鎌倉に住んでいた頃なので、もう7-8年ほど前になるが、近くの山林で賑やかに長い間鳴き続ける鳥がいて、あれは「ガビチョウ」だと妻が教えてくれた。昼の間家にいる妻の話では、とにかくうるさく鳴き続けるのだという。時には他の鳥の鳴きまねもするらしい。
このガビチョウという名を、私はその時まで聞いたことがなかったが、外来種ということで納得した。手元の野鳥図鑑を見てみるが、3冊あるうちで、ガビチョウを紹介しているのは、2000年発行の「日本の鳥 550 山野の鳥」(文一総合出版発行)1冊だけであり、2005年発行の「野鳥観察図鑑」(成美堂出版発行)には出ていない。また、これは当然だが、いつも参考にしている「原色日本鳥類図鑑」(1973年 保育社発行)にも取り上げられていない。
「日本の鳥 550 山野の鳥」には写真入りで紹介されていて、眼の周囲が太めの白色で縁取りされていて、後方に伸びており特徴的である。漢字で書くと「画眉鳥」というのも納得である。
元は台湾・中国南部・インドシナに分布していたが、1980年代から東京・神奈川・山梨・福岡などで野生化・繁殖が報告されるようになったというこのガビチョウ、鳥類では「コウライキジ」、「シロガシラ」、「ソウシチョウ」、「ドバト」と共に5種が特定外来生物に指定されていて、ウィキペディアには次のようになかなか厳しいことが書かれている。
「ガビチョウ(画眉鳥、学名 Garrulax canorus)はスズメ目チメドリ科に分類される鳥。同属のカオグロガビチョウ、カオジロガビチョウと共に外来生物法で特定外来生物に指定されており、『日本の侵略的外来種ワースト100』選定種にもなっている。
日本では、ペットとして輸入された個体がかご脱けにより定着した。日本国内では留鳥として生息し、南東北、関東、中部、九州北部で見られる。本種が多く観察されるポイントとして、東京都内では高尾山が有名である。・・・」
「体長約 22-25cmで、嘴と尾が長い。体色は全体的に茶褐色~黄褐色で、腹の中央は灰色、喉と上胸に細いすじが入る。尾羽はやや黒い。眼の周り及びその後方に眉状に伸びた特徴的な白い紋様を持つ。嘴の色は黄色。
かなり大きな音色で美しく囀る。ウグイスやキビタキ、オオルリ、サンコウチョウといった他種の囀りをまねることがある。・・・」
「名の由来:和名は中国名の漢語表記を日本語読みにしたもの。中国語: 画眉は、「塗った眉」の意味で、眼の周りにある眉状の模様から。・・・」
「日本に定着した経緯:ソウシチョウ同様、香港および華僑が進出した東南アジア各地で愛玩鳥として広く一般的に飼われていた本種は価格が非常に安価であり、ゆえに1970年代の飼い鳥ブームに乗って大量に輸入された。しかし体色が地味なことや、本種は和鳥と同じく手間のかかるすり餌によらねばならず面倒、といった理由もあって人気がなくなり、大量の在庫を抱えたペット販売業者が始末に困って遺棄(放鳥)に及んだ個体が少なからずあると見られる。」
「生態系に与える影響:現在までとくに確認されていない。だが生息地である里山の生態系においてツグミやシロハラ、アカハラといった地上採食性のヒタキ科鳥類のニッチに相当する本種は、それらを駆逐する可能性がある。・・・」
軽井沢では、朝の雲場池の散歩時にそれらしい鳴き声をたまに聞くことがあり、存在は感じていたが、姿を見たことはなく、あまり気にならなかった。そのガビチョウと先日突然出会うことになった。
寒さが厳しくなってきた11月下旬、雲場池に面した別荘の庭先にカケスの姿が見えたので、超望遠レンズでその姿を追っている時に、地上で餌を探すしぐさをしている別の鳥がいることに気がついた。アカハラかと思ったが、顔が見えた瞬間に、その眼の特徴からガビチョウだと分かった。
しばらく餌を探していたが1分もしないうちに飛び去り、姿を消してしまった。帰宅して写真を確認すると次のように、特徴ある姿が写っていた。
雲場池脇の別荘地の庭で餌を探す鳥(2021.11.30 撮影)
顔が見えて眼の縁取りからガビチョウと判明(2021.11.30 撮影)
別荘地の庭で餌の木の実を見つけて咥えるガビチョウ(2021.11.30 撮影)
人の気配に警戒する様子をみせるガビチョウ(2021.11.30 撮影)
再び餌を咥えてこの後飛び去って行った(2021.11.30 撮影)
このガビチョウは特に姿が美しいということもないので、余りに鳴き声が大きく、うるさいと感じる日本人には合わず、人気がなくなっていったという話はわかるような気がする。
一方、ウィキペディアにも出ていたが、先の図鑑にはこの「ガビチョウ」と並んで「ソウシチョウ」も外来種として紹介されていた。このソウシチョウも一度だけチラと雲場池で見かけたことがあるなかなか美しい鳥で、また出会えるといいなと思っていたが、今回このガビチョウのことを読んでいて、ソウシチョウもまた、飼育されていたものが1980年代から野生化しているのだと知り複雑な気持ちになった。
個々の鳥には責任はないが、野鳥の多い軽井沢ではあっても、ガビチョウはアカハラなどを駆逐する可能性が指摘されるなど、生態系に次第に影響が出てくるであろうことを思うと、やはり安易に外来種を野に放すことは慎まなければならないと改めて思う。
ガビチョウを撮影した日の朝は気温が下がり、暖かい湧き水が源流となっている雲場池にはケアラシが見られた。また、自宅庭に咲き始めていたバラも凍りついていた。元は台湾・中国南部・インドシナなど温暖な地域に分布していたとされるこのガビチョウ、寒い軽井沢でなかなかたくましさを感じさせてくれるのだが。
ケアラシが見られた朝の雲場池(2021.11.30 撮影)
咲き始めたバラも凍りついた(2021.11.30 撮影)