軽井沢でミヤマカラスアゲハを見かける機会は比較的多く、初夏にとても美しく小さな春型を見かけることもあるし、夏になると旧軽井沢銀座通りを行く観光客の頭上を、悠々と飛ぶ大きな姿を見ることもしばしばである。
写真撮影は、クサギの花の咲く8月上旬になると容易で、以前当ブログでも紹介したことがある(2017.12.08 公開)。
一方、ミヤマカラスアゲハの幼虫を見つけることは意外に難しく、これまでまだ出会ったことはなかった。いつか、卵や幼虫を採集して飼育してみたいものと思い、昨年自宅庭にキハダの苗木を3本植えているが、まだここに♀が飛来して産卵するまでには至っていない。
そんな中、今年ジャコウアゲハの飼育に際して、食草のウマノスズクサでお世話になって以来、時々連絡を取り合っている小諸のMさんから、ミヤマカラスアゲハの幼虫を見つけたので、これから持っていきましょうかとの電話がかかってきた。
ショップが終わったら、夕方に受け取りに伺いますと返事をしたところ、ついでがあるのでこれから届けますということであったので、ご好意に甘えることにした。
実は、今年夏にMさん宅をジャコウアゲハのことで何度か訪問した際、庭に数本あるキハダの木を二人で見て回り、ミヤマカラスアゲハの卵や幼虫を探したことが2度あった。
最初は2齢くらいの、まだ小さくて種の判定がつきにくい幼虫を見つけ、自宅に持ち帰り飼育したが、しばらくしてナミアゲハの幼虫であると判った。
2度目は卵を見つけて、やはり持ち帰り孵化の様子から撮影を試みたが、これもまたナミアゲハのものであった。
そうしたことをMさんにも報告してあったので、その後も気にかけてキハダの木を見て回り、探していただいていたのであろう。今度は間違いなく、ミヤマカラスアゲハの幼虫、終齢幼虫を3匹届けていただいた。
幼虫と共に、餌のキハダの枝先もたくさん持ってきていただいた。終齢幼虫なので餌の葉も十分用意しなければならないことは、Mさんも先刻ご存じである。
ただ、このキハダは水揚げがとても悪い。先に2回ミヤマカラスアゲハだと思い幼虫を飼育した時にも、キハダを瓶挿しして与えていたが、新しい葉を切り取って与えても、1日と持たずにカサカサになってしまう。それでも幼虫はその水分の少なくなった葉を食べてはいたが、さすがに可哀そうになり、庭のキハダの苗木の葉に移し、ネットをかけて飼育を続けたのであった。
すでにナミアゲハであることもわかっていたので、撮影することもなくなっていたからである。このナミアゲハの幼虫は蛹になるのを見届けてから、生まれ故郷のMさん宅に届けておいた。
今回、Mさんが幼虫と一緒に持参してくださったたくさんのキハダの枝先は、すぐに水に漬けておいたが、翌日にはすでに萎れはじめていた。ジャコウアゲハの幼虫を飼育する時に与えたウマノスズクサはこうしたことがなく、Mさん宅の庭で切り取っていただいたものは1か月ほどは萎れることがなく、幼虫は無事に蛹になった。
今回は、すでに終齢幼虫に育っていて、たくさんの葉が必要と思われたことと、ミヤマカラスアゲハの幼虫であることが確実なので、撮影のためにも何とかキハダの葉を長持ちさせなければならないと思案したが、以前オオムラサキの飼育をしたときにやはり餌のエノキの枝葉の水揚げがとても悪いと知り、いろいろと調べたことがあったことを思い出した。
妻にそんな話をしたところ、エノキの場合は、枝の付け根の上下を切り、切り口を上下両方とも水に漬かるようにして瓶挿しするとよいのではなかったかと、思い出してくれた。次のようにするというのである。
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ミヤマカラスアゲハの幼虫飼育時に用いたキハダの瓶挿し方法
早速、その方法を試したところ、顕著な効果があり、これでキハダの葉を数倍長持ちさせることができるようになった。どちらもいわゆる水切り、すなわち水中で枝をハサミで切ることはしているのだが、両者でこれほどの差が出る理由はよくわからない。
ともあれ、こうしてMさんからいただいた3匹のミヤマカラスアゲハの終齢幼虫の飼育を始めた。同じ終齢幼虫ではあるが、大きさの異なるものであった。今回目指すのは蛹化時の撮影である。上記の方法で瓶挿ししたキハダの葉を食べて幼虫は順調に大きくなっていった。
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ミヤマカラスアゲハの終齢幼虫 A(2022.10.9 撮影動画からのキャプチャー画像)
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ミヤマカラスアゲハの終齢幼虫 B(2022.10.9 撮影動画からのキャプチャー画像)
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ミヤマカラスアゲハの終齢幼虫 C(2022.10.9 撮影動画からのキャプチャー画像)
しばらくして、幼虫のうちの一番大きかった1匹(A)が餌の葉を離れて飼育ケースの中を這いまわるようになった。
前蛹になるサインの液状の便もしていたので、以前ジャコウアゲハに用いた螺旋状の針金をとり出して、ここに止まらせて、前蛹になり、続いて脱皮して蛹になることを期待したが、思うようにはいかない。気が付くと、幼虫は、飼育ケースの底に敷いてあった新聞紙の裏側に回り込んで、そこで糸を吐いて前蛹になる体勢を作ってしまった。
こうなると、再び移動するのは難しいと判断し、そのままにして何とか撮影できるようにカメラの前にセットした。幼虫はここで、糸かけを行ったが、回数は思ったより少なく、すでに何回か糸をかけた後であったのかもしれない。その様子を30倍のタイムラプスで撮影した。次のようである。
ミヤマカラスアゲハの蛹化【1】糸かけ(2022.10.15, 22:29~23:06 30倍のタイムラプスで撮影)
そのまま撮影を継続したところ、翌日脱皮して蛹になった。次の映像は、約10時間、30倍のタイムラプス撮影したものを、編集したものである。
ミヤマカラスアゲハの蛹化【2】脱皮(2022.10.16, 18:59~10.17, 05:03 30倍のタイムラプスで撮影後編集)
この蛹はそのまま越冬して、来春羽化するはずである。ミヤマカラスアゲハの夏型は、クサギなどの花に吸蜜に集まってくるところを撮影することができるが、春型は見かけることはあっても、撮影のチャンスはこれまでもてなかった。
無事冬を越して、来春の羽化のチャンスに撮影できることを期待しようと思う。