軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

台湾

2023-03-17 00:00:00 | 日記
 大阪・堺で一人暮らしをしていた母と、私と一緒に訪ねて行っていた妻とが、もうずいぶん前のことになるが、ある時実家近くで行われた歌手・女優のジュディ・オングさんの木版画展を二人で見に行ってきたのだという。2012年11月頃のことであった。

 地方の小さな町でこうした展覧会が開催されるのは珍しいことだと思うが、会場となった北野田フェスティバル(堺市立東文化会館文化ホール)の5周年記念イベントとして開催されたとのこと。

 二人が持ち帰ったパンフレットには、「ジュディ・オング倩玉 木版画の世界展」とあり、展示作品などを収めた画集「ジュディ・オング倩玉  倩玉的世界 木版画集」も買い求めてきていた(ジュディさんの名前の漢字は、倩と人偏に青の両方が用いられている。ここでは変換の都合で倩を使わせていただく)。


「ジュディ・オング倩玉 木版画の世界展」(2012年開催)のパンフレット(表)


同裏面

 ジュディ・オングさんと言えば、私がまだ中学生の頃だったと思うが、子役としてTVドラマに出演している姿を見た記憶が印象に残っている。その後は歌手として活躍する姿もみていたが、版画家としての活動については知らなかった。

 画集に収められている「木版画歴」を見ると、25歳の頃、棟方志功門下生・井上勝江氏に学び木版画を始めたとあるので、母と妻が出かけた版画展開催当時でも35年以上作家活動をしてきていたことになる。芸能活動と合わせ立派な二足の草鞋である。

 画集の目次を見ると、木版画「花」(20点)、木版画「日本家屋」(36点)、木版画「想」(11点)とあるが、これをみると日本家屋の美を追求した作品が多く製作されていることがわかる。上で紹介したパンフレット(表)に見られる作品『涼庭忘夏』(2008年、第40回日展入選)も京都「南禅寺」の近くにある湯豆腐屋の玄関口だという。写真と見まごうばかりの精緻な描写である。

 この日、母と妻は「台湾に行ったことがあるの?」、「いいえ」、「行ってみたいわね」と言葉を交わしたという。

 その結果、この年の年末に私を加えて3人の台湾行きが決まった。私自身は仕事で数回台湾に出かけたことはあったが、台北市内の観光地に立ち寄る機会はなかったので、3泊4日の楽しい旅行になった。

 この時の旅の手配はすべて妻が引き受けてくれたが、現地では若い男性Aさんが案内役を勤めてくれて、マイクロバスで各観光地を巡るものであった。

 国立故宮博物院、忠烈祠、鶯歌・陶器の町、台北101、龍山寺、二二八和平公園、中正記念堂を訪れたり、京劇を観たり、自由時間には夜市に出かけたりしたが、この旅の最後の4日目の予定はジュディ・オングさんの版画のモチーフになった場所に行くために空けてあった。

 前述のように、ジュディ・オングさんの版画の題材の多くは日本家屋であったが、母が記念にと気に入って買ってきた1枚の絵葉書は、「微風柔水 2000年製作 日展入選作品」と題されたもので、建物の内部に設けられた渡り廊下を描いたものであった。

 画集で調べてみると、この版画には次のような解説文が添えられていた。

 『微風柔水』 びふうじゅうすい 2000年 H1150xW1340 第32回日展入選

  この茶藝館「友竹居」は、台北市桃園の中央大学側にあります。
  学生が放課後に、グループあるいは先生方と軽くご飯を食べた
  りお茶を飲む所です。私が特に気に入ったのは、各部屋へつな
  がる中国独特の渡り廊下でした。蘇州庭によく見られる千曲廊
  下なのです。間から見え隠れしている柳、そして渡り廊下の下
  は池で、太った鯉たちが悠々と泳いでいました。初めて日本家
  屋のテーマを離れ、中国の風景に挑戦した作品です。

 絵はがきの題材に選ばれていたのは、日本家屋ではなく、台湾の建物であった。この時の台湾旅行では、旅行のきっかけを作ることになった、ジュディ・オングさんの版画の題材に選ばれていたこの場所を、ぜひ訪れてみたいと思っていたのであった。

 この解説文の内容を案内役のAさんに伝えてあったので、調べてくれていて、1月3日には目指す茶藝館「友竹居」に案内してもらうことができた。

 ここで軽い昼食をとったが、案内していただいた部屋は、かつてジュディ・オングさんも来ていた所とのことで、壁にはその時の写真が掛けられていた。

 Aさんは、私たちがジュディ・オングさんの版画のことで、日本からわざわざこの茶藝館にやってきたのだと、店の人に伝えてくれていたので、この部屋を用意していただいたのであった。


「友竹居」で案内された部屋の壁に掛けられていたジュディ・オングさんの記念写真(2013.1.3 撮影)

 食後、版画で描かれていた渡り廊下に案内していただき、Aさんにお店の女性と一緒に記念写真を撮ってもらったのが次の写真である。絵葉書と比べるとほぼ同じ場所であることがわかる。

「友竹居」の渡り廊下でAさんに撮影していただいた記念写真(2013.1.3 撮影)


ジュディ・オングさんの版画展で母が購入した絵葉書


渡り廊下の下の池で、悠々と泳ぐ太った鯉たち(2013.1.3 撮影)

 「友竹居」を出てそのまま空港に向かったが、その車の中でAさんが台湾の徴兵制度で兵役についていたのだと知った。大陸の中国に攻撃されると、台湾は瞬殺ですと笑って話してくれたが、観光地として、また近年電子産業などで繫栄するようになった台湾にそうした事態が起こらないことを願うばかりであった。

 しかし、近年その懸念は増大している。台湾有事という言葉も頻繁に耳にするようになったし、台湾有事は日本有事であるとの発言もある。

 緊張の度合いを増す台湾や日本を取り巻く東アジア地域。自然災害だけでも国家の将来を危うくしかねないとされる中、営々と築き上げてきた国家・国民の財産を戦争によりいとも簡単に破壊されているウクライナでの惨状を見るにつけ、人間社会の未成熟さを見る思いがする。

 こうした事態をアジアで招かないための各国の政治・外交努力に期待がかかる。

画集「ジュディ・オング倩玉  倩玉的世界 木版画集」の表紙と、茶藝館「友竹居」でお土産に買った茶葉の容器
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする