケビンを追いかけた。武闘派の静止も聞かず、ヒロムも走り出した。




太陽の光はまぶしくて2

2010年02月02日 17時00分39秒 | Weblog
 ミサキの父親は脳梗塞だった。幸い命は助かった。が、ミサキに実家に残るように母親と父親の会社で専務を勤める叔父に説得され、ヒカルが一人で「ベース」に戻った。ヒカルはミサキの母親と叔父に気に入られた。父親の意識がはっきりした時点でもう一度、名古屋に行くことになった。

 ヒカルは「ベース」に戻り、皆に事情を説明した。皆は家族のことについて一緒になって心配してくれた。どのような展開が待っているのか、その時は誰も知らなかった。

 リツコさんが産後のキヨミを見に来た。ミルクの飲ませ方や風呂の入れ方、下着の選び方といろんなことをレクチャーしていった。

 ミサキの父親のことで皆が話した。それがキッカケで新しい人についても話した。
「人であることが、大切な部分もあると思うよ。」
「それって、戸籍のこと。」
「うん。」
「戸籍があってもなくても、その世界を作ることはできるんじゃないかな。」
「うん。」
「以前のようなことは・・・・・よくわからないけど、戦争の時代とは少し違ってきていると思うよ。」
そんな話が続き、新しい人(まだ名前が決まっていなかった。)を皆の子供とすることを再確認した段階で、提案がなされた。キヨミには戸籍はあるが仁については確かでない。そこで、ちゃんとした職を持つヒデオと形式的に籍を入れ、二人の子供ということにしようということになった。家族に関わる現実が皆を動かした。
 リツコさんに、その話をすると非常に喜んだ。手続きについて最良の方法は未婚の母として出生届けを出し、ヒデオと婚姻届を出した後、養子縁組するのなら、問題はないということだった。
 仁はというと、皆の話を聞いてはいたが、良くわからないのか解ったのかが、皆にはわからなかった。それでも、ほんとうに嫌なら、あるいは、何らかの弊害を察知していたら、何か行動を起すはずだった。
 そんな話の最後に、ヒカルが奇妙な話をした。名古屋駅で新幹線に乗るまでに時間があったので地下街を散策した時のことだった。地下街から地上に上がる階段を登り、ふと、脇の路地に目をやると一人の髪の毛はボウボウで、鬚が伸びほうだいの男が紙袋を抱えるようにして座っていた。
 なぜか、目が合った。
男は、じっと、ヒカルを見た。ヒカルも男を見た。ヒカルはどこかで見たような気がした。でも、思い出せなかった。男は、目を伏せた。ヒカルは振り向き、歩き出した。が、気になって、もう一度、見ると男も見ていた。新幹線の中でもずっと気になっていた。
「ヒヒヒヒ。」
仁が突然、ヘンな笑い方をした。皆はびっくりした。新しい人のための計画を立て、就寝した。
 アキコは何も思わなかったのか。
その夜、ヒデオとアキコはしっかりと交わった。その気持ちを確かめるように、心と身体の全ての部分で一つになった。