ひょんなことからジャコウアゲハの幼虫を入手することができることになった。かねて興味を持っていた種であり、早速餌の食草の入手のため、小諸のMさんに連絡した。軽井沢周辺には冬の寒さのせいか、ウマノスズクサは見当たらないからである。
Mさんは、ジャコウアゲハやホソオチョウを飼育するために、庭にこれらのチョウの食草ウマノスズクサを植えていたのであるが、これが繁殖して庭木に絡むようにしてはびこってきたので、興味を示した私に、欲しかったら持っていっていいよと昨年訪問時に聞いていたのであった。
その時は、私はまだジャコウアゲハの飼育が現実的なものではなかったので、必要になったらお願いしますと言って帰ってきていた。
今回、突然ジャコウアゲハの幼虫入手の可能性が出たので、Mさんに電話をかけたところ、庭のウマノスズクサはもう葉もだいぶ出てきているので、いつでも取りに来ていいよとの返事をいただき、幼虫を入手できる予定日の6月22日に合わせて、Mさん宅を訪問し、1m以上に延び、2本が絡み合った状態になっている数株と、丈が2-30cmほどの実生と思われる株をやはり数株堀採っていただいて帰った。
入手したジャコウアゲハの幼虫は、ウマノスズクサの葉に止らせた状態であったが、すでに葉をほとんどを食べつくしていたので、早速持ち帰った株から葉を切り取って与えた。
幼虫は、しばらくは元の葉にとどまって動こうとしなかったので、ウマノスズクサの産地の差異を感じ取っているのだろうかと心配させられたが、やがて新鮮な葉の方に移動していき、事なきを得た。
というのは、以前、群馬県にある友人の畑近くでクワコ(天然の蚕の幼虫)を採集し持ち帰って、軽井沢のクワの葉を与えたところ、全く食べようとせず困った経験をしていたからである。
さて、入手時には1齢(追記参照)と思い込んでいたジャコウアゲハの幼虫だが、2日後撮影時によく見ると中に10mm程の大きさのものが4匹いて、これは頭の大きさからすでに3齢になっているようである。残る7mm程の8匹も2齢のようで、入手後に脱皮していたのかもしれない。次の映像はこの2齢と思われる個体を撮影したもので、4匹を撮影し、編集している。
ジャコウアゲハの2齢幼虫(2022.6.24 撮影後編集)
この日の夕方、1匹の2齢幼虫がウマノスズクサの葉上で葉を食べないで静止し、脱皮の準備に入ったと思われたので、ビデオカメラを30倍タイムラプスモードに設定して撮影を開始した。しばらくすると、幼虫はくるりと反転して、しっぽのあった位置に念入りに糸を吐き、脱皮時にしっぽの先をしっかりと固定できるように準備した。
糸を吐いて脱皮の準備をするジャコウアゲハの2齢幼虫(2022.6.24 19:10PM~19:24 PM 30倍タイムラプスで撮影後編集)
葉上にしばらくじっとしていた2齢幼虫の色は、次第に茶色から黒色へと変化していった。そして、翌日の昼頃に脱皮が始まった。次の映像は30倍のタイムラプス撮影をしたものだが、実際の脱皮には10分程度かかっている。
脱皮後しばらくじっとしていた3齢幼虫は、40分ほど経った頃にくるりと反転して、しわしわになっている自身の脱皮殻を10分ほどかけて食べ終わった。この時、頭部の抜け殻はすでに落下しているので、食べることはない。
この様子をビデオで見ていた妻が面白いことを言った。脱皮の時期が近づくと、幼虫の体色は茶色から黒く変化するが、そのことについてである。
幼虫の身体の皮膚部分は、孵化した後には細かく縮んだ状態になっているが、成長するに従い伸びて風船のように広がってくる。そのため、黒く見えていた体色は淡く茶色に変化する。これが本来の皮膚の色と考えられる。それ以上伸びられなくなると、脱皮して新しい皮膚に替わるが、脱皮前になると古い皮膚の下で、再び次の成長に備えて縮んだ状態の新しい皮膚ができるので、これが黒く見えるのだろうという。なるほどという感じがする。
確かに脱皮後の幼虫の色はビロードのような漆黒である。これは表面に細かい皴があって、光の反射を抑えているように見える。そして、成長して体長が2倍くらいになると皮膚は伸びて再び体色は茶色になってくるというのである。どうだろうか。
ジャコウアゲハ2齢幼虫の脱皮(2022.6.25 9:24AM~13:37PM 30倍タイムラプスで撮影後編集)
一方、幼虫の頭部を見ると、孵化した状態で入手した2齢幼虫の頭部の色は黒色であった。3齢への脱皮時にこの黒い頭部は脱落して、下からひとまわり大きくなった、淡黄色の頭部が現れる。この頭部の色は脱皮後徐々に黒くなり、脱いだ自分の殻を食べ終える頃にはかなり黒くなっていることが判る。
頭部は堅いキチン質でできているので、伸縮性は無く、齢を重ねるごとにひとまわり大きいものに置き換わっているるようである。では、この場合の色変化は何か。脱落した頭部の抜け殻はまっ黒なので、殻そのものの色であることは間違いないのだが、脱皮後に光に当たるためか、酸化するためか。
追記:6月24日にアップしていたものに、映像を追加し、再アップしています。幼虫の齢数については、入手時にすでに孵化した状態であったので、正確には判らなかったのですが、その後前蛹になるところを確認し、逆算して判定しています。当初の齢数に修正を加えました。