「調査対象になっているんで、質問に答えてくれないかな。」
「いつから、ここにいるのかな。」
「出身はどこ。」
「年齢は。」
「名前は」
「前の職業くらい教えてくれてもいいだろ。」
「別に逮捕するわけじゃないんだから。警察じゃないし。」
「おい、なんか言えよ。それとも、しゃべれないのか、おまえ。」
「木戸さん、そいつはだめだよ。ほか回りましょう。今日はノルマ、四十人だから、急がないと。」
「けっ、しょうがねえなあ。」
それから、三日後、カリさんがいなくなった。
カリさんはあれから、酒が手に入ると誘いに来た。
中央公園で飲んで、必ず、した。
それでもよかった。
強制排除が行われたのは、それから、一週間くらいしてからだった。
港区の施設に入れられた。
カリさんはそこにはいなかった。
四畳半を半分に仕切ったような部屋で簡易ベッドと布団があった。
窓もあったが半分に仕切れていたから閉切りだった。
その日、収容された二十人くらいは最初に銭湯につれていかれた。
区役所の職員の監視の下で風呂に入った。
普段は閑散とした銭湯が、その日は、路上生活者の集団で臭かった。
埃の臭いとアスファルトの臭いと体臭とすっぱいような臭いと。
番台に座っていた店主は鼻をつまんでにボイラー室に逃げ込んだ。
風呂に入ることなど考えてもいなかった。
面倒くさかった。
中には単純に喜ぶ人間もいた。
子供のように興奮し、女湯をのぞくものもいた。
「何だ。だれもいねえよ。」
銭湯の前には臨時休業の看板がおいてあった。
衛生処理班、通常は、管理者の要請によって、独り暮らしの老人の死去にともい、遺品処理と殺菌、消毒をする係りの人たちが入浴後の消毒のために待機していた。
「消毒したって、臭いが取れなかったらどうするんだよ。」
「大丈夫です。こちらの薬品は、市販されているものとは違いますから、臭いは残りません。」
「でも、客がみてたら・・・・。補償はしてくれるのかよ。」
「その件については、後で、区役所のほうで・・・。」
身体を洗わずボーっとしていると職員に注意された。
単純に喜んだ人間が回りの人の背中を流し始めた。
勝手に身体に触られた。
「きれいだねえ。女の肌みたいだ。」
周りの人がその声に反応してジロジロ見た。
振り向いて殴ろうと思ったが、やめた。
それでもよかった。
担当職員が、何度も、何度も、同じ質問をした。
答えるのが面倒くさかった。
あきらめた。
「次。」
解放されたので、様子を見て、逃げ出した。
簡単だった。
「いつから、ここにいるのかな。」
「出身はどこ。」
「年齢は。」
「名前は」
「前の職業くらい教えてくれてもいいだろ。」
「別に逮捕するわけじゃないんだから。警察じゃないし。」
「おい、なんか言えよ。それとも、しゃべれないのか、おまえ。」
「木戸さん、そいつはだめだよ。ほか回りましょう。今日はノルマ、四十人だから、急がないと。」
「けっ、しょうがねえなあ。」
それから、三日後、カリさんがいなくなった。
カリさんはあれから、酒が手に入ると誘いに来た。
中央公園で飲んで、必ず、した。
それでもよかった。
強制排除が行われたのは、それから、一週間くらいしてからだった。
港区の施設に入れられた。
カリさんはそこにはいなかった。
四畳半を半分に仕切ったような部屋で簡易ベッドと布団があった。
窓もあったが半分に仕切れていたから閉切りだった。
その日、収容された二十人くらいは最初に銭湯につれていかれた。
区役所の職員の監視の下で風呂に入った。
普段は閑散とした銭湯が、その日は、路上生活者の集団で臭かった。
埃の臭いとアスファルトの臭いと体臭とすっぱいような臭いと。
番台に座っていた店主は鼻をつまんでにボイラー室に逃げ込んだ。
風呂に入ることなど考えてもいなかった。
面倒くさかった。
中には単純に喜ぶ人間もいた。
子供のように興奮し、女湯をのぞくものもいた。
「何だ。だれもいねえよ。」
銭湯の前には臨時休業の看板がおいてあった。
衛生処理班、通常は、管理者の要請によって、独り暮らしの老人の死去にともい、遺品処理と殺菌、消毒をする係りの人たちが入浴後の消毒のために待機していた。
「消毒したって、臭いが取れなかったらどうするんだよ。」
「大丈夫です。こちらの薬品は、市販されているものとは違いますから、臭いは残りません。」
「でも、客がみてたら・・・・。補償はしてくれるのかよ。」
「その件については、後で、区役所のほうで・・・。」
身体を洗わずボーっとしていると職員に注意された。
単純に喜んだ人間が回りの人の背中を流し始めた。
勝手に身体に触られた。
「きれいだねえ。女の肌みたいだ。」
周りの人がその声に反応してジロジロ見た。
振り向いて殴ろうと思ったが、やめた。
それでもよかった。
担当職員が、何度も、何度も、同じ質問をした。
答えるのが面倒くさかった。
あきらめた。
「次。」
解放されたので、様子を見て、逃げ出した。
簡単だった。