
森村誠一の『暗殺請負人 刺客街』を読了。

まずストーリーの設定。三十二万石の某藩の殿様の妾腹と血のつながらない妹るいの冒険サスペンス。
この主人公鹿之助の設定がよく出てくる話で陳腐。
鹿之助は無類の剣豪で権力欲がなく恬淡として、市井のおんぼろ長屋の人気者。
るいは絶世の美女。殿様の後継ぎ候補者NO1として、期待されているが、藩内には
薩摩藩で起きた「お由羅騒動」と同じような敵の存在がある。これが幕府大老と結びついて後継有力
な鹿之助を亡き者にしようとする。
その争闘に長屋の烏合の衆が一致協力して鹿之助・るいを守ろうと立ち上がる。
筋としては実に面白いし、エンターテイントメントとしては最高。
しかし、心のどこかで「待てよ!森村ってこんな作家だっけ?」、「悪魔の飽食」続編含めてしっかり
読んだことがある。強烈な印象とある意味での怒りと感動があった。
社会派作家として見ていたのだがある日本屋で森村の時代小説を見つけて何冊か読んだ。
今回の鹿之助物語はまったく大衆小説で、作家が読み手の方へすり寄って行ってしまっている。
売文業っていやな言葉があるけどまさに大衆迎合的な作品で、単に愉快なだけ。
これで堂々としている作家もいるし、裏表なしの人気作家が多い。しかし、森村は違うと思うのだけれ
ど、一方的な買いかぶりかな?・・・
風呂での水没事件の本=童門冬二の「江戸管理社会 反骨者列伝」だが、この人の本はたくさん読んで
いる。しかし、元公務員、言おうとしている心底の意図が読み取れない。
ただ歴史的に有名人で「偏屈者」を扱っているだけで、自分が推奨する人間の姿が読めない。
今池波正太郎の時代小説ではない現代物。老いた元劇作家脚本家が主人公の話だが、しっとりとしてこれが
なかなかいい!またいずれ詳しく書こうと思う。こういう作家が好きだな。方向性がしっかりしている。