今回はオオルリ。昨年1月に始めた雲場池の朝の散歩では、多くの野鳥に出会ってきたが、中でもこのオオルリは印象深いものとなった。
最初に見かけたのは、昨年4月26日のことで、いつものように遊歩道を歩きながら写真を撮っていたが、さっと目の前を横切る鳥の姿に、青い輝きを認めて追うように視線を移動すると10メートルほど離れた別荘のフェンス脇の木の枝先ににオオルリが止まっていた。
この日めずらしく持っていた双眼式ビデオカメラを構え撮影し始めたが、僅か20秒ほどで、すぐに視界から消えていった。この時の映像は次のようである。
オオルリのビデオ映像(2020.4.26 撮影)
映像内容としては、まともなものではないが、記憶に残る出会いであった。この年はその後オオルリに出会うことはなかった。
そして今年、昨年とまったく同じ4月26日の朝再びオオルリが、今度は後ろから飛んできて、すぐ前の木に止った。
今回は飛び去ることなく、長い時間、周りの木から木へと移動しながら時々囀っていたので十分撮影ができた。
雲場池のオオルリ 1/5(2021.4.26 撮影)
雲場池のオオルリ 2/5(2021.4.26 撮影)
雲場池のオオルリ 3/5(2021.4.26 撮影)
雲場池のオオルリ 4/5(2021.4.26 撮影)
雲場池のオオルリ 5/5(2021.4.26 撮影)
そして、2日後の28日。今度は高い木の上にいるオオルリに気が付き、撮影を始めると、飛び去ることなく、むしろ近寄ってきて撮影に応じてくれた。
ヒタキの仲間はこうした行動を示すことがあると聞くが、私は初めての経験であった。以前、妻の手にコガラが止まったことがあり、その時は随分驚いたのであったが、たいていはカメラを向けると飛び去ってしまうのである。
雲場池のオオルリ 1/7(2021.4.28 撮影)
雲場池のオオルリ 2/7(2021.4.28 撮影)
雲場池のオオルリ 3/7(2021.4.28 撮影)
雲場池のオオルリ 4/7(2021.4.28 撮影)
雲場池のオオルリ 5/7(2021.4.28 撮影)
雲場池のオオルリ 6/7(2021.4.28 撮影)
雲場池のオオルリ 7/7(2021.4.28 撮影)
いつもの「原色日本鳥類図鑑」(小林桂助著、1973年保育社発行)でオオルリの項を見ておくと、次のように記されている。
「形態 ♂はルリ色で美しい。嘴峰12~14mm、翼長88~96mm、尾長57~66mm、跗蹠15~17mm。♂は頭上光沢あるるり色で以下の背面、尾は藍色。顔、腮、喉、胸は黒。以下の下面は白く脇は黒色。♀は上面暗緑かっ色で下面は淡黄かっ色である。♂の幼鳥は♀に似るが腰と尾はるり色を帯び、風切羽の外弁もるり色である。
生態 我国には夏鳥として渡来繁殖し各地に普通。低山帯に営巣することが多いが、渡りの際には市街地の庭園、公園にもまれでない。高いこずえに止まってピッ、ピッ、ギチ、ギチ、ギチと美声でなく。冬期は中国南部・馬来(マレー)諸島などに渡る。
分布 北海道・本州・四国・九州で繁殖する他、伊豆七島・対馬・屋久島にも渡る。」
姿だけではなく、声も美しい鳥ということになるが、今回は鳴き声は聞けたものの、それほどの美声とは感じなかった。他の図鑑、「野鳥観察図鑑」(2005年 成美堂出版)にも、「雄は樹木の枝先で、大きな声で盛んにさえずる。その声はウグイスやコマドリと並んで日本三鳴鳥といわれるほどの美声であり、雌もさえずることがある。・・・」と記されているのであるが。
ちょうど今の季節はコマドリは聞けないがウグイスが盛んに鳴いている。それとミソサザイの長い囀りが聞かれ、私はこのミソサザイも三鳴鳥に勝るとも劣らないと思っているのだが、オオルリの美声も聞いてみたいものと思う。
ところで、オオルリの羽のこの美しい青色は、カモ類の翼鏡の青色にみるような金属光沢ではないが、やはり構造色だとされている。次の写真はオオルリの青色に似たカルガモの翼鏡のとマガモの翼鏡のおよび頭頸部のいわゆるアオクビと言われている緑色である。マガモの翼鏡の色はカルガモも同じで、見る角度が変化しても比較的安定して青色を呈しているが、頭頸部の色は光の当たり具合で緑色~青色~紫色まで変化する。
カルガモの翼鏡の青色構造色(2020.5.18 撮影)
マガモの翼鏡の青色と頭頸部の緑色構造色(2020.1.29 撮影)
マガモの頭頸部の色が変わって見える様子は次のようである。
紫色に輝くマガモ♂の頭頸部の構造色(2020.3.25 撮影)
緑~青~紫色と微妙に変化するマガモ♂の頭頸部の構造色(2020.3.25 撮影)
オオルリの色も光線の当たり具合によっては、例えば頭頂部などは先の写真でも明らかなように、しばしば白っぽくあるいは水色に見える。この頭頂部も見る角度によっては、背の部分と同じようなルリ色に見えることもあるので、羽の構造が背や尾の部分とは微妙に違っているのだろう。
オオルリの構造色については、軽井沢でオオルリの観察をした徐敬善さんのレポートに詳しい(Bird Research News Vol.15 No.7 , 2018.7.10)。
それによると、「羽一枚を詳しく観察 すると,中央の羽軸の両側に複数の羽枝 (barb)が付いている. この一つの羽枝を光 学顕微鏡で観察すると,羽枝を中心として両側に多くの小羽枝 (barbule) が付いている.オオルリの青い羽は実際には羽全体がすべて青色で はなく,羽枝は青い色,小羽枝は黒色だということがわかっ た。(徐2016)」としている。
そして、「この鮮やかな青色は、羽枝の内部のβケラチ ンのスポンジ構造における光の干渉性散乱などによって作 られる(Prum et al. 1999)。一方、小羽枝にはケラチン構造 がなく、メラニン色素があるために黒色味を帯びている。こ の青い羽枝が数えきれないほど重なっており、全体的に羽 をみると青くみえる。(徐2018)」としている。
ところで、このオオルリを見ていると、これこそがメーテルリンクの童話に登場する「青い鳥」かと思えてくる。物語ではチルチルとミチルが探し求めた青い鳥は実在しない象徴的なものであるとされているので、青い鳥はヨーロッパにはいないか、極めて珍しい鳥ということになるのだが。
実際、オオルリの生息域はアムール・ウスリー・中国北東部・朝鮮半島で繁殖し、冬期は中国南部・インドシナ・スマトラ・ジャワ・ボルネオ・フィリピンに渡るとされ、ヨーロッパは含まれていない。
日本にはオオルリの他コルリがいて、よく似た青い鳥といえるが、これも生息域にヨーロッパは含まれていない。
カワセミ、ルリビタキ、イソヒヨドリといった種もまた日本では青色の鳥として知られていて、これら3種はヨーロッパにも生息域が広がっているので、ヨーロッパの青い鳥とみてもいいようだが、これらの羽色には他の色が部分的に含まれているので、やはり理想的な「青い鳥」とは言えないのかもしれない。
一方、名前の方から見るとEurasian Blue Tit というヨーロッパ全域に生息している日本のシジュウカラに近い種がいる。背中などは美しい青色をしているが、全体の配色をみると前3種と同様、青色の鳥ではあっても「青い鳥」とはみなされないようである。やはりヨーロッパにはオオルリのような青い鳥はいないということになる。
Eurasian Blue Tit のプリントされたイギリス製マグカップ
物語の作者メーテルリンク(Maurice Maeterlinck, 1862年8月29日 - 1949年5月6日、ベルギー生まれ)は最も大きな成功作であるこの『青い鳥』(1907年発表)などにより1911年にノーベル文学賞を受賞している。
1919年には米国に渡り、その後1930年にはフランス・ニースで城を買い取っていたが、1939年母国滞在中に欧州で第二次世界大戦が勃発すると、彼はナチス・ドイツのベルギー・フランス両国に対する侵攻を避けリスボンへ逃れ、更にリスボンからアメリカに渡った。彼は、1918年のドイツによるベルギー占領を批判的に書いていたからである。
また、ドイツとその同盟国であった日本には決して版権を渡さないよう、遺言で書き記しているという。
もっとも、『青い鳥』が刊行されたのは1908年で、日本では1911年には翻訳が出ているので、戦前に日本の出版社は『青い鳥』の版権を獲得している。
しかし、遺言の影響もあり、戦後1980年頃まではメーテルリンクの新たな作品は翻訳されていなかったが、その後は遺族との交渉で版権が取れるようになったとされている。さらに、2000年以降は日本ではメーテルリンクの著作権が切れたので、現在は問題がなく刊行ができているという。