10月31日の購読紙に、「県学生科学賞」のうち、小中学校と高校の県知事賞を受賞した研究内容や受賞者の思いが紹介された。次のようである。
「長野県学生科学賞」県知事賞の受賞を伝える2023年10月31日付の読売新聞
この県知事賞受賞研究では、3件のうち、小学校と高校の2件がチョウ・ガに関する研究であった。
*小学校の部
八並伸之介君 岡谷市立長池小4年
蚕殺さず糸取り挑戦
『野蚕を死なせずに糸を取る方法を考える』
「絹糸は繭から取れるが、繭を煮る際、さなぎが死んでしまう。さなぎを生かしつつ糸を取る方法はないかーーー。この二律背反の命題にチャレンジした。受賞に『言葉に表せないくらいうれしい』と笑顔を見せた。
大の昆虫好き。5年前から、ヤママユ、クスサンなど絹糸を作る野生のガ『野蚕』の卵や幼虫を採取し、成虫まで育ててきた。嫌われがちなガだが、『いろいろな色があり、美しい。顔もかわいい』。殺さずに糸を取る方法をずっと考えてきた。ウスタビガの卵を多く採取できた今年が『ビッグチャンス』だと思った。
ウスタビガを成虫まで育てたことはなかったが、ウスタビガは羽化する前から繭の上部に穴があることを知っていたので、完全にさなぎになる前に、穴から幼虫を取り出すことにした。・・・
糸取りの方法は難航。ウスタビガの繭が水に溶けないたんぱく質を含んでいるためで、本に書いてあった炭酸ナトリウムで煮る方法を試したら、紫色のたこ糸のような糸を取り出すことができた。・・・
繭は二重の層からなり、糸が取れるのは内側の層であることも発見した。・・・
実験や研究報告づくりを手伝ってくれた父母に感謝しつつ、『将来は生物学者になりたい』と話していた。」
*中学校の部
小松和滉君 諏訪清陵高校付属中3年
葉の開閉AIで判定
『深層学習を用いたオジギソウの開閉状況の定量化による就眠運動の解明と制御』
「オジギソウの葉の開閉についての研究で3年連続の受賞。県知事賞は2年連続で、『去年より研究に進歩はあったかなと思ってはいたが、予期していなかった。驚きと同時にうれしい。』とほほえんだ。
今回は開閉状況を定量化するツールを開発した。・・・
観察の結果、オジギソウの開き具合のピークは午前7時頃と午後1時頃。覚醒物質と就眠物質の二つのホルモンの増減でこうしたピークを描くという仮説を立て、今後も研究を続ける。・・・」
*高校の部
松下郁果さん 飯田高1年
チョウ休眠 比較研究
『キアゲハの休眠条件~モンシロチョウやアゲハ、アオスジアゲハと比較して~』
「チョウが冬の寒さなどに反応して活動を止める『休眠』の条件について研究した。・・・
『キアゲハだけに作用する(気温の低下や日長以外の)第3の条件があるはず』という姉の思いを受け、小学6年の秋頃から徐々に研究を(姉から)引き継いだ郁果さんが着目したのがエサだった。セリやニンジンの葉などのキアゲハのエサは秋から冬にかけて少なくなる。『エサを食べられないことで休眠のスイッチが入るのでは?』との仮説を立て、気温、日長、エサの量の3条件を組み合わせて休眠率を比較した。
その結果、低温環境が続いて幼虫の動きが鈍って代謝が落ち、エサを食べる量が減ることが休眠に作用していると考えられることを突き止めた。・・・「さらに研究を深めたい」と目を輝かせている。」
この「(長野)県学生科学賞」は第67回日本学生科学賞の県審査などを兼ねたものとされる。
ちなみに、「第67回日本学生科学賞」(読売新聞社主催、旭化成協賛)について公式ホームページをみると、次のように書かれている。
「1957年にスタートした日本学生科学賞は、中学生、高校生を対象にした歴史と伝統のある日本最高峰の科学コンクールです。毎年9~10月、身の回りの小さな疑問や不思議の解明、教科書に書かれている学説に対する疑問の解決などについて、 個人、もしくは生徒が共同で取り組んだ実験・研究・調査作品を募集しています。 応募作品には専門家による書類審査とプレゼンテーション審査を行い、優秀な作品を表彰します。」
そして、「物理、化学、生物、地学、広領域(複数の分野にわたる研究など)の5つの分野は都道府県ごとに募集。地方審査を通過し、 都道府県代表に選ばれた作品が中央審査に進みます。 」とあるので、今回はその前段の県審査結果でであることが判る。また、日本学生科学賞には小学校の部は含まれていないので、今回の知事賞に選ばれた小学校の部の研究は県独自のものであることがわかる。
それにしても、3件の知事賞のうち2件にチョウ・ガを対象とした研究が選ばれたのは、さすが長野県という印象である。
県学生科学賞の詳細はウェブサイトで閲覧が可能(11月30日までの限定公開)であり、次のような内容である。
〈主催〉長野県教育委員会・長野県科学教育振興委員会
〈後援〉伊那市教育委員会
〈協賛〉読売新聞社・才能開発教育研究財団
〈三賞〉県知事賞・県議会議長賞・県教育委員会賞
〈その他の賞〉優良賞・奨励賞・入選
〈受賞研究〉
*小学校の部 48件
県知事賞1、県議会議長賞1、県教育委員会賞1、優良賞12、奨励賞5、入選28
*中学校の部 18件
県知事賞1、県議会議長賞1、県教育委員会賞0、優良賞2、奨励賞3、入選11
*中学校(部活)の部 8件
県知事賞0、県議会議長賞0、県教育委員会賞1、優良賞1、奨励賞1、入選5
*高等学校の部 69件
県知事賞1、県議会議長賞1、県教育委員会賞1、優良賞6、奨励賞1、入選28
全部で143の科学研究作品がエントリーされているが、その中から、ここでは私の趣味の関係で、チョウとガに関するものを取り上げると次のようである。小学生の発表が圧倒的に多い。
*小学校の部
1.カワイイおカイコさん(入選、小2・依田大武)
2.ウマノスズクサを保存食にしてジャコウアゲハにあたえられるか(優良賞、小3・江戸穂高)
3.チョウのひみつ大発見3 ~ヒメギフチョウへん~(奨励賞、小3・内川空士)
4.野蚕を死なせずに糸を取る方法を考える(県知事賞、小4・八並伸之介)
5.ツマグロヒョウモンの観察(卵からサナギ)(入選、小4・山本優奈)
6.ナミアゲハの卵 全部羽化させたい2!~保存食を極める!!~
(県教育委員会賞、小5・西澤ひなた)
7.蚕の観察3(優良賞、小6・平出咲穂)
*中学校の部
なし
*高等学校の部
1.キアゲハの休眠条件~モンシロチョウやアゲハ、アオスジアゲハと比較して~
(県知事賞、高1・松下郁果)
前記の県知事賞の他に6件の研究報告がある。これから詳しく読んでみようと思っているが、とても楽しみである。