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長期金利が最低に 一時マイナス0.165%

2016年06月13日 | 経済
長期金利が最低に 一時マイナス0.165%
日本経済新聞 夕刊 1面 (1ページ) 2016/6/13 15:30

 13日の債券市場で長期金利が低下し、過去最低を更新した。指標となる新発10年物国債の利回りは一時、前週末比で0.015%低下(価格は上昇)のマイナス0.165%となり、前週末につけたこれまでの最低であるマイナス0.155%を下回った。英国の欧州連合(EU)離脱懸念の高まりなどで「投資家のリスク回避姿勢が続いた」(東海東京証券の佐野一彦氏)。

 新発20年物と5年物国債の利回りも過去最低を更新した。20年債利回りは一時前週末比で0.020%低い0.170%、5年債は0.005%低いマイナス0.270%になった。

 日銀の大規模買い入れを背景に市場では国債の利回りは低く(価格は高く)推移する期待が根強い。投資家のリスク回避姿勢が高まると国債の需要が強まりやすい傾向がある。「目安となる10年債が買われたことで5年債と20年債にも(買い需要が)波及した」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の稲留克俊氏)


英のEU離脱 是か非か

2016年06月13日 | 国際政治
創論
英のEU離脱 是か非か
ナイジェル・ローソン氏/ロマーノ・プロディ氏
日本経済新聞 2016/6/12 3:30

 欧州連合(EU)からの離脱か、残留か。その判断を問う英国の国民投票が23日に行われる。離脱となれば、世界の政治、経済への影響は計り知れない。離脱の是非と影響について、離脱を支持する英元財務相のナイジェル・ローソン保守党上院議員と、残留派で、かつて欧州委員長も務めたロマーノ・プロディ元イタリア首相に聞いた。

■独自の貿易戦略、可能に 英元財務相 ナイジェル・ローソン氏


 ――なぜ英国のEU離脱を支持するのですか。
 「まず言いたいのは、離脱派は決して孤立主義を掲げているわけではないということだ。英国は歴史的に米国と特別な関係を持ち、大英帝国時代から築いたアフリカ、アジアまで広がる英連邦諸国もあり、新興国との関係も強化している。英国の強さはこのグローバルな視点にこそある。それなのに今はあまりにも多くのEUの規制や権限に縛られている。地理的には欧州のなかにあるが、EUを離れて、グローバルな視点で独自の戦略を追求したほうが、英国にとって有益だ」

 ――EUに属する意味が薄れてきたということですか。

 「EUの大元となった欧州石炭鉄鋼共同体の設立は、2つの大きな大戦を経て、ドイツの脅威を封じ、新たな大戦を防ぐことが出発点だった。たしかに現在もロシアなどの脅威はあるが、安全保障上は北大西洋条約機構(NATO)の枠組みがあり、そのほかにもテロなどグローバルな地政学リスクに対応するための国際体制がある。EUに加盟する理由にはならない」

 「一方、各国の主権に対するEUの権限は強まるばかりだ。欧州司法裁判所は英国の最高裁判所よりも優位に立ち、EUの法令が英議会の法律よりも上位にある。金融危機を受けてEUが導入を決めた金融取引税に、オズボーン英財務相は英国の金融業の競争力が低下すると猛反対したが、受け入れられなかった。EUの最終目的は常に政治統合であり、経済統合を重視する英国とは相いれない」

 ――キャメロン首相は「離脱すれば英経済に悲劇が訪れる」と訴えています。

 「全く同意しない。80年代を思い出してほしい。70年代に『欧州の病人』といわれるほど経済状態が悪かった英国は、思い切った改革を行う必要があった。当時財務相だった私をはじめサッチャー政権が取り組んだのは、規制緩和であり、民営化であり、金融ビッグバンなどの徹底した構造改革だ。英国はすでにEC(欧州共同体)に加盟していたが、そのおかげで経済が立ち直ったわけではない」

 「英経済の基本は改革マインドだ。だが今はEUの規制が多すぎて、こうした改革を進めることすら難しい。企業や投資家が立地や投資を決める際に最も重視するのは税制や規制環境であり、その国がどの経済共同体に属しているかは決定打ではない。EUを離脱して、企業や金融街シティーの競争力を高める規制緩和を行えば、むしろ長期的には英経済の成長力が高まる」

 ――「離脱すれば貿易協定で不利な扱いになる」と懸念する声は多いですが。

 「残留派はEU単一市場に参加することによる関税の減免措置の恩恵を強調するが、世界的に自由貿易の流れが強まっている。EUの域外関税の平均は3.6%とごくわずかだ。関税措置がなくなってもたいした打撃ではない」

 「大事なのは貿易を拡大することであって貿易協定ではない。英国は貿易協定がなくても、日本や米国、中国、インドなどと活発に貿易している。参加国の多いEUは他国との自由貿易協定(FTA)も一向に進んでいない。むしろEUを抜けた方が、独自に貿易戦略を進め、世界貿易機関(WTO)に対しても英国の主張を貫くことができる。多くのEU加盟国よりも高い成長を遂げているスイスは2国間の貿易協定を軸にしているが、英国も離脱後の交渉で有利な条件を引き出せる」

 ――国民投票を巡り保守党内の亀裂も深まっています。

 「保守党は歴史ある党で、これぐらいで分裂したりしない。ただ、キャメロン首相への信任は今後の言動いかんでぐらつく可能性がある。キャンペーンを通してキャメロン氏は国民に離脱の恐怖を訴えすぎている。仮に投票結果が10%以内の僅差なら、2度目の国民投票を実施する圧力が党内からも高まるだろう」

 ――EUの未来像をどのように見ていますか。

 「個人的には財務相だった80年代から統一通貨ユーロには反対してきた。結果はもう明白ではないだろうか。債務危機は繰りかえされ、域内の経済は低迷し、若年層の失業率は高止まりしている。にもかかわらずEUはなお権限を増大し、統合を深化させようとしている。残留派はEU離脱後の英国の姿が見えないと批判するが、私からすればEUの未来こそ見えないのだ」

(聞き手はロンドン=小滝麻理子)

 Nigel Lawson サッチャー政権下で閣僚を歴任し、財務相として規制緩和や民営化を主導。EU離脱運動の中心人物の一人。84歳。

◇     ◇

■国際政治で影響力弱く 元欧州委員長 ロマーノ・プロディ氏


 ――英国のEU離脱に強く反対していますね。
 「EUには英国が加わっていてしかるべきだとの思いがある。国民投票をすること自体が間違いだ。(離脱の可能性が浮上したことで)英国はEUでの存在感が弱くなった。キャメロン首相は残留のために『これ以上EUとは緊密にならない』というが、容認しがたい。国際社会で重要な役割を持つには結束したEUでなくてはならない」

 「英国の離脱が世界に発するメッセージも懸念する。例えば、インドは英国の眼鏡を通して欧州をみるからだ。アフリカの大半もそうだし、オーストラリアもそうだ」

 ――昨年からの難民危機の影響をどう見ていますか。

 「難民問題は離脱運動の大きな論点だ。『英国が難民に侵略される』とまでいう人もいる。だが国民投票を行う決定は、今ほど問題が深刻になる前のことだった。英国が常に離脱を望む世論を内包していたということだ」

 ――ギリシャの債務問題などは離脱派に「結束する欧州」の負の側面と映るのでは。

 「英国は単一通貨ユーロを採用していないのでギリシャ問題が大事だとは思わない。より重要なのは過去20年にわたり英メディアが『EUは強すぎる。EUの官僚はいらない』という論陣を張ったことだ。EUは無駄遣いをする怪物のように扱われた。欧州委員会の予算は域内総生産の1%に満たないのに」

 「英国の論調は常に『我々の方が優れているのだから、できの悪い連中に統治されたくない』というものだった。現実離れした意見だ。だが今は英フィナンシャル・タイムズも『ブリュッセルの方が英国の官僚主義よりマシかも』と離脱に反対している」

 ――離脱派の背後にナショナリズムを感じますか。

 「もちろんだ。だが、その根底にあるのは中間層の崩壊と収入の(伸びの)停滞であり、さらには中国などの台頭への不安だ。それはドイツやオーストリア、イタリアにもみられる。本質的には英国のEU離脱とは無関係なのに離脱派に追い風になっている。その全体的な流れこそが、最も心配すべきポイントだ」

 「将来への不安は米国や日本にもある。グローバル化は貧しかった国の成長に貢献し、裕福な国に新たな課題を突きつけた。(途上国に富が行き渡る)世界的な社会正義が先進国の内部を分断したという意見があり、そうした反応がポピュリズムの政党と結びついたのが英国の離脱問題だ。不安や格差が離脱派をここまで強くしてしまった」

 ――スイスやノルウェーのようにEU非加盟でも強い経済を維持する国はあります。

 「スイスは国連機関を多く招致する一方、国際的な問題に関与していない。経済では限られた産業でスキルを高めた。欧州に2つ目のスイスは存在し得ない。ノルウェーは資源国で人口も少なく、英国との違いはさらに大きい」

 「英国は欧州の金融センターだから離脱の影響は大きい。もっとも経済的な損害の予想は誇張が多すぎる。壊滅的とまではいかないだろう。離脱しても英国経済は生き延びるが、国際政治の場で消滅する。それが私の見方だ」

 ――投票後の英国とEUの関係をどうみますか。

 「どちらに転んでも『2段速度の欧州』になる。より緊密になるための努力をする国と、それを拒む国に分かれる状態だ。英国など複数の国はもとから、検査なしで国境を越えられる協定にもユーロにも加わっていない。その構図がより鮮明になる」

 「だが20年もすれば誰もがEUの重要性を再認識するだろう。かつて英国は欧州経済共同体(EEC)に加わらず、欧州自由貿易連合(EFTA)を主導したが、EECが成功だとわかるとくら替えした。将来を考えれば英国はEUにとどまるしかない」

 ――離脱派にはEUが「ドイツ1強」になったことへの不満もあるのでは。

 「ドイツが強いのは自前の規律と美徳があるからだ。それに加えて、過去15年でフランスが段階的に弱くなったこともある。ドイツと距離を置こうとして離脱を求める運動はフランスやスペイン、イタリアでもあるだろう。だが欧州には誰もが入れる傘は1つしか開かれていない。それはドイツの傘だ。英国は既にかつての力を失い、(離脱で)それを取り戻すこともない。EUにとどまった方がいくらかの影響力を残せるのだ」

(ローマで、原克彦)

 Romano Prodi イタリア商工相などを経て96~98年と06~08年に同国首相。99~04年に欧州委員長を務めた。76歳。

◇     ◇

<聞き手から>独立国家の誇りと郷愁


 「良い機会だから少しご案内しましょう」。取材後、こう切り出したローソン卿と、19世紀からロンドン中心部に鎮座する薄暗い国会議事堂を歩いた。「民主主義の源がここにあるのです」。ローソン卿の言葉が重く響いた。
 移民や労働規制、経済・貿易政策などEU離脱派の主張は多岐にわたるが、根底にあるのは独立国家の誇りだ。「英経済の神髄は改革」と語るローソン卿には、1980年代に市場重視の構造改革をやり遂げた自負がにじむ。

 だが、そこには失われた大英帝国の栄光への郷愁に似た響きがあるのも否めない。冷戦終結から四半世紀。急速なグローバル化で世界は変わった。英経済を支えるのは今や欧州など世界中から受け入れる資本や人材だ。EU離脱が引き起こす混乱と停滞は英国を一時的にせよこの流れの「圏外」に押しやりかねない。

 復古的な名誉ある孤立に舞い戻るのか。23日の投票で英国民は、世界と向き合う姿勢を問われる。

(小滝麻理子)