軽井沢からの通信ときどき3D

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ナガサキアゲハとトランプ大統領(3/5)

2019-12-13 00:00:00 | 日記
 2年前のブログ「ナガサキアゲハとトランプ大統領(1)」(2017.7.14 公開)を書いた当時、目に留まった地球温暖化とトランプ大統領に関する強烈な印象を与える記事の一つが、次の故ホーキング博士のものである。ニューズウィーク日本版が伝えていた。
 
 『地球の気温は250度まで上昇し硫酸の雨が降る』ホーキング博士
                             2017年7月4日
 「アメリカのパリ協定離脱を批判したホーキング博士が、地球の『金星化』を予言。さらにこれを裏付けるデータも。」
 「著名な理論物理学者スティーブン・ホーキング博士が、人類に警告を発した。地球上の気温はいずれ
250度まで上昇し、このままだと手遅れの状況になる可能性があるという。
 2017年7月2日に母校のケンブリッジ大学で行われた75歳の祝賀記念講演でホーキング博士は、アメリカの『パリ協定』からの脱退が原因で、地球上の気温上昇が加速するとの見方を示した。人類にとっての最善策は、他の惑星を植民地化することだと語った。
 ホーキング博士は『地球温暖化は後戻りできない転換点に近づいている』と指摘し、ドナルド・トランプ米大統領によるパリ協定脱退の決断がさらに地球を追い詰めることになると非難した。気温は250度まで上がって硫酸の雨が降るという、まるで金星のように過酷な環境だ。
 さらにこれを裏付けるような調査結果が出た。アメリカ気象学会の衛星データから地球表面と地球全体の温度が連動してどんどん暑くなってきていることが確認されたとワシントン・ポストが報じた。」


1980年代の撮影とされるホーキング博士(1942.1.8-2018.3.14, ウィキペディアから)

 ここで博士が指摘している、「後戻りできない転換点」については、以前のブログ(2019.11.15 公開)で紹介した少女グレタさんが国連でのスピーチで「ティッピング・ポイント」という表現で言及している。

 この「ティッピング・ポイント」とは何か。一般には、「ティッピング・ポイントとは、物事がある一定の閾値を超えると一気に全体に広まっていく際の閾値やその時期、時点のこと。」とされている。

 地球温暖化に関しては、地球の温度がある一定温度以上になると、それが例えば北極海の夏季海氷の融解を引き起こし、それがまた太陽エネルギーの吸収増加をもたらすため、更なる地球の温暖化につながって行くといった連鎖的な変化を引き起こす気温を指している。そうして、急坂を転がり落ちるように、地球は高温の惑星へと変わっていくというものである。

 こうした変化を示す要素は「ティッピング・エレメント」と呼ばれているが、地球の温暖化に関しては、「北極海夏季海氷の消失」のほかにも「アルプス氷河の消失」、「サンゴ礁の白化」、「グリーンランドと南極氷床の融解」などが指摘されている。

 パリ協定で取り上げられた、温暖化の上限値である1.5度、あるいは2度といった数字は、このティッピング・ポイントを示すものとして受け止められている。すなわち、人為的な温暖化ガスの増加により、地球温度が産業革命以前の平均気温よりも1.5度~2度上昇すると、こうした「ティッピング・エレメント」の不可逆的な変化を引き起こして、地球温度は人類が生存できないまでに上昇してしまう危険性があるというものである。

 このことに関して、今年各国の気象に関する専門機関から連盟で、次のような声明が発表されている。日本語への翻訳は、この声明にも名前を連ねている公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)である。

 「著者:Earth League、翻訳者:地球環境戦略研究機関(IGES)、
  出版日:2019年9月、出版者:地球環境戦略研究機関
 私たちは現在、地球の生命維持システムの行方を間違いなく左右するであろう社会・環境システムの二つのティッピング・ポイント(転換点)に近づきつつある。そのような中、世界中の若者たちが迅速かつ協調的な気候行動に向けて立ち上がっている。アントニオ・グテーレス国連事務総長が気候変動対策の『頂点を目指す競争』である気候行動サミット(ニューヨーク)に各国首脳を招請する直前の9月20日、若者たちによるグローバル気候マーチが行われる。彼らの求める持続可能性に向けた社会の転換がすぐにでも実現しなければ、地球上の生命の安定を脅かす地球システムにおける複数のティッピング・ポイントを超えてしまうおそれがある。

 人間の活動の圧力により地球システムの構成要素が危機的なティッピング・ポイントに一層近づいていることが次第に明らかになっている。その結果、地球の気候状態を激変させる非線形プロセスが次々と引き起こされる可能性がある。熱帯のサンゴ礁システムや北極海の夏季の海氷は、1.5°Cの温暖化ですでにリスクにさらされる。また、グリーンランドの氷床は、2°Cの上昇が不安定化のティッピング・ポイントであると考えられている。西南極氷床崩壊のティッピング・ポイントをすでにある程度超えている可能性も排除できず、その場合、地球全体で長期にわたる3メートルの海面上昇が不可逆的に起こると予測される。北極圏では温暖化のペースが最も速いため、北半球でジェット気流が減速し、大きな蛇行パターンを描く傾向にある。その結果、高・低気圧が停滞して大雨や熱波が続くと、それがさらに洪水や干ばつを引き起こし、人々の生活や食料システム、健康、安全が脅かされる。一般的に、気候変動による異常気象の頻度・程度が高まると人々の対応能力が低下するが、これは特に貧しい国・地域に住む人々の脅威となる。正確なティッピング・ポイントはまだ分かっていないが、温暖化が1.5°Cを超えると、レッドライン(超えてはならない一線)に危険なまでに近づくか、それを超えると考えられている。温暖化を2°Cではなく1.5°Cに抑えれば、数億人をさまざまな気候関連リスクから守ることが可能であろう。一方、温室効果ガスの排出量が減少しなければ、『ホットハウス・アース(温室化した地球)』への経路をたどることになり、もはや人類による制御不能となって、ティッピング・ポイントを次々と超えて壊滅的な4~5°Cの気温上昇がもたらされるおそれがある。人類は、過去1万年にわたり享受してきた穏やかな気候を当たり前のことと思っているが、現在の地球の平均気温は、最後の氷河期以降、すでに最も高くなっている。

 これまで明らかになった科学的根拠に基づき、様々な国・自治体及び世界中の数千もの大学が気候非常事態を宣言している。私たち科学者はこの問題の当事者として、これらの宣言を『危機を煽っている』と言うのは完全に見当違いであることを強調したい。それどころか、専門家の評価は通常控えめであるため、こうした評価により意思決定者が気候影響のリスクを(過大評価ではなく)過小評価してきたという見解が広まっている。実際、予想よりも早く深刻な気候影響が起きていることは明らかである。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2001年以降の報告書で毎回、いわゆる『懸念材料(RFC)』の評価を上方修正し、懸念レベルを引き上げている。例えば2001年の報告書では、固有かつ絶滅のおそれがあるシステム(サンゴ礁や先住民コミュニティ等)のリスクは3°C以上の温暖化で『高く』なるとされていたが、現在では、2°C以下の温暖化でも不可逆的崩壊のリスクが『非常に高く』なるとされている。科学の進歩に伴って、グリーンランドの氷床が完全に融解し海面が7メートル上昇するといったいわゆる『大規模不連続事象』(破壊的シフト等)が起こる可能性も、2001年の低リスク(温暖化が4°Cを上回った場合のみリスクが発生)から、2019年には中程度~高リスク(2~3°Cの温暖化でリスクが発生)に引き上げられている。その間も地球の平均気温は上昇し続け、温室効果ガス排出量は2018年に過去最大となった。現状では、控えめに評価しても、今世紀末には温暖化が3°C以上進む(明らかに不可逆的なティッピング・ポイント)と予測されている。地球がこれほどの温暖化を経験するのは400万~500万年ぶりのことなのである。

 世界中の若者たちは、9月20日のグローバル気候マーチへの参加を大人にも広く呼びかけている。私たち科学者も、『ひとつの世代の問題ではない』という彼らの主張に賛同する。地球の運命を握っているのは人類である。子どもたちの世代に気候リスクだらけの不安定な未来を残さないよう政治やビジネスを動かすには皆が力を合わせなければならず、またそれが地球システムの危険なティッピング・エレメント(地球環境の激変をもたらす事象)への最大の抵抗となる。2019年を持続可能な世界へと完全に舵を切る年にすべく、皆さんの賛同によってこの機運がさらに高まることを期待する。

Tanya Abrahamse 地球規模生物多様性情報機構(GBIF)/デンマーク
Ottmar Edenhofer ポツダム気候影響研究所(PIK)/ドイツ
Peng Gong 清華大学地球系統科学系/中国
Daniela Jacob Climate Service Center Germany(GERICS)
Tim Lenton エクセター大学グローバルシステム研究所ディレクター/英国
Wolfgang Lucht ポツダム気候影響研究所(PIK)/ドイツ
María Máñez Costa Climate Service Center Germany(GERICS)
Mario J. Molina マリオモリ―ナセンター/メキシコ
Nebojsa Nakicenovic 国際応用システム分析研究所(IIASA)/オーストリア
Carlos Nobre ブラジル国立宇宙研究所(INPE)/ブラジル
Veerabhadran Ramanathan スクリプス海洋研究所/米国
Johan Rockström ポツダム気候影響研究所(PIK)/ドイツ
Hans Joachim Schellnhuber ポツダム気候影響研究所(PIK)/ドイツ
Peter Schlosser アリゾナ州立大学/米国
Youba Sokona The South Center/スイス
Leena Srivastava TERI大学/インド
Lord Nicholas Stern インペリアルカレッジロンドン グランサム気候変動・環境研究所/英国
武内 和彦 公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
Laurence Tubiana 欧州気候基金(ECF)
Carolina Vera 海洋・大気研究センター CIMA-UMI/IFAEC/アルゼンチン」

 これを追うように、2019年11月26日のNHKニュースと翌日の新聞は、国連環境計画(UNEP)が公表した2018年の世界の温室効果ガス排出量が、二酸化炭素換算して過去最大の553億トンに上ったとの報告書内容を報じた。排出量は過去10年、毎年平均1.5%ずつ増え、削減の見通しは立っていないという。


国連環境計画(UNEP)から公表された世界の温室効果ガス排出量を報じる新聞記事(2019.11.27 読売新聞)

 NHKのニュースでは、「人類の危機が加速」という表題を掲げ、これに関連する事象として、北極海の海氷の上の白クマの親子、台風19号による千曲川氾濫、オーストラリアの森林火災、高潮によるヴェネチア市街の浸水、などの映像を交えて、世界が後戻りできない危機的な状況に近づきつつあることを伝えるとともに、同報告書が日本に対しては「石炭火力発電所の建設中止」と「再生可能エネルギー利用」を求めていると次のように報じた。


過去最悪の数字を報じる(2019.11.26 NHK-TVニュースより)

 また、スウェーデンの活動家グレタさんや若者の映像を示し、「飛び恥」という言葉を紹介した。これは温室効果ガスを大量に排出する飛行機を利用することへの抗議で、「飛行機に乗るのは恥ずかしい」と訴えるものである。そして、これに賛同し、積極的に鉄道を利用する若者の姿や、オランダKLM航空が500キロ以下の短距離路線を鉄道などに置き換えることを検討していると伝えた。

 ちなみに、今回発表された温室効果ガス排出量は、二酸化炭素に換算したものであるが、二酸化炭素単独での数字はすでにBPから公表されているものがある。それによると、2018年の世界の排出量は337億トンとされていて、全体の60.9%に相当する。二酸化炭素以外の主な温室効果ガスには、メタン、亜酸化窒素、ハイドロフルオロカーボン、パーフルオロカーボン、六フッ化硫黄などがある。

 BPが発表している世界全体の二酸化炭素排出量の推移とその中の主な排出国の排出量の推移は次のようである。


世界全体の二酸化炭素排出量の推移(資料:GLOBAL NOTE 出典:BP)


主要10カ国の二酸化炭素排出量の推移(BPの公表数値から筆者が作成)

 おりしも、COP25がスペインのマドリードで開催され、日本からは今年新たに環境大臣に就任した小泉進次郎氏が出席しスピーチを行ったと、次のように報じられた。

 「日本の石炭火力政策に対する世界的な批判を認識していると述べる一方、自身の脱化石燃料への考えが政府内で十分に広がっていないことを認めた。その上で小泉氏は、変化に向けて取り組んでいる姿勢を強調。『石炭政策を含め、日本に対する世界的な批判は認識している』と述べた上で、自身もミレニアル世代(*)・父となる身として気候変動に対する世界的な危機感の高まりを共有していると述べた。(*:2000年代に成人・社会人となる世代)」

 また、これを報じる12月12日付の新聞での扱いは、他のビッグニュースの、吉野彰さんのノーベル化学賞受賞式や、アフガニスタンで銃撃されて亡くなった中村哲さんの葬儀に関するニュースの影響を受けたためか、まことに小さなもので、二酸化炭素の最大排出国中国や米国については触れられていなかった。


COP25に出席した小泉環境大臣のスピーチについて伝える 2019.12.12付けの読売新聞(33面)

 多くの知識人、関連分野の専門家の警告をよそに、増え続ける温室効果ガス。「まだ間に合うはもう遅い」という言葉があるのだが。


 
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