軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

チョウの楽園と写真展

2021-12-03 00:00:00 | 
 信濃追分の「蝶の楽園」で出会ったTさんに誘われて、上田市のサントミューゼで開催された写真展に出かけてきた。

 Tさんにいただいた案内ハガキによると、作品の出展者は5人で、「東信の希少昆虫を守る会 五人写真展」と題して行われているもので、「東信地方の希少な蝶・トンボ」の代表としてミヤマシロチョウとマダラヤンマの写真が裏面に印刷され、上田市教育委員会と東御市教育委員会が後援している。


写真展「東信地方の希少な蝶・トンボ」の案内ハガキ(表と裏を左右に示している)

 当日会場でいただいた説明資料には、展示されている全写真の解説と共に、この写真展開催の趣旨が次のように書かれていて、横には五人の撮影者のプロフィールも紹介されている。皆さんの年齢をみると、64歳から75歳とどなたも私に近い方々である。

 「『自然豊かな信州』
 信州には、日本の屋根とも呼ばれる南北中央アルプスや八ヶ岳、浅間山、広い草原にニッコウキスゲが咲き誇る霧ケ峰、美ヶ原、湯ノ丸高原、そして千曲川、天竜川、木曽川が潤す盆地には豊かな田園風景が広がり、全国でも稀な自然環境に多くの生きものたちが生息していました。
 しかし近年、その豊かな自然環境は急速に変化しつつあります。地球温暖化に伴う森林の荒廃、半自然草原の減少、農地や里山の荒廃、異常気象による集中豪雨、増えすぎた鹿による高山植物の食害などです。このような自然環境の変化により、本来いなかった哺乳動物が侵入したり、草原環境に生息していた昆虫たちが減少したりしています。
 私たちの住む東信地方にもかつては多種多様な蝶やトンボが生息していましたが、既に見られなくなってしまった種類や辛うじて細々と命脈を保っている種が何種かあります。
 本写真展では、このような現状を知っていただくため、東信地方で主に野生生物や昆虫を対象としている私達五人が撮った、今や希少種(絶滅危惧種)となってしまった代表的な蝶やトンボの写真を展示しました。
 2021年10月                    代表 堀  修(090-7275-7265)
 (協賛:アイ写真工房、浅間山系ミヤマシロチョウの会 後援:上田市教育委員会、東御市教育委員会)」

 
写真展「東信地方の希少な蝶・トンボ」の説明資料(表)

写真展「東信地方の希少な蝶・トンボ」の説明資料(裏)

 展示されていた写真には、蝶では長野県天然記念物のミヤマモンキチョウ、ミヤマシロチョウと東御市天然記念物のオオルリシジミをはじめとして、ヒメギフチョウ、ヤマキチョウ、ギンボシヒョウモン、キマダラモドキ、ヒメヒカゲ、コヒョウモンモドキ、アサマシジミ、ゴマシジミ、スジグロチャバネセセリ、アカセセリ、ミヤマチャバネセセリ、ホシチャバネセセリ、ミヤマシジミ
があり、この他「南方種や外来種の増加」として、アオスジアゲハ、ウラギンシジミ、ムラサキシジミ、アカボシゴマダラ、ツマグロヒョウモンが紹介されていた。

 また、トンボでは小諸市/上田市の天然記念物のマダラヤンマはじめオナガサナエ、アオヤンマ、ウチワヤンマ、クロスジギンヤンマ、オオトラフトンボ、ギンヤンマ、カオジロトンボが展示されていた。

 中でも、ミヤマシロチョウとオオルリシジミについては、別の資料も配布されていて、保護活動の様子を知ることができる。

 ミヤマシロチョウについては、「浅間山系ミヤマシロチョウの会」の活動を示すパンフレットがあり、そこには保護回復事業として「近年、各地で保護活動が始まっています。2010年、浅間山系ミヤマシロチョウの会が設立され、湯ノ丸高原でも保護パトロールや生態調査、環境調査が行われています。」とした内容が紹介されていて、絶滅への危機感が感じられる。現在、東御地区の浅間山系でも安定生息地は烏帽子岳のみになっているという。

 この、ミヤマシロチョウの食樹はヒロハヘビノボラズという不思議な名前の植物と、メギとされている。この葉の裏にかためて50~100個の卵が2~3段に産み付けられ、10日から2週間で孵化した幼虫は、糸を吐いて巣を造り集団行動をするという。

 この段階で、食樹ごと蒐集家に採集されることがあり、絶滅を加速しているという側面が指摘されている。

 成虫が見られるのはオスで7月上旬、メスは1週間遅れて発生するという。

ミヤマシロチョウの生態と保護を訴えるパンフレット

 オオルリシジミの保護活動に関しては、東御市教育委員会が発行した「東御市天然記念物・オオルリシジミ保護活動の記録<2013 改訂版>」が配布されていて、オオルリシジミの生態・形態と、衰亡の経過およびその後の保護活動の経緯が示されている。


東御市天然記念物・オオルリシジミ保護活動の記録<2013 改訂版>(東御市教育委員会発行)の表紙

 ミヤマシロチョウも同じであるが、オオルリシジミの絶滅も、マニアによる密猟という問題が指摘されていて、悲しむべき実態が綴られている。

 この資料の最後に、北御牧のオオルリシジミを守る会・会長 小山 剛氏の次の文章があるので紹介する。これを読むと、一時は絶滅したこの地域のオオルリシジミを地元民が協力して専門家と一緒になって回復させてきたことが判る。

 「2006年3月に保護活動記録誌をまとめてから数年が経ち、守る会の保護活動も10年を越えたことから。その後の活動内容も追記して記録誌改訂版を作成しました。
 東御市北御牧地域におけるオオルリシジミの保護活動は、市発足前の旧北御牧村時代に始まり、当地由来の累代飼育個体の提供、地元農家ばかりでなく、蝶の研究者や行政、企業、学校の参加を得て、野外絶滅と同時に開始できたことなどの好条件が揃って、全国でも稀に見る自然回復を極めて順調に果たせた活動であると認められています。
 天の時、地の利を得て、人の輪が織り成した保護活動として、会員をはじめ関係する皆様方の情熱の成果でもあり、ここに改めて深く感謝を申し上げます。
 北御牧方式とも呼ばれる保護活動の手法をひとつの試金石として、各地で希少な動植物にも目を向けた地域活動が更に盛り上がり、豊かな信州の自然環境が子々孫々へと守り伝えられることを切望するものであります。                      
                                      2013年3月」  
 
 トンボについては、私はほとんど知識がなく、何枚もの写真が展示されていたマダラヤンマも初耳であった。今回このマダラヤンマの撮影をしたHさんが会場におられたので、しばらく話を聞くことができ、日本のヤンマで最も美しいといわれているマダラヤンマの姿が多数収められている素晴らしい写真集も販売されていたので、購入した。ここにはそのマダラヤンマの生態が46ページにわたって紹介されている。

 マダラヤンマは全長63mm~74mmでヤンマの中では小さい方だという。


写真集 「塩田平のトンボたち」の表紙

 蝶に比べると話題になることが少ないトンボであるが、こちらも例外ではなく、マニアによる乱獲で著しく生息数が減少している。絶滅も心配されたことから故安藤 裕先生らのご尽力により平成18(2006)年2月、上田市天然記念物に指定され、平成19(2007)年5月、有志によりマダラヤンマ保護研究会を結成して生態や生息状況の調査と監視活動を実施して現在に至っているという。

 蝶に関していえば、今回の写真展で紹介された種の他にも、東信関係で天然記念物指定種とレッドデータ記載種は多くいる。それらを紹介すると次のようである(「信州 浅間山麓と東信の蝶」⦅鳩山邦夫・小川原辰雄著 2014年 クリエイティブセンター発行⦆から)。

 1.長野県天然記念物(種指定)/1975(昭和50年)2月24日
   ミヤマモンキチョウ、ミヤマシロチョウ、クモマツマキチョウオオイチモンジコヒオド
   シ、タカネヒカゲ、ベニヒカゲ、クモマベニヒカゲ

 2.長野県版・レッドデータブック・動物編(2004)、記載種 
 (県絶滅危惧ⅠA類)
   ツマグロキチョウ、オオウラギンヒョウモン、ヒョウモンモドキ
 (県絶滅危惧ⅠB類)
   ミヤマシロチョウ、クロシジミ、オオルリシジミ、タカネヒカゲ、ヒメヒカゲ、ホシチャ
   バネセセリ、チャマダラセセリ
 (県絶滅危惧Ⅱ類)
   ヤマキチョウクモマツマキチョウ、ゴマシジミ、クロヒカゲモドキ、オオヒカゲ
   スジグロチャバネセセリミヤマチャバネセセリ
 (準絶滅危惧)
   ヒメシロチョウ、ミヤマモンキチョウ、ムモンアカシジミ、ウラナミアカシジミ
   ウラジロミドリシジミ、クロミドリシジミ、オオゴマシジミ、ミヤマシジミ
   アサマシジミ、コヒョウモンモドキ、オオイチモンジコヒオドシキマダラモドキ
   ギンイチモンジセセリアカセセリキマダラセセリ

 前回紹介した「蝶の楽園」、「バタフライガーデン」では食草・食樹・吸蜜花などを植えて、蝶の繁殖を支えていた。今回の写真展では、広く市民に絶滅に瀕している昆虫を紹介することで、その危機的現状を訴えている。

 しかし、まだまだ特定の種に関心が片寄りがちであり、十分とは言えないと感じる。教育・行政に携わるより多くの方々がこうした現状を認識し、実効ある対策を講じてもらいたいと思う。

 また、市民レベルでもより多くの人々が関心を持ち、自宅庭や空き地に蝶の食草・食樹、吸蜜花を植えるなど、蝶が産卵や吸蜜に訪れることのできる環境を少しでも多く用意するようになってほしいものと考えるのである。

 私の手元にある義父のチョウ標本のコレクションにも、上掲の稀少種が含まれているので、それらを次に紹介させていただき本稿を終わる(上記中太字で示した。採集日の年号は昭和)。

ヒメシロチョウ(左/表面、右/裏面)

ヤマキチョウ(左/♂、右/♀)

クモマツマキチョウ♂

ウラジロミドリシジミ(上左/♂表面、上右/♂裏面、下/♀表面)


ウラナミアカシジミ(左/表面、右/裏面)

ミヤマシジミ(左/♂表面、右/♂裏面)

アサマシジミ(同定にはやや疑問がある。上左/♂表面、上右/同裏面、下左/♀表面、下右/同裏面)

オオイチモンジ

コヒオドシ(左/表面、右/裏面)

ベニヒカゲ(左/表面、右/裏面)

キマダラモドキ

オオヒカゲ


アカセセリ(左/表面、右/裏面)

ギンイチモンジセセリ(左/表面、右/裏面)

スジグロチャバネセセリ(左/表面、右/裏面)

キマダラセセリ(左/表面、右/裏面)


ミヤマチャバネセセリ




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