軽井沢からの通信ときどき3D

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ウスタビガ(4)羽化

2018-12-21 00:00:00 | 
 ウスタビガの孵化に始まり繭作りまでの成長の過程を映像で追ってきたが、最後に羽化して繭から出てくるところを見ていただく。やはり羽化の瞬間はどの昆虫でも同じで一番ドラマチックなものと言えるだろう。卵から孵化して、決して美しいとはいえない毛虫になり、次にはミイラのような形をした蛹になり、そしてそこから抜け出して蝶や蛾に変身して出てくるときには、見違えるような姿になっている。

 次の動画はウスタビガの♀が繭から這い出て、翅を伸ばすまでの羽化の様子を追ったものであるが、撮影のための照明を嫌ってか、繭から出てくるとすぐに繭の後ろ側に回り込もうとする。仕方がないので、繭を180度回して、正面から撮影を続けようとしたが、また嫌われてしまった。この傾向は後ほど見ていただく、♂の場合も同様であった。

 普通は、羽化直後の無防備な状態に、天敵に襲われるのを避けるために、羽化は夜のうちに完了するようになっているのであろう。そのため、人工的な照明を避けるような行動をとるものと思える。こうした習性は昆虫の体内時計によって支配されていることが判っていて、自然界では「アメリカシロヒトリ」の羽化などは夏の夕方に次のように一斉に起きることが知られている。

 「・・・夕方四時前には、一匹の羽化も見られない。四時から、ごくポツポツと羽化してくるガが見られる。この状態が六時ごろまでつづく。六時半、日が沈む。とたんに羽化する個体数は二十分あたり三倍、四倍とふえていって、日没後一時間たった七時半にはピークに達する。あるデータによれば、四時から六時までの二時間に羽化したガは三十匹であったが、六時から八時の二時間では、百二十匹に達した。そして、八時半から九時をすぎると、羽化はピタリととまり、翌日の夕方まで、羽化してくる個体は一匹もない。・・・」(日高敏隆著 「昆虫という世界」1979年発行 朝日選書)

 では、今回は夜22時頃に始まった、ウスタビガの羽化をみていただこう。
  

ウスタビガ♀の羽化(2016.10.8 22:26~22:49 撮影動画を編集 )

 ♀のお腹は大きく、後述するように、繭の出口は酵素で軟らかくなっているのであるが、それでも出口から出てくるのは一苦労のようである。

 繭から出てきたときにはまだ翅は縮んだままで、伸びていない。繭につかまり、空間を確保してから、しずかに翅を伸ばし始める。これは、口から空気をのみこんで腸をふくらまし、その圧力で体の中の血液を翅脈の中へ送り込んで、翅を押し伸ばしていくとされている(前出「昆虫という世界」)。その様子を30倍のタイムラプスで撮影した動画は次のようである。


ウスタビガ♀の羽化後の翅の伸長(2016.10.8 22:50~10.9 00:10 30倍タイムラプス撮影動画を編集)

 ウスタビガの繭には、前回のこのブログで紹介した通り、出口があらかじめ作られていて、羽化するときにはここから這い出してくるようになっている。ヤママユの繭の場合には、繭は完全に閉じられていて、羽化時の出口はない。そのため、ヤママユは口から酵素液を吐き出して、繭の上部を溶かし、出口を作ってそこから這い出してくる。

 ウスタビガの場合は、あらかじめ繭には出口が用意されているので、繭を溶かす必要はないと思っていた。しかし、作成後3か月近く経過した繭壁は硬くなっていて、出口は容易には開かない。やはり、酵素液の助けを借り、繭糸を溶かさないまでも、出口周辺を軟らかくして、這い出しやすくする必要があったようだ。

 続いてウスタビガの♂が羽化してくる様子を見ていただく。以前このブログで、3D動画撮影と並行して撮影した写真を紹介したことがあるが(2016.10.21 公開)、それはその頃はまだ動画の編集がうまくできなかったからであった。今回、繭から出てくるところは通常撮影したものを、繭から出て翅を伸ばすところは30倍のタイムラプス撮影したものを用いて編集した。
 
 繭の中で、蛹から出た幼虫は、酵素液の効果で軟らかくなった繭の出口から慎重に外の様子を伺うようにして這い出してくるが、この間約30分かかっている。そして、繭から一気に這い出してからあとは、ゆっくりと約1時間20分ほどをかけて翅を伸ばす。


繭の出口に口から酵素液を吐きだして湿らせる(2016.10.8 18:41 撮影動画からのキャプチャー画像)


ウスタビガ♂の羽化(2016.10.8 18:58~20:51、通常撮影と30倍タイムラプス撮影を編集)

 翅を伸ばす力は血液であると先に紹介したが、この個体は左前翅中央部の翅脈に傷があったためか、そこから血液が漏れ出していた。これが多量になると翅の伸展が妨げられて、完全に伸びきらないという悲劇になることもあるようだが、今回の場合は、幸い傷口が小さかったのか、その漏れた量は少なく、翅は無事伸びていった。

 ♂の触角は、♀に比べると幅が広く大きい。これは、以前ヤママユでも紹介したように、♀が出す誘引物質であるフェロモンを敏感に検出するための装置として有効に働くように進化した構造である。

 腹部は、♀に比べると細く、すっきりとしている。

 次に、同時期に羽化した別の個体の、羽化直後の姿を回転させながら見ていただく。♀の翅の色は薄く黄色みを帯びている。一方♂の翅の色は濃く、その濃さには個体差も見られる。翅形状も♀は前翅先端部が丸みを帯びているが、オスでは尖り、先端部が曲がっている。

 ♀の腹部はご覧の通りふっくらとして大きいが、そのことを反映して、繭の段階でも大きさは♀の方が大きく、羽化前におよその見当がつくぐらいである。羽化直後の♀のお腹には卵がぎっしりと詰まっているのであろう。


羽化直後のウスタビガ♀(2016.10.4 撮影)


羽化直後のウスタビガ♂(2016.10.8 撮影)

 ♀では羽化するとすぐに、肛門付近をしきりに動かすしぐさが見られるが、これはフェロモンを発散し♂を呼び寄せているもののようである。先に羽化していた♂は、遠く離れた場所にいても、このフェロモンを敏感に感じとり、羽化直後の♀が掴まっている繭に飛来し、そこで交尾する。♀は繭表面に数個の卵を産み付け、少し軽くなってから別の場所に飛び立っていき、あちらこちらに産卵するものと思われる。


羽化後、繭にぶら下がったまま交尾するウスタビガ(2016.10.9 10:30 撮影)

 ウスタビガの繭表面には、このようにして卵が産みつけられていることがしばしばみられるのであるが、同じヤママユガ科の他の種ではこうしたことは見られないようである。これは、ウスタビガの繭が、長い柄の先に作られていて、周囲には産卵できるような場所が見当たらないことと関係しているのかもしれない。

 







 


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